No.25 初めての気持ち~恋と側近の想い
<リーフside>
フェリオス王に呼び出されて、俺はなぜかてティアの側近達と執務室にいた。
「で、どうかな?うちの娘は」
ニヤニヤしているフェリオス王に、一瞬毒気を抜かれてしまう。
それを聞くためだけに、俺達を呼んだのは明白で。
「まさか、陛下ったらそのためだけによんだのかしら?」
「ダメかい?だってあの子が誰を選ぶか、気になるじゃないか!」
それは気になる。
もし、俺達といるのを選んだら…大切に幸せにしてあげるのに。
そうなれば良いとすら、思えてしまう。
「ティア次第なんだけど、そっちはどうなんだいバルト殿」
「私は許されるなら共に、連れて帰りたいくらいです。」
スラッと出た答えをそのまま口にする。
ティアとなら、一緒にいて笑っていられると思ったから。
最近考えてみたところ、その意味に名を付けるなら゛恋゛が、一番近い気がする。
この俺が?とも思ったけど、何度も考えても結果は同じ。
会えたら嬉しいのも、一緒にいて楽しいのも。
他のヤツが近寄ると嫉妬とするのも、恋だと心が言っている。
「ほう…それは、サンエーリ殿も一緒の考えだと思っていいと?」
「はい、おそらくは間違いないです」
あの表情や態度を見れば、自分の事より正確に分かる。
特別なんだって、視線が目が言っている。
だから、自分の事も分かったんだと思う。
ナルサス殿がティアと一緒にいるのを見て、穏やかではいられなかった。
だから゛恋人゛だと、大人げない牽制したり。
照らし合わせると、俺もサンも変わらないから。
心がティアを求めているみたいに、自然と一緒にいたいと、見て欲しいと思ってしまう。
エメラル国では、一妻多夫性だから問題ない。
相手がサンなら、多少嫉妬するも許されるなら範囲だ。
「そうか。そうか。して、ティアはどうかな?」
三人は、サッと視線を反らして考え込んでしまう。
「あれはドキドキに入るのかしら?」
「たまに、意味不明にジタバタはしてますね」
「少なくとも、我々とは違う対応になります。あれは、憎い相手の時とは違う対応になってますから」
微妙な返答があったのと同時に、扉の外が騒がしくなる。
慌ただしく入室してきたのは、宰相殿で焦っているようだ。
「歓談中失礼します。ティア様の夕食に、ニライが混入されていたようです!ディル様もサンエーリ様も無事ですが、ティア様が被害に」
「なんだと!?」
ニライと聞いて立ち上がってしまう。
ニライの毒がどんな毒だかは、軍の訓練の時に聞いた事がある。
軽少時は発熱と倦怠感。
重症になれば、命を落とす可能性のある毒だ。
薬師だと考えれば、すぐに気がついて吐き出すはずだけど…それでも、発熱は免れないはず。
考えれば考えるほど、気になってしまう。
「御前失礼します。私達は主の所に行かせて頂きます」
「では、失礼します」
「失礼致します」
筆頭とは主が一番。
側近の三人は、主がフェリオス王ではなくティアな事に驚く。
三人が動き出して、驚いている場合じゃない事に気がつく。
「私も一緒に。では、フェリオス王御前失礼します」
俺も三人の後を追って部屋を出る。
はやる気持ちを押し止めながら、駆け足でティアの作業部屋に急ぐ。
息の乱れを気にする事なく、部屋に入るとディルが迎えてくれた。
「今寝たばかりだから。静かにしてくれないかな?」
「ティアは?」
「多分、発熱はあると思う。でも軽少じゃないかな?ずくに解毒剤飲んだし」
「で、サンは?」
「付き添うって。寝室でタオル替えたりしてるよ」
三人は驚きと安堵の表情をする。
主が軽少なのは安心した。
でも、王子のサンが看病している事には驚いたのだろう。
俺達は看病の経験がないから、何が出来るか分からないけど。
「俺も付き添わせてくれ。多分、部屋に戻っても心配で気になって何も手につかないからな」
「リーフはなんでか、意味が分かってるんだね」
「あぁ、多分だけど。ウソみたいな話で、まだ処理しきれてないけどな」
「そうか…じゃ、許可しようかな?」
「ディルアル様?!」
更に驚いた様に、三人がディルを見る。
そりゃ、驚くよな?
でも被害に合いそうになったサンが付き添うのだから、腹心兼護衛の俺が一緒にいてもおかしくない。
こじつけだろうと、放ってはおけない。
「ハーツ達は、陛下に経過の報告頼むよ。ここは、僕達で大丈夫だから」
「あら、ディーちゃんも看病するの?」
「勿論。だってティアが気が付かなかったら、僕達は被害にあって今ここにいなかったからね?」
「では、私は警備にあたります」
「じゃ、僕とハーツが伝達係すればいいですね?」
決まれば素早く動く。
これは、主の影響が強い。
側近らは、主によって個性が変わる。
順応性や素早さは、ティアに鍛えられたに違いない。
「さぁ、リーフはティアを見といでよ。僕は少し彼等に聞きたい事あるから」
「あぁ、そうする」
俺が寝室に入ると、シンプルなベットで眠るティアがいた。
その横で不器用な手つきでタオルを搾るサンがいる。
「どうだ?」
「発熱がヒドイみたいだよ」
「治癒魔法はからっきしだもんな、俺達は」
「そうだね。これなら、勉強しとけばよかったよ」
治癒魔法は適合者しか出来ない。
サンは少なからず、適合者ではあった。
ただ、低かったから勉強はしなかったんだよな。
俺はからっきしだ。
適合しなかったから。
「解毒剤は飲んだんだろ?」
「飲ませたよ。ただ、多少は回ったんだろうね」
「飲ませた?」
言葉に引っ掛りを覚える。
゛飲ませたよ゛
普通の言葉のはずなのに。
そして、すぐに思い当たる。
倒れたティアに、どう飲ませたのか分かってしまう。
下心がないにしても、口移しキスだ。
「その場にいなかった事が悔やまれるな」
呟いた独り言は、まさに嫉妬だ。
治療の一貫だったとしても、やはり嫉妬はしてしまう。
自分はこんなに、心が狭いだろうか?と思ってみたり。
「怖いって思った…」
「何がだ?」
突然呟かれた言葉に、俺はただ耳を傾ける。
サンは自分の手を見つめて、絞り出す様に言う。
「ティアが眠りについた時。もう目を開けないんじゃないかって!」
俺が黙っていると、続けざに言う。
「だから息をしている事が、こんなに安堵出来るなんて知らなかった……」
「なら、その意味を考えろ。あり得ないとか否定せずに、ありのままの気持ちを考えろ」
「リーフはみつけたのかい?」
俺は迷わずに頷く。
だって答えはすぐ近くに転がっていたんだから。
白魔女が導き出した答えと違っていたとしても、俺がティアを選んだのは必然の様な気がする。
「俺は俺の意思で、ティアを求めている。この歳で初恋だからな…拗らせないか不安だけどな?」
ティアの横に移動して、熱い頬を撫でれば気持ちが良いのかすり寄ってくる。
その仕草が愛おしいくてたまらない。
答えさえ認めてしまえば、簡単に出てくる気持ち。
「……初恋?」
「あぁ、勘がそう言ってるしな」
上手く説明出来ないから勘と言っておく。
間違いじゃないし、大丈夫だろう。
「初恋ってどんな風になるのかな?」
「強く失いたくないって思うんじゃないか?」
「じゃ、私…」
「後は自分で考えろよ?俺だって初心者なんだからな?」
そのまま、少しの間沈黙が続いた。
タオルの搾る音だけが室内を満す。
恋はするもんじゃなく、気がつけば落ちるものだと聞いていた通りだった。




