第8話 私の名前
「もう朝か」
天河は目を擦りながらそう呟いた。
天河は自宅に帰ると、そのまま寝てしまったのだ。
朝の眩い光が、夜の名残を抱くベッドに静かに差し込んでいた。
「父さんか母さん、起こしてくれよ……。まぁ、自分の部屋だし、起こしてって頼み忘れたから仕方ないか。っていうか、ベガは大丈夫かな」
寝床の重力に吸われながらも立ち上がり、準備を進めた。
♢
マンション《織星レジデンス》107号室に立ち、インターホンを優しく押した。
夜の静寂はとっくに消え、通りを歩く人々の足音や鳥のさえずりが、朝の訪れを感じさせていた。
誰が来たのかを確かめることもなく、扉が勢いよく開いた。
すると美王香は、明るい声で話しかけた。
「天河おはよう!ベガちゃんの様子見かな?」
「おはよう、ベガの様子を見に来た。今日はお休みで学校ないから」
天河がちょっと嬉しそうにそう言った。
二人が会話してると、美王香の後ろから、たけのこのようにベガがにょきっと顔を出した。。
それに気づいた天河は、口元を緩め、ゆっくりと声をかけた。
「おはよう、ベガ」
陽だまりのように温かな声を受け取ったベガは、言葉を選ぶように一瞬沈黙したあと、声を発した。
「おはよう……、天……河」
今にも風に消えそうなほどか細かい声だったが、天河には確かに聞こえた。
天河は嬉しそうに「おはよう!」とベガに返し、美王香を見て、吐息に言葉を混ぜるように、そっと尋ねた。
「ベガになんか教えた?」
「ちょっとね」
美王香の回答に天河は、驚きと喜びが入り混じった声で、「ありがとう。これからも少しずつ教えてあげてほしい」と言うと、美王香がにこっと笑い、親指を立てた。
二人の会話に入るタイミングをうかがっていたベガは、ようやく口を開いた。
「私も地球の名前がほしい……、天河や美王香みたいに。二人で名前考えられないかな?」
天河と美王香に、衝撃が走った。




