No.45 ドレスとお出掛け1
ピチュピチュと鳥の鳴き声を聞きながら、食後のティータイムを楽しんでいると続き部屋の奥から悲鳴が聞こえる。
いつもハーツしか使わない部屋で、私のドレスや装飾品が保管されている。
そんな部屋からの悲鳴は、ホラー映画さながらなヤバさ。
「ちょっとっっ、どうしましょう!誰よ、私の渾身の作品達を壊したのはぁぁぁ!」
悲痛な叫びと一緒に部屋に戻ってきたハーツは、私の肩をガシッと掴むとガクガク揺らしてくる。
その勢いに朝食のリバースをしかけて、グッと我慢して止める。
「ハーツ!す、ストップ!分かるように説明して」
「そうですよ。ハーツが飛んでいるのは何時もの事ですけど、今のままガクガクしてるとティア様が酔いますから」
冷静にハーツを私から離して、こぼれた紅茶をサッと片付けるユーリ。
そう、まずは説明プリーズ!
「あら、失礼。でもでも!聞いてちょうだい~マズイわよ!ハーツモデルのドレスが、全部使えなくなったわ!ほら、見てちょうだい!」
グイグイ引っ張られて連れてこられた部屋にあるドレスは、破かれたり染みがつけられたり。
ハーツモデルは、ハーツがデザインから刺繍、補整など最初から最後までフルオーダーのドレス。
ハーツの趣味趣向が、めい一杯詰まっているドレスの数々。
私はあまり好みがないから、全てハーツ任せになっちゃう。
また、それなりに見えるモノを作り出すからそうなるのは仕方ない。
丸五年はずっとハーツモデルに、お世話になっている。
「これは、また…」
「本当ですね…。これだと困りましたね」
「え?なんで??」
ドレスは普段着にしてないし、何が問題あるんだろう?
普段着はシンプルなドレスで、寝室のドレッサーに一杯入ってるし。
うーん、と首を傾げていると、またガシッと肩を掴まれてガクガクされる。
今度はユーリも止めてくれない。
「本当に言ってんの?!ティーちゃん、頭のネジ大丈夫??六日後の婚約披露の夜会の完璧ドレスがないのよぉぉぉ!」
「あっ…、」
「忘れていたのですか?大切な事なのに」
「もうっ!どうすれば良いのよ!今からなんて間に合わないわぁぁぁ!」
ガクガク揺らされてる私と、叫びながら私を揺しているハーツ。
「ちょ、ちょっと落ち着こう」
私を揺らしてもドレスは修繕出来ないし、何も解決しないよ!
全然話聞いてくれないのに途方にくれて揺らされていると、コンコンッと壁をノックする音が聞こえた。
「おはよう。こっちの部屋は初めてだね」
「ちょっと聞いてちょうだい、サンちゃん!ティーちゃんのドレスが無くなっちゃったの!このままなら、婚約披露の夜会、出られないわぁぁぁぁ!」
更にヒートアップするハーツに、サンエーリ様は驚いた後すぐに提案してくる。
「私の国なら四日で完璧なドレス出来るから、今からお忍びで行こうか?」
「そうだな。夜会には最高の姿で出て欲しいからな。転移魔法使えば一瞬だし、今から行ってデザイン決めようぜ」
「本当に?!良かったわ~♪デザインは私に任せてもらうわよ!ティーちゃんのドレスアップは、私の役目なんだから!」
「ちょっ!」
「じゃ、ハーツ殿も一緒にどうぞ。私達もドレスを選びたいね」
「ありがとう♪ティーちゃん、早速最短で用意するわよ!あるドレスでお忍びお姫様に、仕上げてあげるわ!」
一気に嘆きから上機嫌になったハーツは、私をまたズルズル引きずって行く。
こうなると、ハーツの暴走は止まらない。
私の寝室のドレッサーを漁って、ライトブルーのドレスを出す。
可愛いレースがあしらわれているのがポイント。
一人で着られる前ボタンにリボンは、本当に重宝する。
裾のヒラヒラレースも、意外とそれなりを演出してくれている。
靴もお揃いのライトブルーの五センチヒール。
若先生として、貴族の屋敷にお邪魔する時によく着るお気に入りの装い。
『ちょっとお出掛けなだけだから、あまり頑張り過ぎなくていいよ?』
サンエーリ様が言ってくれた言葉に、有り難く甘える事にした。
まぁ、現在ドレスがあればこんな事になってないから、これ以上は無理だけどね。
ドレスに着替えて、ヘアーセットと軽い化粧して出来上り。
気がついたら、ハーツまでお出掛けの装いになってて、呆れてしまう。
私的な訪問のために、私の筆頭はハーツの一人だけ付き添い。
お土産は、花束と花の種。
「じゃ、行くけど準備いいかい?」
「大丈夫。お願いします!」
ハーツに花束をお願いして、私はサンエーリ様の魔法に集中する。
私の転移魔法は、基本知っている場所しか移動出来ない。
だから、意識を集中してサンエーリ様の魔力を追いかける。
ぐにゃ、と視界が歪んだ後、すぐに整えられた広い庭がと目に飛び込んでくる。
花や木を見れば、セレーネと違う国だと分かる。
「ようこそ、エメラル国に。ドレスの事が終わったら、色々と案内」
「きぁぁぁ!ルフール様っ!ヴィヴィ様!」
「ルフールっ!ヴィヴィっ!」
サンエーリ様の言葉に被さったのは、またしても悲鳴だ。
若い女性の声に私が振り返ると、ちょっと離れた大きな木がある場所に、人が輪になって上を見上げている。
目を凝らすと、調度二階ぐらいの木の枝に座る二人の子供。
少年の手には、傷ついた仔猫が抱かれている。
ーーミシッ!
少しの動きでも、枝が怪しい音を立てる。
私は何も考えずに駆け出す。
木の真下に来ると、指を鳴らして枝を固定して風魔法で舞い上る。
二人の前で停止すると、驚いた顔の子供二人が私を見る。
「大丈夫だよ。もう少しだけ、そのままでいてね?」
「う、うわぁぁぁ!」
「ルフールっ!!」
頷いた少年の方が、風に煽られて揺れると体が傾く。
少女の高い声が少年を呼ぶ。
「エアーシールド!」
私は少年の体を抱き締めると、下の地面にエアーシールドを張る。
地面に当たる前に、シールドが体を優しく包み込んでくれる。
ポヨンッと弾む体が面白いのか、少年は笑顔を浮かべる。
「大丈夫?」
「うんっ!お姉ちゃん、スゴイ魔法使いなんだね~!これ、楽しい~♪」
猫を抱いたままはしゃぐ少年を見ていた少女が、上から声をかけてくる。
「わたしも降りたいわ。ねぇ、魔法使いのお姉様お願い!」
両手を差し出して、お願いする少女の可愛いこと!
兄妹なのか、目鼻立ちがそっくりで空色の瞳に金色の髪。
大きな瞳が印象的な二人だ。
私は少年を離して、また飛び上がると少女の手を繋いでエアーシールドに飛び込む。
その間、悲鳴と叫び声が聞こえたのは気にしない。
「うわ~フカフカね♪すごい魔法使いなのね~!」
「これは簡単な魔法だよ。風が体を受け止めているだけだから」
簡単な魔法で、特別スゴイ訳でもない。
ただ、私の使い方がちょっとこちらでは変わっているだけ。
私の知識には前世の記憶があるから、科学が混ざる魔法になる。
全ての属性の使い方に、科学が多少混ざってしまうのはご愛敬だ。
パチッと指を鳴らすと、エアーシールドが少しずつ霧散していく。
「ルフール、ヴィヴィ!」
「母様っ、ごめんなさい!」
「ごめんなさい、母様!」
私達の前に現れた金髪美女。
オレンジ色のマーメイドラインのドレスを着た、ちょっとタレ目気味の綺麗な人が困った様に少年と少女を見る。
白い肌に映えるドレスと、綺麗な顔立ちがマッチしている美女に見とれてしまう。
綺麗なお姉さん大好きです!
年齢的に二十代後半だから、お姉さんで良いよね。
「ありがとうございます。うちの子ったら、本当にヤンチャで困ってて。…あら、可愛い魔法使いさんは、初めましてよね?」
コテンッと首を傾げる美女に、悶えて良いよね。
おっとりとした空気が流れる中、私の背後を見て二人のお子様が声を弾ませる。
「サン叔父様とリーフ叔父様っ!」
「こんにちは、姉上・ルフール・ヴィヴィ。彼女は手紙に書いた私達の愛しい婚約者で、今日はちょっと姉上にお願いがあって来たんだ」
「あらあら。可愛い魔法使いさんは、私の義妹になるのね~♪お願い事聞いちゃうわよ!」
ふふふっ、と笑顔を浮かべる美女は、私に向き合うと突然抱きついてくる。
甘い優しい香りに包まれて、うっとりしている私を今度は、シトラス香りが包み込む。
「ズルいわよ~!私も可愛い義妹ちゃんを堪能したいのに!」
「ダメです。彼女は私達婚約者なんですから!」
「じゃ、サンで我慢しとくわ。無事に帰ってきて嬉しいわ」
私ごとサンエーリ様を抱き締める美女に、なんだか胸がモヤッとしてしまう。
何でか分からないまま、話を聞くしかなくて更にモヤッが溜まるのを、ただ黙る事で我慢する。
「カリーナ姉上…、ありがとうございます。でも、用事が終わればまたあちらに戻りますから」
「えー、義妹ちゃんもサンもリーフも滞在しないの?寂しいわ~」
「カリーナ様は相変わらずで。まず、サンとティアを離してあげて下さい。そして、場所を移しましょう。話が出来ませんから」
「分かったわ。この時間なら庭園が良いわね。ナナ、準備をお願い、ルフールとヴィヴィはお勉強の時間よ?」
「はい、母様。魔法使いのお姉様、また遊んで下さいね!」
「僕も!勉強頑張りますから、次は空を飛びたいです」
私は頷いて二人に手を振る。
元気に手を振った二人を見送ると、美女は私の手を引く。
サンエーリ様は、仕方ないなという顔で私を離す。
またモヤッとしたモノが、胸にあふれてくる。
眉間にしわが寄りそうになってるのを、我慢して愛想笑いを浮かべる。
エメラル国に来て数分。
なぜか今すぐ帰りたくなってきた。
理由が分からずに、途方にくれてしまう。
綺麗なお姉さんは大好きなのに…。
モヤモヤを抱えたまま、見かけによらずに怪力な美女に私は引きずられる様にして庭園へ誘われた。




