No.32 王子様と妹姫~仮面の王子様
<サンエーリside>
街に出た翌日。
フェリオス王の執務室を訪れていた。
理由はティアとの婚約を申し出するため。
答えは『ティアに任せている』との事。
ティアがイエスと言えば、婚約者になれる事が分かった。
「ティア次第か~」
「そうだね…」
道すがらリーフが呟く。
私は頷いて考える。
ティアには嫌われていないはずだ。
会いに行けば、笑顔で迎えてくれる。
それならば、好きになってもらうために何をすべきか。
初恋なんだから、逃がす気なんてさらさらない。
考え込んでいた私の耳に、聞きなれない足音が届く。
鼻につく香水とヒールの音で、誰だかすぐに分かってしまう。
「サンエーリ様!」
「…ローズニア姫」
考え事を邪魔されたからか、鼻につく香水のせいか。
一瞬、顔をしかめてしまう。
すぐに気を取り直して、余所行き表情を作って振り返る。
「此処で会えたのも運命ですわ!お茶会をしましょう?すぐに準備させますわ!」
「せっかくだけど、ディルに呼ばれているんだ」
「そんな…せっかく偶然出会えましたのに…」
目を潤ませて私を見上げるローズニア姫にうんざりする。
まず姫だったとしても、一緒にいる公爵家のリーフに挨拶なしはどうだろうか?
我が儘を通そうとする態度もいただけない。
なぜ、この姫がもてはやされるのかが分からない。
「でしたら、少しお話だけでも!」
「私には話しがないけど」
「ワタクシと話すのは嫌ですか?」
「話題の問題かな。姫と話す話題がないだけだよ」
「ありますわ!」
バッサリ言ったのに、まだ立ち去る様子のないローズニア姫に苛立ってくる。
普通の人間なら諦めているか、怒って立ち去るはずなのに。
全く懲りてないのは、致命的に鈍いのかもしれない。
「ではごきげんよう、ローズニア姫」
「待って下さいませ!なぜ、あの女なんですか?!ただ、珍しいだけではないですか!」
歩き出そうとしていた足がピタッと止まる。
苛立ちから顔は、きっと冷めた表情をしているはずだ。
「彼女はそのままの私を見てくれている。君は私の何を見ているのかな?」
「ワタクシだって、そのままのサンエーリ様が好きですわ!」
「じゃ、私が王子じゃなかったら?君は挨拶すらしないのでは?」
リーフを無視したように。
まるで光に群がる虫のようだ。
肩書きだけに寄り付く、それにどんなにうんざりしているか。
国でだけで十分なのに。
「でも、サンエーリ様は王子様で」
「もしも、だよ。私はいつだって、王子なんて辞めてもいいと思っているんだよ」
「第二王子のサンエーリ様に、そんな事許されませんわ!」
「許されるんじゃないかな?うちは兄弟多いし」
やっぱりローズニア姫は、肩書きに惹かれているだけだ。
ティアなら驚きはするかもしれないけど、反対はしないはずだ。
冷めた表情は、さらに冷たい表情になっているのは仕方ない。
ローズニア姫は、唖然としたまま立ち尽くしている。
そんなに驚く事でもないだろうに。
「では、ごきげんよう」
横をすり抜けて歩き出す。
リーフも一礼した後、私の後を追ってくる。
「あれは苦労が偲ばれるな~」
リーフが額に手を当てながら苦笑する。
確かに、彼女が兄妹だと苦労が絶えないだろう。
礼儀どころか、他者を思いやる事すらしない。
王族としても人間としても、マイナスポイントとしてしか数えられない性格。
容姿が良かろうと、性格でマイナスになってしまう。
私があまり容姿に重きを置かないのもあるかもしれないけど。
「そうだね…不思議なくらいに、姉妹で性格が違うからね」
「ティアがいい意味で規格外なのもあるけどな」
「そこに惚れたんだけどね」
「間違いないな。それを含めて惚れたんだしな」
あのビックリ箱みたいで、それでいて優しくたくましいティアに惹かれた。
容姿だってディルみたいな華やかさはないだけで、野花のように素朴な温かさに目を奪われた。
私には十分愛らしく見える。
確かに最初は物珍しさだったけど、過ごす時間が増える度に、ティアに引き込まれていった。
それが自然だったかの様に。
「逃がすつもりはないけどね」
「もちろん。三人で幸せになろうな」
「あぁ。そのために、ティアには知っていてもらわないと」
「そうだな~。ハッキリと伝えないとな」
お互い顔を見合わせて笑う。
伝えたらティアがどんな顔をするだろう?
慌てるだろうか?
それとも照れてしまうだろうか?
嫌がられなければいい。
断られたら直ぐには、立ち直れないかもしれない。
チラッと顔を出す弱音を飲み込んで、ディルの部屋へと歩みを進めた。




