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転生珍獣王女奮闘記  作者: 千里
43/66

No.43 日常から一大事


ただいま、ソファーに土下座しています。

なぜか?

理由は簡単。魔力を使いすぎて寝落ちしたから。

起きたのは次の日。

おじじ様が運んでくれたらしいです。

目の前には、ユーリとハーツ。

一応、サンエーリ様とリーフ様は居るけど……二人の意見に賛成なのか、まったく助けてくれません。

のんびりティータイム中。


「言い訳なら聞きますけど?」


「んもう!無茶しちゃダメって約束は、いつ守ってもらえるのかしら?」


「ごめんなさい!でも、あの条件では私の魔力が一番適していたから……」


ゴニョゴニョと言い訳を言っても、ユーリとハーツからの視線は冷たい。

マジで事実なんだよ?!

それでも、二人の説教は相変わらず。


「゛極上の魔素゛でしょ?確かにティーちゃんの魔力が一番だわ。でも、寝落ちする前にナルサスの坊っちゃんに、魔力分けてもらえたでしょ?」


「ごもっとも」


「祖父がいたから良いものの、もう少し危機感持って下さい。ティア様の婚約者の方々の心配も考えてください」


「うぅぅ……了解デス。本当に申し訳ないです」


エンドレスなステレオ説教。

ジェニーをすがるように見ても、苦笑して助けてもらえない。

まぁ、ジェニーはハーツやユーリが説教している時は、毎回苦笑するだけだけどね。

参加はしないけど、止めもしない。

誰か助けて~!

頭を下げながら、心で叫んでみる。

毎回ながら主が誰か分からない状態だよね。

なんて遠い目をして数分。


「今回はこれくらいで、許して上げてくれないかな?」


「反省しているみたいだし。次は側で見張ればいいだけの話だしな~」


助け船のはずなのに、今後ガッツリ背後を固められた気がするのは……気のせいですよね?

うん、気のせいだと思おう!

ソファーで正座していた私は、フワッと浮いてサンエーリ様の膝に着席。

慌てて腰を浮かそうにも、強い腕の締めつけには敵わない。


「ティアは捕まえておかないと、すぐ何処かに行ってしまうからね?」


「捕まえてなくても、ちゃんと帰ってくるよ?」


至極当たり前の答えに、サンエーリは少し考えて私の頭を撫でる。


「私達の所にちゃんと戻ってくるんだよ?」


「そうだな。あまり戻りが遅かったら心配して、探し出すからな?」


やっぱり今回二人にも、ガッツリ心配させちゃったみたい。

リーフ様にいたっては、飼い主とペットみたいな発言になってるし。

私は犬か幼児か?


「本当にごめんなさい。次は心配かけない様に頑張ります…」


「心配は勝手にするんだよ?婚約者さん」


「俺達だから諦めてくれ。心配もするし、離れると気になるのも仕方ない」


よしよし、と頭を撫でる大きなリーフ様の手と、頬を撫でるサンエーリ様の手に参ってしまう。

唸りながら赤くなって、頷くしかなくなる。

元日本人で転生した現在だって、スキンシップスキルは並み以下なんだもん。

私を今まで抱き締めたりしてくれたのは、お兄様とハーツだけ。

だから、心地いいスキンシップをされてしまうと、反応に困ってしまう。

羞恥心と嬉しさの摩訶不思議な同居で、結果赤面して固まってしまうのですよ。


「早く私達に慣れてね?赤くなるのも可愛いけど、会話も楽しみたいからね」


「あの、膝から降ろしてくれたら普通に会話するよ?」


「じゃ、俺の膝にくるか?」


「全然変わってないから!膝から降りなきゃ、意味ないんだよ……」


どっちの膝にいるのではなくて、私は膝から降りて対面的に会話したい。

今は何とか会話出来ているけど、二人はさりげなくスキンシップを仕掛けてくる。

その度に私は、ドキドキさせられるんだから。

平然としている婚約者二人と、生温かい視線の筆頭の三人。

ドキドキ+羞恥心で、極限まで赤くなったり、頭がクラクラしたり。


「もう、あまりウブなティーちゃんをいじめないであげて~見ている分には、面白いけどね!」


「ちょっと、待て筆頭魔導師!本音をペロッと吐き出すんじゃない!」


「嫌ね~!心配も本音よ~?ただ、面白いのも本音なのよね~」


「余計に質悪いから!」


ウフフッと笑っているハーツを、一応睨んでみる。

今の状況で迫力がないのは、百も承知。

だってサンエーリ様の、膝の上なんだから。

案の定…クスクス笑いながら、視線は生温かくて墓穴を掘った感半端ない。

うぅ…っ、と俯いていると遠くから、カチャンと何かが弾ける音が耳に届く。


「なんか音」


「東の宮に火がつけられた!今、火が広がっているのは王様の執務室と、ディル王子様の部屋だと耳にはさんだ」


飛び込んで来たのは、情報収集に回っていたはずのハルクさん。

父様の側には、魔導師の免許もあるブロッサムさんがいるはずだ。

そうなれば、心配なのはお兄様の方。

ネイルさんは剣術では負けなしだけど、魔術には簡単な魔法しか使えない。

おじじ様に似たらしい。

まぁ、お兄様も魔力は多くないけど…前にちょっとだけ教えた、性格の悪い拷問魔法があるから簡単に殺される事はないはずだ。

目を閉じて一回深呼吸をする。


「活動開始。ジェニーとユーリは、父様の所へ向かって。ハーツと私はお兄様の方へ。ハルクさんは、サンエーリ様とリーフ様の側に」


「了解致しました。ティア様も気を付けて下さい」


「大丈夫よ~私とティーちゃんよ?問題なしよ♪」


「大丈夫。最小限に被害押さえるんだから!」


細かい指示を出さなくても、彼等はどう動けばいいか経験で知っている。

頼もしい相棒達だ。


「今の状況だと私達が動いても問題なしだよね?」


「問題ありでしょ!?」


「たまたま現場に居合わせたなら、問題なしだな。じゃ、先に行くとしようか?」


「そうだね。先に行こうか?私達なら、ディルより魔術使えるしね。安心してね?」


サッと私を降ろすと、魔法を発動させる。

そのまま、サンエーリ様とリーフ様の姿はすぐに消え失せてしまう。


「まずいわよ~!さっさとディルちゃんの所へ行かなきゃ」


「俺は放火した変態、追うとしようかな」


「分かった!じゃ、ユーリとジェニー、ハルクさん頼んだよ!」


「まぁ、楽しんでくるよ」


言い終わるのと同時に、ハルクさんは窓からピョンといなくなった。

私とハーツは転移魔法を使う。


すぐに視界がブレて、瞬き一つの秒数で室内が変わる。

赤く染まりつつある室内と、外から聞こえてくるメイドや侍女の慌ただしい声。


「冗談じゃないわよ~!このまま広がれば、ティーちゃんのドレス部屋までダメになるじゃない!渾身の作品達が台無しになるわ~!」


ハーツが騒いだ瞬間、ジュッとあちこちから音が上がって一気に温度が下がる。

軽く手を振る動作だけで、魔法を使いこなすのはさすがテラチート。

小説のメインキャラだけあるよね!


「この部屋はもう大丈夫だよ」


手をヒラヒラ振っているのは、ついさっきまで一緒にいたサンエーリ様。


「あら、王子様さすがよね~!でも、お客様はここまでよ?ティーちゃん、今日のご注文は?」


サンエーリ様とリーフ様に釘を刺したハーツは、私を見てわざとらしく首を傾げる。

綺麗って得ね。何をしても様になるんだから。

肩にかかる髪が流れて、エルフ特有の尖った耳が見える。


「この宮一体を水で被うから、ハーツはその水で火が消えたら、サクッと蒸発させて欲しいの」


「あ~、蒸発ってあの水滴の実験の時の話よね~?大丈夫よ任せて!服を乾かすのと同じ原理なのに、使いかたによっては全然違うんだもんね~」


「魔法も使い方を決めちゃダメ。可能性は無限なんだから」


私が魔力を巡らせて練って、すぐに東の宮全体を水が包み込む。

もちろん人がいる事を考慮して、水の調整も忘れない。

多少濡れるのは、許して欲しい。

後で乾かすから!


「発動。……宮一体、被うの完了。ハーツ、火属性の反応が消えたら蒸発よろしく」


「任せて~♪」


ポツポツとお兄様の部屋にも、水が滴り落ちる。

三人とも、水も滴るいい男!

なんて、言ってみたり。

何かを確認したハーツは、その場で目をつぶって開いた時には、フワッと風が吹いた。


「さぁ、仕上げよ~♪」


ちょっと乾いた風は、辺りを吹き回ると

周囲を乾かして消えていく。

広範囲魔法の割りに、水の魔法は相性が良いのか疲れにくい。

ハーツも風魔法は、得意分野だから丸投げ出来る。

辺りに火の気配が無いことに安心しながら、ふう…と肩の力を抜く。


「お疲れ様。服や部屋の中まで乾くなんてすごいね」


お兄様が湿り気の残る髪をかき上げて、私とハーツの肩を軽く叩く。


「まだ終わってないよ。ハーツ、魔力の軌跡を追える?」


「それには及ばないよ。ゲス一名とゴミ二名確保したよ。俺って役に立つでしょう?」


またしても窓から入って来たのは、紅猫モードのハルクさん。

軽口を叩きながらも、本当に頼もしい人材だね。


「あ、まとめてこの部屋の外の柱に縛ってあるから、処理は任せるよ。姫君の好きにして良いよ~証拠が足りないなら、会話も魔石に記録したから問題なしだと思うけど」


ポイッと私に、緑色の魔石を投げてくる。

本当に紅猫はスゴイ。

数分で犯人と証拠を押さえるんだから。

並みの人には、真似出来ない仕事だ。


「ティアは良いな~」


「はぁ?」


私が間抜けなをすると、お兄様は羨ましそうに私の手の中のモノを見る。

証拠の魔石ならお兄様に渡すのに。

私が前に出るより、王太子のお兄様の方が上手くまとまるはずだし。

両手に魔石を載せて差し出すと、受けとりながらも


「ズルい。ティアには優秀な筆頭が、三人もいるのに!彼まで筆頭に仲間入りだなんて……羨ましすぎる!」


拗ねた様に言い放つ。

それを見ていた紅猫は、顔を左右に振ってお兄様から視線を反らす。


「男はパス。やっぱり女の子が主じゃないと~仕事の遂行率下がる!」


「発想がタラシよね~!ティーちゃんに手出したら、チョンギルわよ!」


「姫君っ!ちょっとこの美人エルフ何とかしてよ~!仕事無事遂行して、チョッキンされそうになるって…俺、可哀相じゃない?」


スチャッと柔らかい動きで、私を盾にするように背後に回るハルクさん。

そりゃ、男子ならチョッキンは遠慮したいよね……女子だから分からないけど。

痛いのは想像できる。


「本当にチョンギられてしまえばいいのに」


ボソとサンエーリ様が、ハルクさんを見て呟く。


「サンとリーフが不安なら、去勢させちゃうとか!」


「是非、アタシとディルちゃんで見事にこなしてみせるわ!」


「ちょっと!姫君~なにこの人達怖い!」


ピョンと私の背中から飛び退いたハルクさんに、私は小さく笑ってしまう。

もう、紅猫は私達の仲間になっているんだ。

それが不思議と嫌ではなくて、必然だった様に感じた。

終始紅猫に大人げない言動と取っていたサンエーリ様も、認めているからの発言だった事が分かった。

無事に筆頭に仲間入りした瞬間だと思う。

後一週間。

最後のケジメが上手くまとまる様に、父様への恩返しをしようと決めていた。

そのために、まずはお兄様と共謀して動かなきゃ。

一段落ついた室内には、明るい笑い声で満ちていた。



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