No.38 妹姫VS姉姫~打倒珍獣
<ローズニアside>
カツカツと乱暴なヒールの音が響く。
頭の中は、自分の姉とは思いたくない珍獣の事でいっぱいだった。
サンエーリ様の婚約者が、あの珍獣だと聞いたのは昨日の夜。
メイドが『エメラル国の王子様が、ディアティア様に求婚したとか!』と噂話を聞いた時、心の奥にあったドロドロしたモノが出てくるのを、その場を去ることで抑えた。
なんで、あの珍しいだけの珍獣が!
事を確かめるために、仕方なくお父様の執務室に足を運んだ。
相変わらず飾り気も素っ気もない室内に辟易しながらも、詳細を聞き出すべく質問してみたが…結果、真実だと言われて愕然とした。
『エメラル国は大国です!姉上では、セレーネが恥をかきます!是非、私をサンエーリ様に嫁がせて下さいませ』
お父様は美し過ぎる顔に、苦く表情を浮かべて簡潔に一言だけ言い放った。
『サンエーリ殿とリーフ殿の意思だ。ティアも了承している。互いに、これ以上の良縁もないとみて、私も許可した。』
『それは違います!ただ単に珍しいだけではありませんか!すぐに飽きられて捨てられるのが落ちですわ』
私がそう言うと、お父様は溜め息を吐き出して左右に頭を振った後、私を見て言葉をこへぼした。
『ローズニア、だからサンエーリ殿は君を選ばなかった。何故だか考えてみてごらん』
『分かりませんわ!私ほど美しく相応しい姫なんていませんわ!』
言いきった私に、お父様はまた溜め息をついた。
その後、私を真っ直ぐ見つめて言った。
『美醜だけでは、本当の人の心は動かない。人が動かされるのは、見返りのない優しさだったり、細やかで温かい気持ちだ。サンエーリ殿は、ティアの心の在りかたに惹かれたんだろうね』
後半にかけてお父様の瞳に、優しい声音に苛々が募る。
『お父様はいつも珍獣のことばかりですわ!』
私と珍獣で違いがあるとすれば、私には美しく優れた容姿ある。
お母様に似た容姿は自慢だ。
それは、珍獣の薬師や魔導師にも劣らないはずだ。
『確かにティアは王族としては風変わりだが、一番大切な仕事をこなしてるよ。民を慈しみ守るよ側にいる。ティアはいつも行動で示しているんだ。君は王族として何をしてきた?』
私は唖然とした。
なぜ、尊い私がたかが民を守らなくてはならないの?
『姫は守られているものでしょ?』
『これは私の落ち度だな。君に教えたつもりでいたが、伝わってなかった…姫であるのはティアも変わらない。それでもティアは、幼い時から守る側に立つ事を無意識に選んだ。だからサンエーリ殿やリーフ殿に、選ばれたたんだと私は思うよ』
話しは終わりとばかりに、お父様は書類の束に目を通し始める。
沸々と沸いてくる苛立ちと憤りは、 底なしのように心を占める。
感情のままお父様の執務室を後にして、私が向かったのは珍獣の部屋。
あの珍獣に、身の程を知らせて辞退させればいい!
私の方が相応しいんですもの!
いいえ、私こそ相応しいのですわ!
歩みを進めて、地味な作業部屋に着いてドアを開ける。
「あら、珍しいお客様ね。ティーちゃんにご用かしら?」
魅惑の魔導師が出迎える。
顔は笑顔なのに、目が全く笑ってない。
顔は良いのに台無しよね。
「用がなきゃ来ませんわ、こんな場所!」
魔導師の横をすり抜けて、地味な室内に入って珍獣を探す。
珍獣は簡素なドレスで、のんきにお茶で休んでいた。
私の気も知らないで!
珍獣は私に気がつくと、立ち上がって向い会う。
「何かよう」
パシッと鈍い音が響くと、筆頭の面々から刺すような空気が場を占める。
珍獣の頬にはついでとばかりに、赤い二本線が刻まされている。
私の口角が上がる。
これで、傷者ですわ。
珍獣の癖に、私を出し抜こうとした罰よ。
「サンエーリ様との縁談、辞退なさい!珍獣の貴女では、セレーネの恥になりますわ!」
「嫌です。サンエーリ様やリーフ様の気持ちを、 無下にすることは出来ません」
「なんですって!珍獣のくせに!」
手を振り上げた私の手が、誰かの手によって阻まれる。
「私達の婚約者に、何をしてくれているんだろうね?」
掴まれた手は容赦なく力が入っていて、動くのもままならない。
ただ、声だけで誰か分かってしまった。
「…っ、サンエーリ様……」
冷たく刺さるような視線と、瞳には怒気を隠す事なく私を見ている。
頭にきてて、珍獣しか見てなかった私の失態に、今更ながら背中に冷たい汗が流れる。
慌てる気持ちを、切り替える。
これはチャンスじゃないかしら?
痛む腕をそのままに、サンエーリ様を見上げて言います。
「姉は珍しいだけなんです!きっとエメラル国で恥になりますわ!教養だって私の方が上ですわ。だから…」
「だから?ティアの教養も振る舞いも姫として完璧だよ。それは、御披露目の時に確認済みだし、なにより…私達はティアを愛している」
「ティアは俺を無視する事はないしな。ローズニア姫は、自身の行動を改めて考えた方がいい。」
ズバッと言われた事に、何がいけなかった検討もつかない。
私は私なりに上手くやっていたつもり。
公爵家より私が上位なんだから、挨拶の必要性はない。
なのに、たかが公爵家の人間に言われるのは、腹ただしい!
それでも、何か間違っていたのかしら?
浮かんでは消える疑問に、私は考える。
やっぱり、どう考えても私はおかしくない。
「今回の事は、フェリス王に報告させてもらう。理不尽な仕打ちでティアは傷ついた。それは婚約者としても、寛容出来る範囲じゃない」
「私はただ…サンエーリ様をお慕いしているだけで!それに公爵家の人間が姫の私に、行動をとやかく言うなんて非常識ですわよ!」
キッと公爵家らしき人間を睨むと、空気が更に冷たくなった気がした。
私は負けずに睨み続ける。
「非常識はローズニア、貴女よ。サンエーリ様、リーフ様。妹の非礼なんと御詫びしていいか…申し訳ありません」
珍獣がサンエーリ様と公爵家らしき人間に、腰を深く折っている。
なんで??
珍獣は何を言っているの??
意味分かんない!
「まだ分かってないとは…どんな教育されてたんだか」
「本当に申し訳ありません!」
「ティアが謝る事はないぞ?最初からティアは、俺を認識してくれたからな。問題は、この姫さんだろ?」
公爵家らしき人間の言いようにイラッとしていると、珍獣が私の目の前に立って強い視線でいってきましたわ。
何かを感じたのか、サンエーリ様は私の手を離して、珍獣の真横に行ってしまいます。
「私達王族は、皆さんが支えてくれているから存在出来ているんです。だから私達王族は、皆さんを守らなければならない。決して、誰であろうと蔑ろにしてはならないの」
真っ直ぐ見つめてくる珍獣の瞳は、真剣そのもので。
サンエーリ様も公爵家らしき人間も、相槌をうつように頷いている。
「ティアは間違ってないよ。王族は支えられて、初めて機能するんだ。守られているだなんて、図々しいにもほどがある。だからティアを愛し選んだ。いや、それだけではないけれどね。心の在りかた、優しさ全てを愛してる」
サンエーリ様の最終通告。
何がいけなかったの?
呆然としている私の目の前で、サンエーリ様が珍獣を抱き締める。
珍獣は頬を染めながらも、されるがまま。
あの場所は…私の場所じゃなかったの?
「 もし君から姫を取ったら、何が残るかな?」
「う、美しさがありますわ!」
サンエーリ様は、珍獣の髪を撫でながら問いかけてきた。
私の答えをフッと笑って、絶対零度の視線が突き刺さります。
「美しさなんて不確かなモノ、無いに等しいよ」
「確かにな~。貴族の愛人程度が関の山だな」
「何ですって!?貴方不敬ですわよ?!」
睨みつけても、公爵家らしき人間は肩を竦めるだけ。
「リーフは事実を言ったまでだよ。君は何もして来なかった。逆にティアは、姫を取っても薬師であり魔導師の資格も経験も実績もある。それは、ティアが人の何倍も努力して手に入れたモノだ」
「よくよく自分自身を見つめ直した方がいい。自分に足りないモノは何か。まぁ、俺とサンがティアを離す事はないけどな」
「当たり前だよ。私達の愛おしい姫君はティアだけだからね。これは生涯変わらないよ」
二人の言葉に、唇を噛み締める。
どうして、珍獣ばかり!!
私が行動を改める?
誰もそんな事、教えてくれませんでしたわ!
教師だって、私の教養をもてはやしましたのに?
「話は終りだよ。部屋に戻るといい。邪魔だ」
後半は冷たい声で、パチッと指を鳴らすと…視界が揺れて見かれた室内に奥歯をかみしめる。
おそらくサンエーリ様の転移魔法だ。
もう時間はないのに!
どうしたら、珍獣からサンエーリ様との婚約を、破棄させれる事が出きるかしら?
まだ諦めてやらないから!
考えるべく室内を歩き回った。




