No.33 傍観者と恋模様~お兄様の願い
<ディルアルside>
一仕事終えて休憩時間に訪れたのは、ティアの作業室。
ティアは薬の調合途中だったらしく、簡素なドレスにエプロン姿で出迎えてくれた。
「お兄様、休憩ですか?」
「そうだよ。ティアも休憩しよう?」
「ディルちゃん、お紅茶にする?アタシの里のお茶にする?」
「里のお茶で。お茶菓子はネイルが仕入れてくれたんだけど、ティアはチョコレート好きだよね?」
「はいっ♪一番好きなお菓子です!」
可愛らしく笑うティアにつられて、僕も頬が緩む。
ソファーに移動して広げると、ティアはチョコレートに目を奪われている。
「さぁ、食べようか?」
「お兄様、ネイルさん。いただきます」
ネイルは軽く礼をして頬笑む。
ティアはチョコレートを摘まむと、口に入れて頬笑む。
「ティア様は、根っからチョコレート好きなんですね。僕は甘いモノが苦手なんで、焼き菓子で精一杯です」
「ユーリは辛いモノの方が好きだもんね?」
「そうですね。僕はスパイス系を好みますから」
「もったいないね~?」
「本当に。こんなに美味しいのにね」
カップを置きながら、ユリエルは苦笑いすると仕事モードでティアの後ろに立つ。
僕とティアはチョコレートを摘みながら、頷きあう。
「で、サンの魔力の判別は出来そうかい?」
僕が話を切り変えると、ティアは難しい表情を浮かべる。
食べる手を止めて僕を見る。
「まだ試してないので、まだなんとも言えないんです…」
「そっか~…もしかして、試すのが怖い?」
一瞬ティアは考え込んで、小さく頷く。
きっとサンとリーフに好意を持っていながら判別出来なかった時、心の持って行き場が無さそうで怖いのかもしれない。
「試してみるだけ、試してみたら?」
「試してみるだけですか?」
「もしダメでも、ティアの心は誰にも否定されないし、させないよ?」
不安そうな表情のティアに、僕は安心させる様に頬笑む。
恋は人を臆病にさせるのかもしれない。
でも、何時もたくましいティアが、心を揺らして困惑している。
これは、良い傾向じゃないかと思う。
甘えるのが下手なティアだからこそ、自分の心の揺れや動きを知って、人を頼る事を覚えて欲しい。
「魔力判別は難しいんだから、気負わずにやってみるといいよ」
「そう、ですね!私が動かなきゃ始まらないですよね」
「そのためにも、サンとリーフには協力してもらわなきゃね!今以上に仲良くしなきゃね?」
「今以上にな、仲良くですか?!」
パッとティアの頬が染まって、しどろもどろになる。
照れて声もうわずっている。
ティアはサン達と出会ってから、年相応の女の子の表情を見せる事が多くなった。
数日でこれまでティアが変わるとは、僕は想像していなかったけど。
嬉しい驚きに頬を緩めていると、ティアは更に頬を染める。
「そんな顔で見ないでくださいっ!」
「だって嬉しいから仕方ないよ。お兄様はティアに春が来て嬉しいんだよ」
「は、春って!」
「だって恋しているでしょ?」
答えられずに口をパクパクさせるティア。
僕は小さく笑いながらティアを眺める。
ユーリもハーツも笑っている。
二人ともティアの変化を喜んでいるみたいだ。
もちろん、一番嬉しいのは僕だけど。
「お兄様…勘弁してください…」
座ったままパタッと、ソファーに横になるティア。
クッションに顔を埋めて呟いた一言。
「照れなくても良いのに」
やれやれと肩を竦めるていると、ノックの音がして顔を向けるとハーツがドアを開ける。
「ディルもいるのかな?」
「こっちにいると聞いて、来たみたんだけど」
そこにいたのは、ちょっと不機嫌なサンと苦笑気味のリーフが立っていた。
「僕を探していたのかい?」
「昨日、この時間が空いているって言ったのはディルだよ?」
「ごめん、ペロッと忘れていた。でも、調度良かったでしょ?」
サンとリーフが、父上の所へ行っていた理由は知っている。
昨日の晩餐で、本格的にティアの婚約者になりたいから動くって聞いていた。
僕はもちろん、賛成したよ。
そうなるって思っていたし。
「そうだね。本人に言わなきゃ伝わらないしね」
「自分の事には、地味に鈍そうだしな…」
「そうなんだよ。自分の事になると、途端に鈍くなるんだよね」
うんうん、と頷いているサンとリーフに、激しく同意してしまう。
ティアはなんの事か分からないのか、クッションから顔を上げて首を傾げる。
それを見たサンとリーフは、ティアの側に移動すると膝をつく。
「ディルティア姫」
「はい?!」
二人の行動に驚いたのか、ティアは背筋を伸ばして二人を見つめる。
そんなティアを見て、二人は穏やかに頬笑むとティアの手を取る。
両手を拘束されたティアは、真っ赤になって硬直している。
ピンク色の空間の出来上がり。
僕はいていいのかな?
「これからずっと一緒に幸せに過ごしたい。幸せにするよ」
「誰より幸せにするし、なろうぜ」
「えっ?!あの…」
二人は手を引き寄せると、チュッと手の甲にキスをする。
ティアは更に頬が赤くなる。
「好きなんだ。だから私達の国に、婚約者として来て欲しい」
「誰より愛するし、守ってみせるから」
「私達と結婚して欲しい」
「絶対幸せにする」
サンとリーフは微笑んで、ティアを見上げる。
その視線はいつになく優しい。
ティアは真っ赤になったまま、二人の視線を受け止めている。
ただ、ティアは言葉が見つからないのか黙ってしまった。
困りきったのか、涙目で僕を見て助けを求めてきた。
自分の事になると、途端に不器用になるティアに苦笑しながら助ける事にする。
「ほら、二人ともティアに考える時間あげなきゃ」
たしなめるように言うと、サンとリーフはティアの手を握ったまま立ち上がる。
「急だったよね。でも私達は本気だから」
「考えてみてくれ」
ティアはコクコクと頷く。
突然過ぎて驚いたみたいだし、気持ちに気がついたばかりのティアには、返事なんて頭がついていかないのかもしれない。
今はそっとして、ちゃんと考える時間をあげたい。
一生の事だからね。
「さぁ、サンもリーフも僕の部屋に行こうか?」
そう言うと、名残惜しそうにティアの手を離す。
「そうだね。ティア急がなくていいからね」
「俺達の気持ちは変わる事はないから」
その言葉を残して、二人は身をひるがえす。
僕もお茶を飲み干して立ち上がる。
「じゃ、ティア。晩餐で会おうね」
「あ、はい。お待ちしてますね」
「私達もお邪魔しようかな」
「そうだな。皆で食べた方が美味いしな」
「えっ、はい!お待ちしてますね!」
ピクッとしながらも、返事をするティアを見て嬉しそうに頬笑むサンとリーフ。
じゃ、と言って部屋を出た時には、二人とも顔が緩んでいた。
あの王子様の仮面を被るのが得意なサンですら、嬉しさが滲み出ている。
「幸せそうでなによりだよ」
僕が呟くとサンとリーフは顔を見合わせて、小さく笑うと僕を見る。
「これが幸せなんだね」
「みたいだな。初めてでくすぐったいけどな」
「くすぐったいけど、ティアの事を考えると、心が温かくなってくるんだ…不思議だね」
しみじみと言う二人は、幸せにそうで僕も嬉しくなる。
親友の二人が、大事な妹を大切に思ってくれている。
なんて素敵な事だろうか。
二人ならティアを任せられる。
頑張り過ぎるティアを、ちゃんと見ててくれると思うから。
「幸せは気がつけば、側にあるんだよ。だから、二人も幸せを逃がさないでね?」
「そうだね。しっかり掴み取れるように頑張るよ」
「あぁ。出来る限り努力しなきゃな」
二人の言葉に頷きながら、僕も密かに願う。
三人が幸せになれますように、と。
幸せが溢れていますように。




