No.36 闇に紛れる紅猫~光る猫の瞳
<ハルクside>
闇に染まる時間。
俺は上下黒の衣装に身を包み、城を散策していた。
目的は、俺の姫達が秘密裏に捜索しているモノを探す事。
隠していても、それはクレッシェンド家の一族。
今までの想像と俺の姫と周囲の様子から
、間違いなく何かを探しているはずだ。
歩いていると、ガシャンッと何かが割れる音に気づいて、好奇心が向くまま足を向ける。
そこは、いささか遣り過ぎな位な装飾品が飾られている室内。
「ローズニア姫の部屋か…」
面倒な香りを感じつつ、つい昨晩の事が思い浮かぶ。
王妃様には、今回の依頼は受けない事を伝えた。
あんな面白い姫を、殺してしまうのは勿体ないと伝えて。
王妃様は、烈火の如く激怒していたけど、最初の契約は俺次第だと言っていたのだから、俺に非はない。
俺の基準は、楽しいか楽しくないかだ。
だから、俺は意見だけ伝えるとその場を直ぐに出た。
クレッシェンド家は、何にも縛られない。
依頼を承けるも受けないのも、当人に任されている。
結果、面白い一姫を生かす事にした。
観察していた数日。
いちいち行動が面白い姫は、見てて飽きない珍獣ぶりだった。
自分のお披露目の日にも関わらずに、自ら騎士の傷の手当てをしたり。
お忍びで街に出れば、若先生として特製の薬を渡したり。
月のような銀色の髪に太陽のような金色の瞳の姫は、真っ直ぐな心を持つ希有な人間だった。
いい意味で王族には向かない少女は、どんな風にサナギから蝶になるのか知りたくなった。
その過程は、それはそれは面白いだろう。
「見てて飽きないし、やっぱり面白さは必須事項だよね♪」
足取り軽く、華美な室内を除き混む。
喧騒はまだ続いているらしく、硝子が割れる音や怒鳴り声が聞こえてくる。
興味を退かれるままに、 柱の影から中を覗く。
『……なんでっ!あんな女にっ!』
ガチャンッと、また部屋の装飾品が一つ床に砕け散る。
髪は乱れ顔は怒りから赤く染まり、姫とは思えない有り様。
壁に控えている侍女は、青ざめて嵐がが静まるのを待っているんだ。
『あれがあれば、上手く行くと思ってたのにっ!碧だったのに……色が変わっているなんて…誰がすり替えたの!』
ギロッと侍女を振り返ったローズニア姫の手には、無色透明な石がはまっている指輪が一つ。
『言いなさいっ!今なら命は取りませんわよっ!』
なおも言い募るローズニア姫に、侍女達は横に顔を振るだけで精一杯のようだ。
俺は小さな指輪を見つめながら、昔聞いた話を掘り起こす。
確かエメラル国では、王族の男子は瞳と同じ色の宝石を抱いて産まれてくる。
その宝石は、伴侶に贈るモノだったはず。
ローズニア姫の様子から、あの指輪の持主はさしずめ水色の瞳の王子様のものだったんだろうね。
何らかの手を使って、盗んだんだのか。
あの面の皮の厚く、腹黒い王子がローズニア姫に贈ったとは考え難い。
むしろ観察してた身としては、王子はローズニア姫は視界にも入れたくないと、日々避けている傾向がある。
まぁ、それで懲りないのがローズニアなんだけど。
柱によしかかりながら考える。
「これは、俺の姫に報告した方がいいな」
あれが王子様の指輪じゃなかったにしろ、ローズニア姫がこのまま引き下がるとも思えない。
寝静まった時にでも、指輪を取り返してみるか?
もし、証拠隠滅でも図られたら、話は泥沼化しかねない。
色が変わった指輪を、そのまま手元に置いておくとも思えないし。
いや、でも動くにしても……やっぱディアティア姫に相談してからの方が円滑に進むか?
「姉妹でこうも違うもんかね~」
他人に献身的な地味な姉と、華やかさはあるものの他人をかえりみない妹。
素朴な野花と華々しい毒花。
まぁ、事前に調べた時にはだいたい予想はついていたけどね。
平凡姫に呪われ姫、珍獣に魔女と言われつつ、王や王太子が大切している姉姫。
かたや、母親に甘やかされた我慢や思いやり知らない妹姫。
知った当初は、なぜ姉姫が王に大切にされているのか分からなかった。
でも調べてみれば明白。
ディアティア姫達が動くのは、いつも誰かのため。
王のため、兄のため、仲間のため、国民のため。
本人は自覚がないようだけど。
どんな蔑みを受けようと、ブレない芯の強さとたくましさは眩しいくらい。
筆頭達を信頼し信頼され、ディアティア姫は彼等を大切にしている。
それは、臣下としてと言うより仲間や友としての方が近い気がする。
そうなるまでに、どれだけの時間や困難を乗り越えてきたのか……。
正直、彼等の関係が心底羨ましかった。
だから、話を持ちかけた。
あの居心地の良さそうで、楽しそうな場所にこそ、俺の求めていた場所だと直感が言っているから。
物思いにふけっていると、また盛大に物音が響き渡る。
『早く名乗り出なさい!さもなくば全員、この場で不敬でお母様に処分してもらってもいいのよ!?』
癇癪を起こしてるローズニア姫と、顔を左右に振りながらとうとう嗚咽をもらす侍女達。
『しらばっくれるつもり!?家ごと潰してもいいのよ?』
泣きながらも黙りこくる侍女達に、ローズニア姫は更にヒートアップ。
『醜い泣き顔なんて、見るに耐えないわ!正直に話すまで地下牢に行く事をめいじますわ!ほら、あんた達この不届き者達を、縛って地下牢に連れていきなさい!』
佇んでいた騎士達が、侍女達を縛りあげると引きずるように出て行く。
それを不満そうに眺めていたローズニア姫は、再度指輪を見つめると壁へと近寄る。
そこは、その部屋には珍しく一角だけ装飾品のない場所。
トンッとローズニア姫が触れると、パタッと小さい扉が開いて猫の額ほどのスペースが現れた。
「……へぇ~そんな場所に隠していたなんてね~」
頭が良いのか悪いのか。
壁に細工をして、隠し場所にしていた事には驚いた。
でも、詰めが甘い。
あんな風に指輪を見せびらかせば、何処かから話がもれてもおかしくないのに。
侍女は捕まったにしろ、騎士が全部見てる。
さて、彼等は何処まであのローズニア姫に尽くすか。
人の情なんてものは、脆く儚い。
待遇に不満があればあるほど、すぐに人間は手のひらを返し離れていく。
騎士は特に、自身の信念を持っているはずだ。
「さぁ~て、どうなるやら。とりあえず、ディアティア姫に報告してからだね」
俺はそっとその場から去った。
この時間なら、ディアティア姫も起きているだろうし。
相談するなら、早い方がいい。
そのまま、俺はディアティア姫の部屋に足を向けた。




