第55話「本気で言ってる?」
第55話「本気で言ってる?」
翌朝、セリアがミアのところに来た。
いつもより早かった。
顔つきも違った。
「先生」とセリアが言った。「お願いがあります」
「何?」
「魔力操作を、教えてください」
* * *
ミアは少し驚いた。
「魔力操作」
「はい」
「セリアは薬草とか、修理とか、そっち専門だと思ってた」
「そうです」とセリアが言った。「でも」
「でも?」
「ルナちゃんを、自分の力でも守れるようになりたいんです」
* * *
(自分の力でも。)
(自分の力でも、だった。)
(私の力じゃなくて。)
「それ、本気で言ってる?」とミアが言った。
「本気です」
セリアの目は、揺れていなかった。
(昨日、レイドに言われたことを、そのまま返しているのかもしれない。)
(決めさせられているんじゃないのか、と言われた。)
(それに対する、答えなのかもしれない。)
* * *
「ぁ?」
ルナがセリアを見ていた。
いつもと違う空気を感じているようだった。
「魔力操作は簡単じゃないよ」とミアが言った。「セリアはエルフだから、素質はあると思うけど」
「知っています」
「痛い思いもすると思う」
「知っています」とセリアがもう一度言った。「それでも、お願いします」
* * *
ヴァルが横から言った。
「やらせてみればいい」
「ヴァルまで」とミアが言った。
「あの目を見ろ」とヴァルが言った。「止めても、勝手に始める目だ」
ミアはセリアを見た。
(確かに。)
(止めても聞かなそうな顔だった。)
* * *
「わかった」とミアが言った。「教える」
「本当ですか」
「本当。でも」
「でも?」
「厳しくするよ。ルナのことに関わるなら、余計に」
セリアが頷いた。
迷いはなかった。
「望むところです」
* * *
その日から、特訓が始まった。
最初は、小さな魔力を灯すだけだった。
「手のひらに、小さい光を出して」とミアが言った。
セリアが集中した。
何も出なかった。
「もう一回」
また何も出なかった。
* * *
セリアの額に汗が浮いた。
「……できません」
「焦らなくていい」とミアが言った。「セリアは、薬草には集中できるでしょ」
「はい」
「同じだよ。集中する対象が違うだけ」
セリアが目を閉じた。
もう一度、集中した。
手のひらに、小さな光が灯った。
弱かった。
でも、灯った。
* * *
「できた」とセリアが言った。
自分でも驚いた声だった。
「ぁ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
ルナが手を叩いた。
光に反応していた。
「見た? ルナちゃん、見てくれました?」とセリアが言った。
「見てた」とミアが言った。「よかったね」
セリアの目に、少し涙が浮いた。
「……目に何か入っただけです」
* * *
数日、特訓は続いた。
小さな光から、少しずつ大きくなった。
制御の練習も始まった。
出した魔力を、思った形に留める練習だった。
「難しいです」とセリアが言った。
「最初はみんな難しい」とミアが言った。「私も最初は、加減がわからなくて壁を壊した」
「壁、ですか」
「うん。直そうとしたら、余計に壊れた」
* * *
セリアが少し笑った。
「先生でも、そんな時期があったんですね」
「あったよ」
「今は、加減できるんですか」
ミアは少し黙った。
「……できてる時と、できてない時がある」
「橋のことですか」
「なんで知ってるの」
「有名です」とセリアが言った。
(有名なのか。)
(知らなかった。)
* * *
ヴァルが少し離れたところで見ていた。
ルナも一緒だった。
ヴァルの毛をつかんで、遊んでいた。
「ぁーーー」
「セリアの特訓が気になるか」とヴァルが言った。
「ぁ!」
「もう少し見ていろ。あれは、お前を守るための力になる」
(ルナには、まだ言葉の意味はわからない。)
(でも、何かを感じているようだった。)
* * *
夜、セリアが疲れて座り込んだ。
「今日はここまで」とミアが言った。
「まだできます」
「無理しすぎ」とミアが言った。「疲れた状態でやると、ろくなことにならない」
セリアは少し不満そうな顔をした。
でも、頷いた。
「わかりました」
* * *
「セリア」とミアが言った。
「はい」
「なんでそんなに焦ってるの」
セリアは少し黙った。
「……レイドに、決めさせられているんじゃないかって言われました」
「うん、聞いた」
「それが、悔しかったんです」とセリアが言った。「自分の力で、何かを守れたことが、一度もなかったから」
* * *
(一度もなかった。)
(そんなことはない、とミアは思った。)
(セリアは、いつも家を守っていた。料理も、薬草も、ルナの世話も。)
「セリアは、もう色々守ってるよ」とミアが言った。
「それは、力じゃなくて、日々の積み重ねです」
「それも力だよ」
セリアは少し首を振った。
「わたしは、ルナちゃんを、危険から直接守れる力が欲しいんです」
* * *
ミアはセリアを見た。
(この子は。)
(本気だった。)
(最初からずっと、本気だった。)
「わかった」とミアが言った。「じゃあ、明日からもっと厳しくする」
「はい」
「泣いても止めないよ」
「泣きません」とセリアが言った。
(きっと泣くだろうな、とミアは思った。)
(でも、それでいい。)
<続きます>
【次回予告】
特訓が続く。
セリアの魔力が、少しずつ形になっていく。
「セリア、今のいいよ」
ミアが初めて、そう言った。
セリアが顔を上げる。
汗だくの顔で、笑った。




