第48話「国家会議」
第48話「国家会議」
帝国の王城だった。
広い部屋だった。
窓が大きかった。
天井が高かった。
普段は重要な会議に使う部屋だった。
今日も重要な会議だった。
帝国王が座っていた。
白髪交じりだった。
五十代だった。
普段は威厳のある顔をしていた。
向かいに連邦王が座っていた。
体格がよかった。
四十代だった。
普段は落ち着いた顔をしていた。
二人とも、普段の顔をしていなかった。
* * *
ライナーが報告した。
「野草のスープと硬いパンでした」
静かになった。
「半分ずつです」
もっと静かになった。
「ルナ殿の離乳食だけは豪華でした」
「……そうか」と帝国王が言った。
「はい」
「毎食か」
「慣れてきたと仰っていました」
「…………」
帝国王が窓の外を見た。
しばらく見ていた。
何かを考えていた。
「慣れるものではないな」
「同感です」
* * *
ガルドが続けた。
「ヴァル殿が狩ってきて補っているようです!!」
「竜王が狩りを」と連邦王が言った。
「はい!!」
「……世界滅亡級の存在が食費を補っている」
「そうです!!」
連邦王が少し間を置いた。
「ルナ殿のためなら何でもするということか」
「間違いないです!!」
「……そうか」
連邦王が静かに息を吐いた。
テーブルの上に手を置いた。
考える顔だった。
「支援すべきだな」
「当然だ」と帝国王が即座に言った。
(即座だった。)
(考える間もなかった。)
(珍しかった。)
* * *
問題は名目だった。
「名目が必要だ」とライナーが言った。
「なぜだ」と帝国王が言った。
「ミア殿が目立ちたくないと言っています」
「目立ちたくない」
「はい。大きな支援はそれ自体が目立ちます」
「……難しいな」
「適切な名目があれば受け入れてもらえるかもしれません」
「名目か」と連邦王が言った。「何か考えがあるか」
ライナーが少し間を置いた。
「いくつか候補があります」
「聞こう」
* * *
「まず」とライナーが言った。「友好費という案があります」
「友好費」と帝国王が繰り返した。
「帝国と連邦の友好関係を築いた功績に対する、両国からの謝礼です」
静かになった。
「……ミア殿が受け取るか」と連邦王が言った。
「難しいかもしれません」とライナーが言った。
「なぜだ」
「目立ちます」
「友好費が目立つのか」
「両国共同の謝礼は目立ちます」
「……そうだな」
帝国王が腕を組んだ。
「次は」
* * *
「育児支援という案もあります」とライナーが言った。
「育児支援」とガルドが言った。「それはいい!!」
「ガルド」
「なんだライナー」
「一度聞け」
「聞いてる!!」
ライナーが続けた。
「旅をしながら赤ん坊を育てている家庭への支援という名目です。ミア殿個人への謝礼ではなく、ルナ殿の養育費という形にします」
少し間があった。
「……悪くない」と連邦王が言った。
「ルナ様のための支援であれば」と帝国王が言った。「ミア殿も受け取りやすいかもしれない」
「そう考えました」
「ガルドが言ったことと同じではないか」と連邦王が言った。
「整理しました」とライナーが言った。
「……そうか」
ガルドが何か言いたそうな顔をした。
黙った。
(我慢した。)
* * *
「もう一つあります」とライナーが言った。
「何だ」
「竜王対策費です」
静かになった。
「竜王対策費」と帝国王がゆっくり繰り返した。
「はい」
「ヴァル殿は今ミア殿たちと一緒にいるな」
「はい」
「その竜王の対策費を、ミア殿に払うということか」
「ヴァル殿と交渉できる唯一の存在として、ミア殿に外交費という形で」
長い沈黙があった。
「……苦しいな」と連邦王が言った。
「苦しいです」とライナーが言った。
「なぜ出した」
「候補として思いついたので」
「…………」
帝国王が額に手を当てた。
* * *
ガルドが言った。
「全部合わせればいい!!」
「ガルド」とライナーが言った。
「友好費と育児支援と竜王対策費!! 全部入れる!!」
「名目が三つになる」
「多い方が説得力があるだろう!!」
「逆だ」
「なぜだ」
「名目が多いと何を払っているのかわからなくなる」
「……そうか?」
「そうだ」
ガルドが少し考えた。
「じゃあ一番いいのはどれだ」
「それを今話し合っている」
「話し合いが長い!!」
(長くなっていた。)
(ライナーも認めていた。)
* * *
連邦王が言った。
「ルナ殿は今お元気か」
「はい」とガルドが言った。「今日も元気でした!!」
「そうか」
「ぺちんされました!!」
「……ぺちん」
「手でぺちんと叩かれます!! 嬉しいです!!」
連邦王が少し黙った。
「……嬉しいのか」
「嬉しいです!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
連邦王がライナーを見た。
ライナーが静かに頷いた。
(本当に嬉しいんです、という目だった。)
「……そうか」
連邦王がまた少し間を置いた。
「ウサギのぬいぐるみは今も使っているか」
「使っています!! 大切にしています!!」
「……そうか」
(連邦王の顔が少し緩んだ。)
(見ないふりをした。)
* * *
帝国王が言った。
「ライナー」
「はい」とライナーが言った。
「ミア殿はルナ様のためという言葉には弱いのか」
「……弱いと思います」
「そうか」
帝国王が少し考えた。
「育児支援の方向で進めよう」
「帝国としての意見ですか」
「そうだ」
連邦王が言った。
「連邦も同じ方向でいい」
「わかりました」
「ただ」と帝国王が言った。
「ただ?」とライナーが言った。
「名前が平凡だ」
「平凡ですか」
「もう少し、何かある」
「……名前に何かが必要ですか」
「必要というわけではないが」
帝国王が少し考えた。
窓の外を見た。
また考えた。
「ルナ様の名前を入れよう」
「ルナ殿の名前を」
「ルナ様健やか成長支援費。どうだ」
静かになった。
「……いいと思います」とライナーが静かに言った。
「そうか」
「ルナ殿が喜びそうです!!」とガルドが言った。
「喜ぶかはわからないが」と帝国王が言った。
(喜ぶかはわからないが、という顔ではなかった。)
(喜んでほしいという顔だった。)
(ライナーは何も言わなかった。)
* * *
連邦王が言った。
「共同予算として両国で出す形にしよう」
「異存ない」と帝国王が言った。
「金額はどうする」
「多すぎると受け取らない可能性があります」とライナーが言った。
「少なすぎても意味がない」と連邦王が言った。
「適正額を検討します」
「頼む」
ガルドが言った。
「手土産も追加で持っていっていいか!!」
「ガルド」とライナーが言った。
「なんだ」
「それは別の話だ」
「でも持っていきたい!!」
「……持っていくな」
「なぜだ」
「予算と手土産を同時に持っていくと混乱する」
「順番にすればいい!!」
「……順番にしろ」
「よし!!」
(よくなかった。)
(でも止まらなかった。)
* * *
会議が終わった。
帝国王が立ち上がった。
窓の外を見た。
「ライナー」
「はい」
「ミア殿は受け取ってくれると思うか」
ライナーが少し間を置いた。
「……わかりません」
「正直だな」
「ただ」
「ただ?」
「ルナ殿のためという言葉は、少し効きました」
「そうか」
帝国王が小さく頷いた。
「またルナ様に会いたいな」
「招待状をお出しになりますか」
「そうしよう」
(定期的に出していた。)
(毎回丁重に断られていた。)
(それでも出し続けていた。)
(まあ、そういうものだ。)
* * *
廊下に出た。
ガルドがライナーに言った。
「ライナー」
「何だ」
「手土産、何がいいと思う」
「今決めるのか」
「早い方がいい!!」
「予算の話が先だ」
「並行してできる!!」
「……できない」
「なぜだ」
「今日だけで頭を使いすぎた」
「俺はまだ大丈夫だ!!」
(そういう問題ではなかった。)
ライナーが歩いた。
ガルドがついてきた。
「ルナちゃんに何が喜ばれると思う」
「……ガルド」
「なんだ」
「もうすでに手土産の話をしている」
「していいか?」
「……好きにしろ」
「よし!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
(廊下に声が響いた。)
(侍従が驚いた顔をして振り返った。)
(ライナーが静かに前を向いたまま歩いた。)
* * *
その頃、森の近くの宿だった。
ミアは天井を見ていた。
名目のことを考えていた。
ライナーが考えてくると言っていた。
どんな名目を持ってくるのかわからなかった。
(ルナのためという名目なら。)
(断りにくいとは思う。)
(思うが。)
「ぁーーー」
ルナが寝ながら声を出した。
夢を見ているのかもしれなかった。
嬉しそうな声だった。
(何の夢だろう。)
(川かもしれない。)
(ガルドかもしれない。)
(ぺちんした夢かもしれない。)
ミアは少し考えた。
(まあ。)
(名目次第で。)
(考えよう。)
目を閉じた。
<続きます>
【次回予告】
予算書が届いた。
「ルナ様健やか成長支援予算」と書いてあった。
ミアが固まった。
セリアも固まった。
ルナが予算書を噛んだ。
そしてエルフの里から手紙が届いた。
セリアの顔が固まった。




