第56話「今のいいよ」
第56話「今のいいよ」
次の日も、特訓は続いた。
「今日は、制御の続き」とミアが言った。
「はい」
「光を出して、そのまま五秒維持して」
セリアが集中した。
光が灯った。
三秒で消えた。
「まだ短い」とミアが言った。
「……はい」
* * *
何度も繰り返した。
三秒が、四秒になった。
四秒が、また三秒に戻った。
「集中が切れてる」とミアが言った。
「わかってます」とセリアが言った。「わかってるのに、できません」
声に苛立ちが混じっていた。
セリア自身、それに気づいて、少し驚いた顔をした。
* * *
「……すみません」とセリアが言った。「今、苛立った声を出しました」
「別にいいよ」とミアが言った。
「よくないです。先生に、教えてもらってるのに」
「セリア」
「はい」
「苛立つくらい、真剣にやってるってことでしょ」とミアが言った。「それは、悪いことじゃない」
* * *
セリアが少し黙った。
「……先生も、苛立つことありますか」
「あるよ、たくさん」
「見えません」
「見せないようにしてるだけ」とミアが言った。「見せると、ルナが不安になるから」
(ルナは、大人の空気にすぐ気づく。)
(だから、なるべく見せないようにしていた。)
* * *
「ぁーーー」
ルナが近くで、積み木のようなものを積んでいた。
崩れた。
「ぁ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
怒っているようだった。
でも、すぐにまた積み始めた。
(切り替えが早い。)
(あれくらい早ければいいのに、とミアは思った。)
(自分にはできないことだった。)
* * *
特訓を再開した。
セリアがまた光を灯した。
一秒、二秒、三秒。
四秒を超えた。
五秒を超えた。
「……できた」とセリアが言った。
* * *
「セリア、今のいいよ」とミアが言った。
セリアが顔を上げた。
汗だくの顔だった。
でも、笑っていた。
「本当ですか」
「本当。集中の仕方が、変わった」
「変わった、というのは」
「力で押さえつけるんじゃなくて、流す感じになった」とミアが言った。「それができると、疲れにくくなる」
* * *
「ぁ!!」
ルナが手を叩いた。
セリアの光に反応していた。
「見てくれました?」とセリアが言った。
「見てた」とミアが言った。
セリアがルナに近づいた。
「ルナちゃん、見ててくれたんですね」
「ぁー」
ルナがセリアの指をつかんだ。
小さな手だった。
* * *
ヴァルが横で見ていた。
「変わったな」とヴァルが言った。
「何が」とミアが言った。
「セリアの魔力の質だ。数日前とは違う」
「わかる?」
「わかる。荒かったものが、少し滑らかになった」
(滑らかになった。)
(確かに、そうかもしれない。)
* * *
夜、セリアが座り込んだ。
疲れていた。
でも、顔つきは明るかった。
「先生」とセリアが言った。
「何」
「ありがとうございます」
「まだ何も終わってないよ」とミアが言った。
「でも、今日、五秒できました」
「うん、できたね」
「嬉しいです」とセリアが言った。「自分の力で、何かができた気がして」
* * *
(自分の力で。)
(また、その言葉だった。)
「セリア」とミアが言った。
「はい」
「魔力操作、上手くなってきてるよ」
短い言葉だった。
でも、セリアの顔が、ぱっと明るくなった。
「本当ですか」
「本当」
「……目に何か入っただけです」
また目を拭っていた。
* * *
その頃、里の別の場所で。
レイドが一人、外に立っていた。
夜だった。
月が出ていた。
レイドは、しばらくその月を見ていた。
誰もいない場所で、レイドの顔から、笑顔が消えていた。
<続きます>
【次回予告】
セリアの特訓が順調に進む中、レイドの様子がおかしい。
「レイド、最近見ない場所で、よく一人でいるみたいだね」
セリアがそう言うと、ヴァルの目が鋭くなった。
「その男を、見張っておいた方がいい」




