第59話「セリア、上手くなったね」
第59話「セリア、上手くなったね」
光が、空を割るように伸びていった。
里全体が、その光に包まれようとしていた。
「これは……」とレイドが、後ずさりながら言った。
自分が引き起こしたことの大きさに、気づいたようだった。
* * *
「先生」とセリアが叫んだ。「今です」
セリアがミアに手を伸ばした。
ミアは、ルナを片腕で抱いたまま、もう片方の手でセリアの手を握った。
「合わせるよ」とミアが言った。
「はい」
* * *
二つの魔力が、触れ合った。
最初は、ぶつかった。
何度も練習した、あの感覚だった。
でも、今回は違った。
数日間の特訓が、体に染み込んでいた。
セリアの魔力が、流れるようにミアの魔力に重なった。
* * *
「ぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」
ルナの光が、さらに強くなった。
里の建物が、揺れ始めた。
「間に合うか」とヴァルが言った。
「間に合わせる」とミアが言った。
* * *
ミアとセリアの合わせた魔力が、ルナを包んだ光に触れた。
抑え込むのではなかった。
流すのだった。
二人で作った道に沿って、ルナの魔力が、空へと逃げていった。
* * *
「セリア、そのまま」とミアが言った。
「はい」
「崩さないで」
「崩しません」
セリアの声には、迷いがなかった。
汗が、頬を伝っていた。
それでも、手を離さなかった。
* * *
光の柱が、天まで伸びた。
里の人々が、外に出てきて、それを見上げていた。
誰も、声を出さなかった。
ただ、光を見ていた。
* * *
やがて、光が収まっていった。
空に伸びた光が、星のように散って、消えていった。
里は、静かだった。
建物は、揺れただけで、崩れてはいなかった。
* * *
「ぁ……」
ルナが、ミアの腕の中で、静かになった。
泣き疲れたのか、目を閉じていた。
「ルナ」とミアが言った。
小さな寝息が聞こえた。
(無事だった。)
(間に合った。)
* * *
セリアが、その場に座り込んだ。
全身から力が抜けたようだった。
「セリア」とミアが言った。
「はい……」
セリアが顔を上げた。
汗だくの顔だった。
でも、笑っていた。
* * *
「セリア、上手くなったね」とミアが言った。
その言葉に、セリアの目から、涙がこぼれた。
今度は、拭わなかった。
「……ありがとうございます」とセリアが言った。
「泣いていいよ」とミアが言った。
「はい」
セリアは、そのまま泣いた。
* * *
ヴァルが、レイドの方を見た。
レイドは、その場に立ち尽くしていた。
自分が何を引き起こしたのか、ようやく理解したような顔だった。
「終わったな」とヴァルが言った。
* * *
里の人々が、集まってきた。
何が起きたのか、口々に話していた。
その中で、レイドだけが、動かずにいた。
「レイド」と、里の誰かが言った。「今のは、お前が」
レイドは、答えなかった。
* * *
ミアがルナを抱いたまま、レイドの前に立った。
「レイド」とミアが言った。
「……」
「ルナを傷つけようとした」とミアが言った。「その理由が、里のためだったとしても」
レイドが、初めてミアの目を見た。
* * *
「私は、それを許さない」とミアが言った。
声は、静かだった。
でも、その静けさの方が、何よりも重かった。
(優しさが消えた声。)
(本気の声だった。)
* * *
里の長がやってきて、レイドを見た。
「レイド」と長が言った。「詳しい話を聞かせてもらう」
「……はい」とレイドが言った。
抵抗はしなかった。
もう、笑顔もなかった。
<続きます>
【次回予告】
レイドが、里の手によって捕らえられる。
セリアが、最後にレイドと向き合う。
「ここには戻れない」
そう言って、セリアの手が動いた。
次回で一応、世界編はひと段落します




