No.39 作戦会議in珍獣部屋
じんじん痛い頬に手を当てながら、長い長い溜め息を吐き出す。
相も変わらずローズニアは、清々しいまでに自分に正直に育ってしまった。
ヒロイン不在の状態で、分かっていた事とはいえこれは痛い。
もし、もう少し空気の読める子であったら…せめて、頭の回転が良ければ。
色々と違ったかもしれない。
紅猫の話から、指輪の犯人はローズニアが確定される結果となった。
指輪の石の色が変わって、メイドさんや侍女さんが牢屋に入れられたと聞いた時は、私は頭を抱えてしまった。
何をしてくれてるんだろか、あの子は!頭の痛い私の横で、目を見開いた後に顔が喜びに染まったのはサンエーリ様。
紅猫は悪い笑顔で、関心したように言った。
「ここまで無視されたの初めてだわ~!あの姫さんは、バカなの?アホなの?ってか、王子様…顔、顔!」
「あ、すまない。つい嬉しくて…」
「サンの気持ちは分かるけど、まずはティアの手当からだな。ユーリ、何か器とタオル用意してくれないか?」
「了解致しました」
ユーリが隣の部屋に消えて行くのを確認しながら、手を当てている頬が熱をもっていく。
姫とはいえ、女子の全力投球のビンタはそれなりに威力がある。
避けられなかったのは不覚。
でもローズニアがあまりに、周りの人をガン無視だったんだから、呆気に取られてしまったのだから仕方ないと思って欲しい。
「大丈夫か?」
リーフ様が頬に手を伸ばしてくる。
少し低めの体温に、ほっとして息がもれる。
大きくてちょっとゴツゴツした手は、私を安心させてくれる。
「大丈夫ですよ。驚きはしましたけど、見た目ほど痛くないから」
我慢出来ない痛みではないし、冒険者や父様の用事の時の傷に比べたら軽い方だよね。
たまに怪我や魔力切れ寸前で帰宅すると、手当の後は決まって説教タイムに突入する。
今日は空気は冷たいものの、説教タイムは免れたのかもしれない。
一安心だよ。ユーリとハーツのステレオ説教タイムが始まると長いの!
「ティア、こっち向いて?」
「はい?」
サンエーリ様に言われたまま見ると、手が頬に触れて真剣な視線で私を見つめて呟く。
視線にドキッとしてしまう。
きっと顔もリンゴみたいに、赤くなっていると思う。
「守ってあげられなくてごめんね?」
「次は絶対守るから。俺達と一緒にいる時くらいは守られてろよ?」
胸が甘い感情で満たされる。
二人はこんな私を甘やかしてくれるんだ。
くすぐったくて、ちょっと嬉しくて…それを知られるのが恥ずかしくて、誤魔化す様に私は笑う。
「私は珍獣でそんなに弱くないよ?それに一緒にいるなら、背中を合わせて戦える人がいいな」
私が本心を言うと、サンエーリ様とリーフ様は苦笑を浮かべて、ハルクさんは爆笑した。
そんなにおかしな事は、言っていないよね?
紛れもない本心なんだけど。
「プッ…アハハハ!俺の姫君最高~♪」
「守られるより、一緒に戦いたいのがティアらしいかな」
「男としては、守られていて欲しいけどな…まぁ、ティアだからな~」
「私なので諦めて?」
珍獣なんで、一般の姫と一緒の枠にははいりませんよ?
今までだって、私は自分なりにやってきたし、変われる気がしない。
珍獣な私が私だから。
だから諦めてもらう方が、きっと話は早い。
「ティア様、準備が整いました」
「ありがとう、ユーリ」
タイミングよく戻ったユーリの手には、小ぶりの洗面器と綺麗なタオルが用意されていた。
テーブルに置かれた洗面器に、魔法で水を満たす。
「じゃ、私は…我の力を糧に氷を」
サンエーリ様が唱えると、水に氷が浮かぶ。
揺れる氷が涼しげで、私の目を楽しませてくれる。
「ありがとうございます。これで冷やせば、早く熱がひきそうだね」
「どういたしまして。早く治さないとディルが怒りそうだからね」
「確かに。主に俺達が睨まれそうだよな…」
苦笑するリーフ様に、私は曖昧に笑っておく。
過保護なお兄様なら…ちょっとしそうな気がするから。
頬にタオルを当てると、ひんやりとして気持ちが緩む。
傷はハーツに化粧で隠してもらおう。
心の中で決意していると、ハルクさんがニヤッと嫌な予感しかしない表情を浮かべる。
「ここまでされて、黙っているなんて事ないよね~?」
「確かに。今回だけで済むなんて考えられないしね」
「だな。泳がせるにしても、限度があるからな…」
「でも、物証もないし…尻尾を出してくれないと、難しいかと」
私は思考の中に沈んで、頭の中を整理する。
指輪を持っているのは、ハルクさんの証言とフィールの花からローズニアでまず間違いない。
牢屋に入れられてる人達も、元の碧色の指輪が発見はれるまでは、今すぐに殺される事はない。
だけど出来るだけ早く開放しなければ、精神に支障が出てしまうかもしれない。
忍び込んで逃がすのは簡単だけど、問題事態の解決にはならない。
やっぱり一番は、ローズニアの尻尾を捕まえて徹底的に事の次第をはっきりさせた方がいい。
結果として父様から厳しいペナルティーが課されても、それは自身の行いのせいであり、私が止める事は出来ない。
姉妹であろうと、越えてはいけない一線を越えた妹を庇うほど善人でもなければ愚かでもない。
でも心のすみで積極的になれないのは、私の甘さなのかもしれないけど。
鬱々と思考に沈んでいると、体がフワッと浮いてサンエーリ様の膝の上に着地する。
そう言えば、サンエーリ様は風と土の魔法が得意だった。
「サンエーリ様?!」
驚きと恥ずかしさから、しどろもどろになりながらサンエーリ様を見ると、笑顔のサンエーリ様の視線が絡み合う。
「ティアは何を考えていたの?」
サンエーリ様の見透かす瞳に、私は正直にかいつまんで話をする。
嘘は通用しないと瞳が言っているから。
「中途半端な自分が情けなくて…」
「中途半端?」
不思議そうな表情に、私は苦笑いする。
本当に中途半端に揺れる気持ちに、膝に座らされている事を忘れて、気持ちを吐露する。
許されない事をしてても、悔い改めてくれたら…なんて考えてしまう。
「許せない気持ちはあるんだけど…積極的になれない気持ちも心のすみにあって…弱音吐いている場合じゃないのに、ごめんなさい!」
私は頭を下げたまま俯く。
私がしっかりしないで、どうするんだろう。
父様やお兄様を支えなきゃいけないのに、そんなんじゃダメじゃん。
中途半端な気持ちなんて、邪魔でしかない。
こんな自分なんて見せたくないのに、気がつけば素の自分が出てしまう。
俯いたままいると、顎をすくいあげられてサンエーリ様と視線が合わさる。
視線が合うと、花が咲き誇る様に頬笑みを浮かべる。
「ティアは一人で荷物を抱え込み過ぎてるよ?」
チュッと額にキスをして、私の髪を撫でるサンエーリ様。
私は真っ赤になったまま、固まるしかできない。
恋愛偏差値低いんだから仕方ないよね?!
「今は俺達が一緒にいるんだから、頼ってくれると嬉しいだが」
リーフ様の手が輪郭をなぞった後に、両手で頬を挟んで鼻にキスをする。
ボンッと更に顔に熱が集まる。
私が固まったままなのは、言うまでもない。
リーフ様のダメ押しに、私は頷いてしまいましたよ。
降参!この二人に勝てる気がしない。
甘やかしに負けてはいけない気がしながらも、二人からの甘やかし攻撃は止むところか、日に日に増してますよ!
考えてた事も飛ぶくらい悶えていると、観察していたハルクさんが不穏な笑顔を纏わせながら、提案策をあげる。
「もういっそう、婚約披露の夜会でも開いたら?間違いなくあの姫さん邪魔してきて自爆しそうじゃない?」
さも可笑しそうに怪しげに笑うハルクさんの瞳は、激情が見え隠れしている。
ローズニアは、気まぐれな紅猫まで怒らせてしまったみたいだ。
「それは良いかもしれないね。私やリーフが堂々と張り付いていられて、ティアとの関係も宣言出来るんだから」
フフフッ、と私の髪を撫でながら賛成するサンエーリ様。
こちはもやはり、瞳に冷たい光を放っている。
「フェリオス王にお願いすれば、早い日にちで準備してくれるんじゃないか?俺達の帰還には、ティアも連れていくつもりだし調度いいな。NOとは言わせないぞ?」
サンエーリ様の腕に包まれて、リーフ様には頬をツンツンされる。
帰還と一緒に連れて行かれる!?
日にち的に、あと一週間くらいしかないよ?
「あの、冗談だよね?」
「冗談に聞こえたの?それなら、もう一度ちゃんと伝えないとダメだね?」
膝の上に抱かれながら、綺麗過ぎるサンエーリ様の笑顔を見てしまう。
隣に座っているリーフ様も、色気だだもれで私を甘く見つめてくる。
「私達のお嫁さんになって。愛しているから一時も離れたくない。ティアだけを愛すと神と剣に誓うから」
「他国だから不安かもしれないけど、誰より大切にするし、俺達はティア以外に目移りなんてしない。愛してるから一緒に来てくれないか?」
二人の瞳は嘘偽りない真摯な言葉で、私は困惑してしまう。
心が揺れ動いてしまう。
乙女心としては素直に嬉しい。
でも、父様とお兄様が心配な気持ちもある。
なにより、私では大国に嫁ぐのに不安がある。
地味で珍獣な私で良いのかな?
私が躊躇っていると、サンエーリ様は微笑みらはそのままに言葉を発する。
「大丈夫。ティアの憂いは晴らしてあげるから。安心してお嫁においで?」
「きっと歓迎されるぞ?不安は俺とサンで取り除くから、大丈夫だ」
ギュッとサンエーリ様に抱き締められた後、フワッとさらわれてリーフ様の腕に抱き締められる。
そうされてしまうと、もう否定の言葉が出てこない。
二人にドキドキするのに、安心してしまう。
恥ずかしいのに嬉しい。
「もう恥ずかしいのですが…」
「恥ずかしいだけかい?」
私はサンエーリ様の問いかけに、うっと詰まってしまう。
期待の満ちた瞳に勝てないよ。
「う、嬉しいですよ?」
「ありがとう。じゃ、私からお願いしとくよ。ティアは安心して待っててね?」
「ドレスのティアを、また見れるのは楽しみだな」
甘い笑顔を浮かべる二人に、私は赤くなったまま頷く。
本当に恥ずかしいわ!
「そんじゃ~俺は裏側からサポートするかな♪」
楽しげなハルクさんに、私は一応注意をしておく。
あまり過激に動きすぎても、ローズニアに気がつかれて尻尾を掴み難くなってしまう。
まぁ、そんな凡ミスはしないと思うけど。
「ハルクさん、ほどほどにお願いしますね」
「了解、俺の姫君。俺に任せときな」
軽くウィンク付きで、返事が返ってくる。
相変わらずの軽さに、小さく笑ってしまう。
こうして、作戦会議は賑やかさと甘やかさの中で進んだ。
話の間中、私はサンエーリ様かリーフ様の膝の上にいて悶えたのは言うまでもない。




