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転生珍獣王女奮闘記  作者: 千里
31/66

No.31 紅猫と珍獣


ベットからやっと抜け出せた日。

私は薬の配達に街に来ていた。

横には当たり前の様に、サンエーリ様とリーフ様。

お兄様と四人の朝食をとった後、今日の予定を聞かれてそのまま付いてきてしまいました。

ハーツやユーリは、目立つのでお留守番を言い渡す事態になった。

目立つのは、二人だけで充分。

今日も街は何時も通りに賑やかで、あちらこちらから話しかけられる。

まず向かうは、腰痛に悩まされているお婆さんの家。


「お二人は此処で待っててもらって良い?」


「どうしてだい?」


不思議そうなサンエーリ様に、私は苦笑しながら説明する。


「家が狭いの。皆でお邪魔したら患者さんが驚くでしょ?」


「まぁ、そうだろうな…分かった。噴水付近で待ってる」


街の中央の噴水を指差すリーフ様に、私は笑顔で頷く。


「配る薬は二、三個なんで。サッと終わらせて来るから」


「気を付けてね?」


「ありがとう。じゃ、行ってきます!」


私は軽く駆け出して目的地へ向かう。

お婆さんの家は、中心街から外れた小さな長屋。


「お婆さん、何時もの薬持ってきたよ」


木のドアをノックすると、ゆっくりとドアが開いて顔を出す。


「おや、若先生じゃないかい」


「薬の配達にきました。どう?腰の具合は?」


「若先生の薬があれば、動くのに支障はないさ」


薬を手渡すと、ちょっと待ってなとお婆さんは奥に行ってしまう。

戻ってきたお婆さんの手には、紙袋に入った焼き菓子と少しのお金。

日本で言うクッキーみたいな庶民的なお菓子。


「毎回安い料金で貰っているんだから、菓子はほんの気持ちだよ」


「じゃ、今回は物々交換で。お金は違う事に使って」


「そんな…」


「良いの!私の薬師は趣味みたいなものだから。焼きたてのお菓子ぐらいで調度いいの」


被せる様に言って紙袋だけを受けとる。


「じゃ、また七日後に来るからね」


そのまま手を振って歩き出す。

同じように患者さんの家を回って、薬を配りながら街の人達と話したりする。

近況を聞きながら、立ち話をしていると赤色の癖毛に美麗な顔立ちの青年が、こっちを見ている事に気がつく。

あの色と顔立ちから、すぐに誰だか分かった。

ハルク・クレッシェンド。

小説では裏にも精通していて、暗殺も請け負うと書いてあった。

またしても、ストーリー変化。

小説で出会うのは、妹の暗殺を頼む時。

夜中にひっそりと会うはずだ。

それが今、堂々と目の前にいますよ?

まぁ、暗殺を頼むこはないから出会う事はないと思ってたのに。

これは逃げるが勝ちだと、視線を反らして歩き出そうとした時。


「ねぇ、そこの姫君。ここには詳しいのかい?」


ポンッと肩を叩かれて、ビクッとしてしまう。

今気配感じなかったよ?!

何時、そこに移動したの?

私は錆び付いたロボットの様に、ギギギッと振り返る。


「一応…何処へ行きたいんですか?」


「姫君が案内してくれるのかい?」


優美に頬笑むハルクさんに、私は顔をひきつらせる。

チャラいのは小説のままなで、姫君呼ばわりもそのまま。


「案内ついでに、お茶でもどうかな?」


「はぁ?!」


「いいよね?ちょっとお茶するだけだし」


さぁ、と手を握られて引きづられる。

止めようにも握られた手は、逃げられる握力じゃない。

痛くないのに逃げられない。

引きづられる様にして、近くの店へと連れていかれる。

イスを引いて座られた時には、私は諦めていた。


「さぁ、姫君はなににする?」


「お任せします」


この流れを変えられないのなら、早めに切り上げてしまえばいい。

ここで関わったと言う事は、誰かが私を排除しようとしているか…彼の気まぐれか。

五分五分だ。

慎重を心がければ、たぶん大丈夫なはず。


「じゃ、適当に頼むね」


頷く私にハルクさんは店員を呼んでオーダーする。

私はそれを見つめながら、どうしたら早く切り上げられるか考える。

小説では彼は頭がいいけど気まぐれで有名だった。

前世では紅猫とも呼ばれていた。

ヒロインを影で守る人気キャラ。


「どうしたの?そんなに野花のような姫君に見つめられると、キスしたくなっちゃうよ?」


「あの…姫君はやめてください」


ドン引きしつつ答えた私に、ハルクさんは首を横にして不思議そうな顔をする。


「だって本当に姫君でしょ?ディアティア姫」


「珍獣に姫は必要ないかと。知ってますよね、私の噂は」


「知ってるよ。薬師と魔導師をしている変わり者だって」


「まぁ、珍獣ですから。薬師は趣味みたいなモノですし、魔導師も同じようなモノですよ?私には普通の事です」


嘘は言ってない。

手に職をつけるために、頑張ったのは言わないだけ。

どんなストーリーになるか分からないのだから、出来る範囲を精一杯に使って今の私がある。

だから、珍獣だろうと呪われ姫と言われていようと、全く気にしていない。


「珍獣だって認めているの?」


「はい。姫らしくないのは自覚してますし、今後も改める気ないんで珍獣で充分です」


全くもって変わる気はない。

薬師も好きだし、裏方の仕事だって嫌いじゃない。

父様の無茶ぶりがなければ、なんだかんだで楽しんでたりするし。

私が断言すると、ハルクさんは急に笑い出す。


「ハハハッ!姫君…ディアティア姫は面白いね」


「そうですか?」


「面白いね。珍獣と言われて激怒する所か、自分で言っちゃうんだから」


「まぁ、呼び名は別にどうでもいいです。規格外なのは分かってますし」


「規格外なのも認めちゃってるし!」


爆笑するハルクさんと引く私。

何がそんなに面白いのか。

最近、サンエーリ様やリーフ様にも爆笑されたけど、理由はさっぱり分からない。

オーダーした紅茶が届くまで、ハルクさんは笑っていた。


「街で身分隠しているのは?」


「薬師に身分は必要ないですよね。必要なのは腕だけですから」


「姫として敬われたくないの?」


「ないですね。今だって充分良くしてもらっていますし」


街の人達は賑やかに迎えてくれる。

街を歩くだけで、声をかけてくれたり、時には果物やお菓子をくれたりする。

私にはそれだけで充分満たされているし、現状維持が一番理想的だ。

私の反応にハルクさんは、目を細めて問いかける。


「王族に必要なモノは?」


「民を守る強さと民の生活の向上だとおもいますけど…」


「美しさは?」


「うーん…外交には有利ですけど、あれば良しぐらいでは?必要ですかね?」


なぜ、ここで美しさが出てくる?

質問の意図が読めなくて、疑問系になってしまう。


「ククッ、やっぱり面白いね」


「そうでもないですよ?」


「いや、すごく面白い」


私は微妙な表情になってしまう。

面白いは褒め言葉なのか?

疑問しか生まれない中で、ハルクさんはニッコリ頬笑むと


「決めた♪」


楽しげに言い放つ。

私は訳も分からずに、とりあえず紅茶に口をつけて待つ。


「ねぇ、今度はディアティア姫に会いに行っていい?」


「えっ?」


「もっと話したいけど、今日は時間切れみたいだから」


そうハルクさんが言うと、店の外が何時もより賑やかな事に気がつく。

特に女の子の声に気を取られていると、サッと立ち上がったハルクさんは


「じゃーね。可愛い俺の姫君」


投げキスをしてテラスから出て行ってしまう。

チャラい、チャラ過ぎるぞ!

安定したチャラさに唖然と見送っていると、肩にポンッと手を置かれて振り返る。


「どうして此処へ?」


サンエーリ様とリーフ様が立っていた。

どうりで、店の外が騒がしいはずだ。


「若先生が引っ張られて店に入っていったって、街の人から聞いてね」


「何もなくて良かった。心配したんだぜ?」


「心配かけてごめんね。でも、ちょっと話しただけだから」


「なんの話し?」


サンエーリ様に聞かれて、私も首を傾げてしまう。


「よく分からないけど、珍獣について?」


「珍獣ってティアの事?」


「そう。でも、何が話したいのかサッパリで」


気まぐれな紅猫は、やっぱり気まぐれで。

質問には答えたけど、話しが二転三転して置いてけぼりをくらった感はんぱない

困った様に呟くと、サンエーリ様とリーフ様は席に着いて頬笑む。

その頬笑みが綺麗過ぎてドキッとする。


「じゃ、お茶をしながら色々と聞いてみたいな」


「知らないヤツに着いて行った罰には、調度いいだろうしな」


「えっ?!」


理不尽な!と思いながらも、心配させた私は言い返せない。

この後、出会いからサヨナラの挨拶まで、根掘り聞かれたのは言うまでもない。

羞恥心で死ねるかもと思った。



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