第54話「里の外のもの」
第54話「里の外のもの」
次の日も、レイドは来た。
今度はセリアに会いに来た。
ミアには挨拶だけした。
「少し、セリアと」とレイドが言った。
「どうぞ」とミアが言った。
ミアはルナを連れて外に出た。
ヴァルのそばに座った。
(また外か。)
(何度目だろう。)
* * *
「ぁ!」
ルナが手を伸ばした。
窓の方を見ていた。
中が気になっているようだった。
「セリア、大丈夫かな」とミアが言った。
「わからん」とヴァルが言った。「だが、昨日より長く話すつもりのようだ」
「長く」
「あの男の足の向きだ。長居する気の男の足は、扉に向かない」
(そんなことでわかるものなのか。)
(竜王だからかもしれなかった。)
(単純に長く生きているからかもしれなかった。)
* * *
中では、セリアとレイドが向き合っていた。
「セリア」とレイドが言った。「昨日、ミア様に何を話した」
「先生に、話をしただけです」
「先生、か」
レイドの声が、少しだけ変わった。
「もう先生なのか。俺じゃなくて」
* * *
「レイド」とセリアが言った。「わたしは弟子です。先生と呼ぶのは当然です」
「里にいた頃は、俺のことも名前で呼んでいた」
「今もレイドと呼んでいます」
「そうだな」
レイドが笑った。
昨日よりも、少しだけ長く笑った。
(長い。)
(今までより、長い。)
* * *
「セリア」とレイドが言った。「里の外のものは、里には要らないと思わないか」
「……どういう意味ですか」
「あの魔女は、里を壊しかけた」
「先生は」
「知っている」とレイドが言った。「だが、里の人間は忘れない。あの日のことを、誰も忘れていない」
セリアは黙った。
(知っている。)
(先生自身が、一番よく知っている。)
* * *
「セリア」とレイドが言った。「お前の未来を考えている」
「わたしの未来」
「先生の弟子でいる限り、お前の未来はない」
* * *
静かになった。
セリアは何も言わなかった。
レイドは待った。
感じのいい待ち方だった。
でも、昨日よりも長かった。
「……未来、というのは」とセリアが言った。
「里で、まっとうに暮らすことだ」
「まっとうに」
「魔女に振り回されず、里の中で、里の人間として」
* * *
「セリアは強くなった」とレイドが言った。「魔力操作も、昔とは違う。それは認める」
「……ありがとうございます」
「だが、その力を、あの魔女のために使うのか」
「先生のためじゃありません」とセリアが言った。「わたしが、そう決めて使っています」
「決めさせられているんじゃないのか」
* * *
セリアの手が、少し震えた。
(決めさせられている。)
(そんなこと、考えたこともなかった。)
(でも。)
「違います」とセリアが言った。
声が少し大きくなった。
自分でも驚くくらいだった。
「わたしは、自分で決めています」
* * *
レイドがセリアを見た。
じっと見た。
「そうか」
「はい」
「なら、聞かせてくれ」とレイドが言った。「見合いの話は、どうするつもりだ」
(来た。)
(ついに、これを言われた。)
* * *
「お断りします」とセリアが言った。
迷わなかった。
自分でも、少し驚いた。
レイドの顔から、笑顔が消えた。
初めてだった。
里に来てから、初めて見た顔だった。
「……なぜだ」
「わたしには、もう決めた道があるからです」
* * *
「魔女の弟子でいることが、道か」とレイドが言った。「里を出て、里の外のものと歩くことが」
「はい」
「里が、お前を心配していないと思うのか」
「心配してくれるなら」とセリアが言った。「わたしの決めたことも、尊重してほしいです」
* * *
レイドが黙った。
長い沈黙だった。
「……セリア」とレイドが言った。「俺は、お前のためを思っている」
「わかっています」
「なら」
「でも」とセリアが言った。「わたしのためを、レイドが決めることはできません」
* * *
レイドの笑顔が、また戻った。
でも、さっきまでの笑顔とは違った。
少しだけ、硬かった。
「……そうか」とレイドが言った。「今日のところは、これで」
「はい」
「また、話そう」
「……はい」
セリアは、それしか言えなかった。
* * *
外に出てきたレイドは、ミアに軽く頭を下げた。
「失礼します」とレイドが言った。
「うん」とミアが言った。
レイドが去っていった。
その背中を、ヴァルがじっと見ていた。
「変わったな」とヴァルが言った。
「何が」
「あの男の笑顔だ。今日は、最後まで戻りきらなかった」
* * *
セリアが出てきた。
顔が白かった。
昨日よりも白かった。
でも、目は昨日より強かった。
「セリア」とミアが言った。
「……断りました」とセリアが言った。「はっきりと」
「そう」
「怖かったです」とセリアが言った。「でも、決めていることを、決めさせられているみたいに言われて」
「言われて?」
「腹が立ちました」
* * *
セリアが、少し笑った。
震えるような笑い方だった。
「わたし、腹を立てたの、久しぶりです」
「そう」とミアが言った。「いいと思う」
「いいんですか」
「腹を立てていい時に、立てられたなら」
* * *
「ぁ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
ルナが急に叫んだ。
両手を上げていた。
「ルナも怒ってるの?」とミアが言った。
「ぁ!!」
(違いそうだった。)
(ただ元気なだけだった。)
セリアが、少しだけ声を出して笑った。
「……目に何か入っただけです」
でも、目を拭っていた。
<続きます>
【次回予告】
セリアが、魔力操作の特訓を始める。
「ルナちゃんを、自分の力で守れるようになりたいんです」
ミアが少し驚いた顔をする。
「それ、本気で言ってる?」
セリアが頷く。
本気の顔だった。




