No.42 missionはウルフ
まず三人で移動してきたのは、多数の目撃があった場所。
本命である青の草原の北側。
馬なら数十分に場所は、踏み荒らされた草や花があるもののそれだけ。
今までだって、氷上ウルフの単独ならたまにいたらしい。
その場合は、生け捕りにして山に戻す。
一匹・二匹の単独なら、第二騎士団のメンバーがいれば簡単に終る。
人と距離を取りたがる氷上ウルフにしては、今回の集団での現象は本当に珍しいとか。
あんなに狂暴になるのも。
「ここには、気配はなし…と」
「そうじゃな。ハズレかの?」
周囲を見渡して各々呟いた私とおじじ様に、ノートに何かを書き込んでいたナルサス様は納得顔で言った。
「氷上ウルフの好物は゛負の感情゛。他者への積年の不幸への願望、禍々しいまでの死への願い。大きければ大きいほど、深ければ深いほど…一定の範囲を超えると、ご馳走になるとか」
「氷上ウルフとて、稀少種と言えど魔獣。極度の興奮状態だったのも、負のエネルギーを感じてだったのかもしれんな…」
「負のエネルギーって…」
「人の妬み嫉み。恨みもあるな。こっちの方向は、青の草原と直線上には城の南側か」
淡々と言うナルサス様に、私は軽く頭を抱えてしまう。
青の草原には誰も住んでない。
よって、簡単に根源が透けて見える。
城の南側は、王妃。母様の宮がある区域。
そこで、ローズニアも暮らしている。
私とお兄様は、東側の父様のメインに生活しているスペースで暮らしている。
妬み嫉み。恨みに怨み。
なぜ、今なのか?
答えは簡単。十五歳の今だから。
逆に今以上の機会はないのだから。
「……ふむ。これは思った以上に、手こずるかもしれんな……」
「餌に何かか見当つくのか?」
流石、仕事馬鹿が仕事意外には…疎いらしい。
私からしたら今更だから、驚きもしない事実だけどね。
母が私を憎んでいるのは、結構有名な話なんだけどな~。
「多分、母だよね…。この時期だしね」
「この時期?……ーあぁ、決まれば将来を左右するからか」
「じゃろな。子の行く末は、ある意味自身のステータスになるからの~。自分に似た娘を、いい国に嫁がせたい気持ちは分かるんじゃがな…」
「それも分からなくはないんだけどね~」
「ディルティア姫は、他人事みたいだな
」
ナルサス様の発言に、肩を竦める私。
だって、さっきも言ったけど今更だから。
産まれた瞬間に、存在否定されていたんだもん。
母の場合は、逆に優しくされた方が怖い。
何か大きな事を企んでいるんじゃないかって。
可愛くないと思われようとも、刷り込み式に否定され続けられてきた私に、母とは他人より遠い存在。
だから母からの仕打ちに対して、悲しいとか寂しいとかの感情は、イマイチ遠くて理解出来ない。
「まぁ、今更ですから。私の事は気にしないで下さい」
「そうか。……すまん」
「いえ。謝られる程の事じゃありませんし、結構有名な話なんで。それより…どうしましょう?」
このまま見つけられないのは困る。
民の誰かがケガしたら大変だ。
まずは探さなきゃ。
さて、どうしたものかと考えていると、ナルサス様は目を伏せて言う。
「大まかな候補は絞れる。後は地道に行かなければならないが」
「ナルサスの坊っちゃんは、探索系の機能が使えるんじゃろか?」
「もう坊っちゃんはやめてくれ、チェルシー殿。魔獣の探索くらないなら、ある程度なら可能だと思う。ディルティア姫も、それくらいなら可能じゃないのか?」
「私は一応。ただ、性能はあまり。そっち方面は、ハーツが得意なんで必要なかったんですよね」
「そうか。じゃ、俺が探索してみよう」
目を閉じて集中するナルサス様に、私とおじじ様は静かに見守る。
周囲は相変わらず静かで、集団がどこかに潜んでいるなんて信じられない。
「怪しい場所は三つ。この先の樹木の場所と、青の草原の奥にある花畑。この場所から右側に向かう岩場」
あげられた怪しい場所を弾き出して、効率の良い道筋を考える。
「近い場所から潰していきますか?」
「それだと…樹木からじゃな。次に花畑、岩場と行くとしようかの?」
「それで構わない。移動は刺激しないためにも、転移魔法はやめた方が良いな」
「たいした距離じゃないし、問題なしですよね。では、行きましょうか?」
私達は氷上ウルフを探すべく、徒歩で移動しました。
結果として、樹木と花畑はハズレでした。
臆病な魔獣がチラホラ。
岩場周辺に近付いた時、急に空気中に冷気が漂う。
「反応では…十五匹ぐらいだろう。ボス級になれば、対話が可能な個体がいるとか」
「よく調べましたね~。そこまで詳しい資料は、一部でしょう?」
「あぁ、まぁ。でも、閲覧可能な本の中で、一冊だけ詳しいのがあったのは幸いだったかもしれないな」
「助かりました。その情報がなかったら、ここまで簡単に来れませんでしたし」
私とナルサス様が話していると、おじじ様が急に剣を抜き構えた。
周囲には氷上ウルフ十五・六匹が、低い鳴き声で私達を見つめている。
さて、生かしたまま移動させるのは、どうしたらいいか?
「無傷と言うのは、難しかいかもしれんのう」
「ボスを探してみるしか…」
私も杖を構えながら、間合いを確認する。
何時でも魔法を撃てる態勢で、氷上ウルフを見つめ続けていると
「この中で、ボスはいないか?俺達は話したいだけだ!」
ナルサス様が、奇想天外と言うか合理的と言うべきか。
真っ直ぐ過ぎる言葉に、奥にいた白い毛の艶やかな気だるげなウルフが歩み出てきた。
「なんだい騒々しいね。ボスって響きは嫌いだけど、この群のリーダーは私だよ。」
驚いたよ、マジで!
問いかけに律儀に答える、群のリーダー。
気だるさが色気漂わせてる、大人な女性のリーダー。
これなら、もしかしたら…。
私も気を取り直して、構えていた杖をポシェットに片付けて向き直ります。
「初めまして、私はディルティア。私は貴女達を討伐したくありません。どうしたら、元の巣に戻ってくれますか?」
「最初に私等を起こしたのはお前達さね。さて、お前達は私等に何をしてくれる?」
「皆さんの欲しいモノを、私の出来る範囲で渡します。」
リーダーさんは、少し考えて怪しく目を細める。
「極上の魔素を。もちろん、ワタシ等全員にだよ?」
うん、魔素=魔力。
極上の魔素とは、純度の高い魔力。
それなら、私でも用意出来る。
「分かりました。私のでよろしければ…それなりに満足して頂けると思いますよ?」
両手に魔素を溜めて練っていく。
綺麗な淡い金色に輝く丸い魔力のかたまりが出来ると、リーダーに差し出す。
リーダーはクンクンと匂いを嗅いだ後に、パクパク無言で食べ始めた。
お気に召した様で一安心。
「ティア、大丈夫か?わしも手伝いしようかのう?」
心配気味に私を見ているおじじ様に、私は笑いながら首を振る。
両手では魔力を溜めて練り続けながら。
「力つきたら交代ヨロシクです!それまでは頑張ります!」
「力つきたらダメだろ。その前に合図しろ」
「……善処します」
「なんで微妙に後ろ向きなんだよ…」
「 そうでもないですよ?前は言わないでブッ倒れてましたから!」
「絶対、ブッ倒れる前に言え。魔力を空にする訳にいかないからな」
一応ナルサス様に頷きながら、私は淡い金色の魔力を練っては渡していく。
数十分かけて魔力を溜めては練る。
練っては渡す。
繰り返して十六回目。
ちょっとダルさを感じながら渡し終わると、毛ずくろいしていたリーダーが私を見て満足そうに目を細める。
「アンタの魔素は甘味だね。柔かな甘さで味も文句なしさ。お腹もふくれたし約束だ、ワタシ等は巣に戻るとしようかね」
「お褒めにあずかり光栄です!」
合格だとばかりに、次々と魔素を完食したウルフ達が山を登っていく。
「一つババァの忠告だ。くれぐれも周囲に気を付けな。アンタには、負の破片がいっぱいこびりついていからね」
リーダーは最後に、そう言って私達に背を向けて山に帰って行った。
「こびりついているって…」
言葉を濁そうとするナルサス様に、私は苦笑してしまう。
そりゃ、今までだって色々狙われていたからね。
強引な手に出てきたのは、本当に最近だけど。
「生きていればハッピーって事ですよ」
「まぁ、ザックリまとめるとそうじゃな」
「ねぇ?単純だけど大切な事ですよね~」
おじじ様と頷き合っていると、ナルサス様から微妙な視線が。
コメントに困った時の顔だ。
そりゃ、困るよね~年下に、生きてるだけでハッピーとか言われたら。
おじじ様は、私を知っているから平然としているけど。
微妙な空気ごめんなさい。
「さて、ウルフさん達の移動確認して帰りましょうか?」
「あ、あぁ。そうしよう」
「ティア、身体は大丈夫かの?」
「ちょっとダルい程度だから、大丈夫!ただ、もう今日は大きな魔法は使いたくないかもです」
帰りの転移魔法でギリ。
溜めて練っては、意外にも魔力を使うのですよ。
今、寝て良いって言われたら、寝ちゃえる自信ある!
「じゃ、帰りの転移魔法は俺が発動させる。立候補で来たんだ。少しは仕事しないとな」
「それがいい。ティアは少し休んでいるといい。確認はわしとナルサスの坊っちゃんでしようとするかね」
「じゃ、行ってくる」
「よろしくお願いします!」
二人が消えてる間私は、岩場に座りながらウトウト。
日差しといい、心地良い温度といい。
私は最高のウトウトを満喫した。




