第57話「見張っておいた方がいい」
第57話「見張っておいた方がいい」
特訓は、順調に進んでいた。
セリアの光は、五秒が十秒になった。
制御も安定してきた。
「今日は、ミアと一緒に魔力を合わせる練習をしよう」とミアが言った。
「合わせる、というのは」
「二つの魔力を、一つの流れにする感じ」
* * *
セリアが少し緊張した顔をした。
「先生の魔力と、合わせるんですか」
「うん。いきなり大きくはしないから、大丈夫」
「……緊張します」
「私も、実は緊張してる」とミアが言った。
「先生でもですか」
「うん。誰かと魔力を合わせるの、久しぶりだから」
* * *
二人で、小さな光を合わせる練習をした。
最初は、うまく噛み合わなかった。
セリアの光と、ミアの光が、ぶつかって消えた。
「もう一回」とミアが言った。
何度か繰り返した。
少しずつ、二つの光が、一つに近づいていった。
* * *
「ぁ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
ルナが二人の光を見て、はしゃいでいた。
「ルナちゃん、嬉しそうです」とセリアが言った。
「うん」
二つの光が、初めて綺麗に重なった。
温かい光だった。
「できた」とセリアが言った。
「できたね」とミアが言った。
* * *
その日の夕方だった。
セリアが、水を汲みに外へ出た帰り、レイドを見かけた。
里の外れだった。
人があまり来ない場所だった。
レイドは、一人で立っていた。
(また、あそこにいる。)
* * *
セリアが声をかけた。
「レイド」
レイドが振り返った。
少し驚いた顔をした。
「……セリアか」
「最近、よくここにいますね」
「散歩だ」とレイドが言った。「他に意味はない」
その言い方が、いつもと違った。
感じのいい笑顔が、少し遅れて出てきた。
* * *
「レイド」とセリアが言った。「何かあったんですか」
「何もない」
「顔色が良くないです」
「気のせいだ」
レイドは、それだけ言うと、足早に去っていった。
セリアは、その背中を見送った。
(気のせい、には見えなかった。)
* * *
セリアは家に戻ると、ミアにそのことを話した。
「レイド、最近見ない場所で、よく一人でいるみたいだね」とセリアが言った。
ヴァルの目が、鋭くなった。
「その男を、見張っておいた方がいい」とヴァルが言った。
「そんなに?」とセリアが言った。
* * *
「あの男の気配が、変わった」とヴァルが言った。
「気配」とミアが言った。
「昨日から、少し違う」
「どう違うの」
ヴァルが少し考えた。
「……何かに、覚悟を決めた気配だ」
* * *
静かになった。
「覚悟」とセリアが言った。「何の覚悟でしょうか」
「わからん」とヴァルが言った。「だが、良い方向の覚悟には見えなかった」
(良い方向ではない。)
(ヴァルがそう言うなら。)
* * *
「ぁ……」
ルナが、少しぐずった。
珍しい時間だった。
いつもは元気な時間だった。
「ルナ?」とミアが言った。
ルナは、外の方を見ていた。
窓の外、レイドが立っていた場所とは違う方向だった。
でも、何かを感じているようだった。
* * *
「ぁ……ぅー……」
ルナが、小さく声を出した。
ぐずりながら、ミアの服をつかんだ。
(この子が、こんな時間にぐずるのは珍しい。)
(何かを感じているのかもしれない。)
ミアはルナを抱き上げた。
「大丈夫だよ」とミアが言った。
でも、内心は違った。
(大丈夫かどうかは、わからなかった。)
* * *
その夜、ミアは眠れなかった。
ヴァルの言葉が、頭から離れなかった。
(覚悟を決めた気配。)
(良い方向ではない覚悟。)
ミアはルナを見た。
眠っていた。
いつもより、少しだけ、眠りが浅そうに見えた。
(気のせいならいい。)
(でも。)
<続きます>
【次回予告】
朝、レイドが姿を見せない。
セリアが不安な顔をする。
「いつもは、こんなに音沙汰がないことはないんです」
その時、里の外れで、何かが動く気配がした。




