第58話「動く気配」
第58話「動く気配」
朝になっても、レイドは姿を見せなかった。
「いつもは、こんなに音沙汰がないことはないんです」とセリアが言った。
不安そうな顔だった。
「何かあったのかもしれない」とミアが言った。
ヴァルは、朝からずっと外の気配を探っていた。
* * *
「ぁ……」
ルナも、いつもと様子が違った。
朝から、あまり笑わなかった。
「ルナ、大丈夫?」とミアが言った。
「ぁ……ぅ……」
ミアはルナを抱き上げた。
いつもより、少し重く感じた。
(気のせいかもしれない。)
(でも、そうは思えなかった。)
* * *
その時だった。
里の外れで、何かが動く気配がした。
ヴァルが立ち上がった。
「来たな」
「レイド?」とセリアが言った。
「わからん」とヴァルが言った。「だが、この家に向かっている」
* * *
ミアはルナを抱いたまま、玄関の方を見た。
しばらくして、扉が開いた。
レイドだった。
でも、いつものレイドとは違った。
笑顔がなかった。
ただ、まっすぐこちらを見ていた。
* * *
「レイド」とセリアが言った。「どうしたんですか、その顔」
「セリア」とレイドが言った。「下がっていてくれ」
「え?」
「これは、お前のためでもある」
レイドの声は、静かだった。
いつもの感じのいい声とは、違う静かさだった。
* * *
「何を言ってるんですか」とセリアが言った。
レイドは答えなかった。
ミアの腕の中の、ルナを見ていた。
(見られている。)
(ルナが、見られている。)
ミアの背筋が、冷たくなった。
* * *
「レイド」とミアが言った。「何をするつもりか、聞いていい?」
「ミア殿」とレイドが言った。「あなたも、里の脅威になり得る人だ」
「うん、それは自覚してる」
「だが、あなたを今、どうこうするつもりはない」
「じゃあ」
「その子だけだ」
* * *
空気が変わった。
ヴァルが、低く唸った。
「その子だけ、とはどういう意味だ」とヴァルが言った。
「里の伝承に、月の力を宿す者の話がある」とレイドが言った。「その子は、それに近い」
(月の力。)
(初めて聞く言葉だった。)
(でも、今はそれどころではなかった。)
* * *
「その子が育てば、いずれ里に災いをもたらす」とレイドが言った。「今のうちに、始末しておくべきだ」
「始末」とミアが言った。
声が、少し低くなった。
「今、始末って言った?」
* * *
レイドは動じなかった。
「感情的にならないでくれ、ミア殿。これは、里のためだ」
「里のため」
「あなたも、いずれわかる」
レイドが一歩、前に出た。
* * *
「動かないで」とミアが言った。
声が、変わった。
優しさが、消えていた。
「……ルナ泣かしたの、誰?」
* * *
まだ、ルナは泣いていなかった。
でも、ミアの声には、もうその覚悟があった。
レイドが、一瞬だけ、たじろいだ。
それでも、前に出ようとした。
* * *
「セリア」とヴァルが言った。「今だ」
セリアが、両手を構えた。
数日間の特訓の成果だった。
小さな光が、セリアの手のひらに灯った。
「レイド」とセリアが言った。「それ以上進んだら、わたしがあなたを止めます」
* * *
レイドがセリアを見た。
初めて、驚いた顔をした。
「セリア、お前……」
「はい」とセリアが言った。「わたしは、もう昔のわたしじゃありません」
* * *
レイドが少し笑った。
でも、いつもの感じのいい笑顔ではなかった。
乾いた笑いだった。
「その程度の力で、俺を止められると思うのか」
「わかりません」とセリアが言った。「でも、止めます」
* * *
「ぁ……」
ルナが、ミアの腕の中で、身をよじった。
空気の重さに、気づいているようだった。
「ぁ……ぁ……」
声が、震え始めていた。
(泣きそうだった。)
(もうすぐ、泣く。)
* * *
レイドが、ルナに向けて手を伸ばした。
「これで終わりだ」とレイドが言った。
ヴァルが動いた。
ミアも動いた。
セリアも動いた。
でも、それより早く。
* * *
「ぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」
ルナが、泣いた。
大きな声だった。
今まで聞いたことのない声だった。
その瞬間、ルナを中心に、強い光が溢れ出した。
<続きます>
【次回予告】
ルナの魔力が、暴走する。
光が空へと伸びていく。
「先生、今です」
セリアがミアに手を伸ばす。
二人の魔力が、一つになる。
みなさん、地震は大丈夫でしたか?私は福岡県にいるので揺れてかなり怖かったです。




