No.23 仕事馬鹿と王子様と珍獣
鳥のさえずりが聞こえてくる爽やかな朝。
久々に睡眠をタップリ取った。
朝の身支度を整えて、ちょっと遅めの朝食を食べて一息。
ソファーにダラッとしていると、ユーリの冷たい視線が突き刺さる。
「また、そんなだらしのない…」
「そうよ。普段からちゃ~んとしとかないと、困った事になるわよ」
「いいじゃん。今は二人しかいないんだし」
そう、現在ジェニーはお使いに行ってもらっている。
あの薬を医局室に届けてもらっているのだ。
仕方ないと呆れ顔の二人を放置して、ゴロッと寝そべる。
すると、音もたてつずにジェニーが帰ってきた。
手には藍色の封筒を手にして。
デジャブ。
嫌な予感しかしない。
「任務遂行してきました。それとこれ…ナルサス氏からです」
「うん、それは分かる」
分かるから嫌なんだけどね。
そのままに出来るはずもなく、私は頷きながら受けとる。
゛午前中に実験の話をしたい
良ければそちらにお邪魔してもいいだろうか?゛
超ストレートなお誘いです。
前の手紙でよしと言った身としては、許否する材料はない。
だって、今日は予定のない日。
もしや、狙ってた?
そんな訳ないか。
「申し訳ありません。どうしても、との事で…」
「気にしないで。デジャブ感に驚いているだけだから」
ちょっと驚いて引いただけ。
まさか本気でお誘いが来るなんて、思ってなかったし。
渋々ながらに、オッケーの返事を書く。
「ちょっと驚きよね~?」
「えぇ。あのナルサス氏ですからね」
「一番驚いているの私だから!」
机に向かいながら私は吠える。
インクを魔法で乾かして、綺麗にたたんで封筒に入れる。
「ジェニー、もう一度お使い頼まれてくれない?」
「はい。ナルサス氏に渡せばよろしいのですね」
「そう。お願いね」
一礼して去っていくジェニーを見て、私もやらなくてはならない事をする。
昨日まで広げていた書類を片付けて、花瓶に花ぐらいは活けなくてはならない。
花瓶の花は、いつもハーツ任せなんでお願いしてしまう。
ユーリには、お茶うけの用意を頼む。
私はその間に、書類を分けて収納。
ジェニーが帰ってくる頃には、準備万端に用意は終わっていた。
それから少しして、仕事馬鹿もといイルクがやってきた。
「返事ありがとう。今日は有意義な時間にしようと思う」
「そうですね。色々とお話しましょう」
精一杯の笑顔で迎えて、ソファーに座ってもらう。
すでに噛み合うか不安しかないけど。
「新薬の噂は聞いている」
「早いですね。出来たばかりで、今朝納入したばかりですのに」
「新薬はすぐに報告が来るようにしている」
もう情報が回っている事に驚く。
納入して数分間。
さすが仕事馬鹿と言うべきか。
「効果も抜群。素材も入手しやすさを考えても最良だと思う」
「ありがとうございます。それを言うためにわざわざ?」
「それもある。一番は話したかったから、だな」
「話を、ですか?」
私は、キョトンとしてしまう。
どんな話をしようと言うのか。
共通の話題なんて、魔法と薬学しかない。
「どうしたら、古代魔法が使える様になるか?」
「私はそれしか使えないのです」
逆にどうすれば、普通の魔法が使えるのか聞きたい。
私は先生と一緒に試行錯誤のうえで使えた魔法が、今の魔法であっただけ。
普通の魔法が使えたら、最初にあんなに苦労しなかった。
「なるほど…」
「なので、教える事は出来ないのです」
「では、薬学は誰に習った?」
「薬学は、亡き師と暁の白魔女に。半分以上は独学ですけど」
面接みたいな会話だ。
フレンドリーは求めてなかったけど、ここまでガチガチの会話は、なかなか辛いものがある。
でも、もっとしんどい事があると知るのはこの後すぐ。
ノックと一緒に顔を出したのは、サンエーリ様とリーフ様。
私の作業部屋に顔を出す人は決まっているから、ユーリやハーツもよっぽどじゃなければ止めないし、相手は王子様止められないだろうね。
「お茶でもと思ったんだけど…」
じっとナルサス氏を見ているサンエーリ様。
そして、帰る気はないらしい。
「誰なんだ?」
憮然としているナルサス氏は、不機嫌全開でいる。
「人に名を尋ねるなら、まずは自分から名乗るべきでは?」
「失礼した。俺はイルク・ナルサス」
「私はサンエーリ・エメラル。彼は腹心のリーフ・バルト。ティアとお茶をしようと訪ねてみたんだけど」
笑顔とは裏腹に、雰囲気が怖いです。
ピリピリしています。
なんとなく居たたまれなくて、勢いだけでサンエーリ様達にも席を進めました。
「あの、座りましょう!そのままだと、話が出来ませんし」
自分で自分の首を締めてる感は否めないけど、今のピリピリ常態から抜け出したいから藁をも掴みますよ。
「ありがとう。ティアが今日は時間あるって、ディルに聞いたから来てみたんだ」
「お兄様に聞いたんですか」
犯人はお兄様でした。
確かに数分前まで暇でした。
ソファーにだらしなく座って、ユーリの冷たい視線を受けてましたよ。
お兄様、妹のプライバシ保護は何処へいったのでしょうか?
ユーリにお茶を入れ直してもらって、私もソファーに座る。
「ディアティア姫との関係は?」
「恋人だね」
「恋人だな」
「えっ?」
直球なナルサス氏に、真顔で答えるサンエーリ様達。
まだその設定引きずっている事に驚くやらドキッとするやら。
「恋人がいるなんて聞いてないが?」
「貴殿の許可が必要なのかな?」
「必要なのは、ティアの答えだけだろ?」
ピリピリから、バチバチに変わりました。
どうしてこうなったの?!
「ねぇ、ティア。あの時了承してくれたよね?」
あの時…モーリと対面した時だ。
確かにあの時は了承したので、一応頷いておく。
「貴殿はティアの友人かな?」
「友人……今はまだ友人だが、婚約者候補になってみせる」
えっ、そんな決意表明いらないよ?
私の老後は、ゆっくりまったりなスローライフだし。
この国に残る選択肢はない。
私が左右に首を振ると、サンエーリ様は微笑みを浮かべる。
反面、ナルサス氏は苦い顔でサンエーリ様達を見る。
「今日は邪魔も入ったから、次は二人っきりで話をしよう」
「次…ですか?」
「次までには、面白い話題を用意しておく。では、また」
スタッと立ち上がると、返事も聞かずに部屋を後にする。
私は次…の発言に付いていけずに、呆然とする。
「彼は何がしたいんだろうね?」
的を得ている質問にすら、答えられずに軽く頷いてしまう。
「まぁ、細かい事はいいじゃねーか。三人でお茶しようぜ」
「そうだね。せっかくだしね」
「はい。そうですね…」
ちょっと冷めたお茶を飲みながら、少し考えてしまう。
イレギュラー続きで、次に何があるか分からないのが怖い。
でも、こればかりは仕方ないので慎重にいくしかない。
ご機嫌のサンエーリ様とリーフ様を見て、新たに慎重に行くと決意した。




