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戦火で拾った赤ちゃんを育ててたら戦争が終わったんですけど?  作者: ななぐさ
第二部 「戦火の赤ちゃんと世界のおでかけ」
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46/59

43話「戦争が終わった村」

話数がズレているのに今気づきました。すみません。

43話「戦争が終わった村」


 村に着いた。


 国境近くの村だった。

 小さかった。

 畑が広かった。


 畑に人がいた。

 何人もいた。

 一緒に耕していた。


「あの人たちは」とミアが言った。


「帝国の兵士だった人と、連邦の兵士だった人です」とセリアが言った。


「一緒に?」


「戦後に移り住んできた人たちらしいです。依頼書に書いてありました」


 ミアは畑を見た。

 確かに一緒に耕していた。

 ただ、話していなかった。

 隣にいるのに、話していなかった。

 黙って鍬を動かしていた。


(ぎこちない。)


* * *


 依頼の内容は結界の点検だった。


 村の外周に古い結界が張ってあった。

 戦時中に設置されたものらしかった。

 今は機能していないかもしれない。

 確認してほしいということだった。


 村長が出てきた。

 六十代くらいだった。

 疲れた目をしていた。


「来てくれましたか」


「結界の点検に」とミアが言った。


「ええ。まあ、結界はついでみたいなもので」


「ついで?」


 村長が畑を見た。


「あの人たちが来てから三ヶ月経ちます。ずっとああです」


「話さない?」


「話しません。でも喧嘩もしません。ただ、ぎこちない」


(三ヶ月。)

(三ヶ月ぎこちないまま畑を耕している。)


「……それで?」


「何かが変わるといいと思っているだけです」と村長が言った。


「私たちに何か期待してますか」


「いいえ」


 村長が首を振った。


「ただ、あなた方に赤ちゃんがいると聞いたので」


「ルナが何かするとは限りませんよ」


「知っています」


 村長がルナを見た。

 ルナが村長を見た。


「ぁ」


 村長が少し目を細めた。


「……かわいいですね」


「そうです」


* * *


 結界の点検を始めた。


 ミアが村の外周を歩いた。

 セリアがついてきた。

 ルナはヴァルの背中だった。


 結界の痕跡はあった。

 ただ、ほとんど消えていた。

 戦争が終わったから誰も維持しなかったらしかった。


「直しますか」とセリアが言った。


「どうしようか」とミアが言った。


「必要ないかもしれません。戦争は終わりましたし」


「そうだね」


「ただ魔物除けくらいにはなります」


「じゃあ軽く張っておく。加減して」


「先生が言いますか」


「……する。加減する」


 ミアは結界を張り直した。

 今回は加減できた。

 村の外周をぐるりと、薄く、静かに。


「できました」とセリアが言った。


「うん」


「橋のようにはなりませんでしたね」


「……なってない」


「よかったです」


(よかった。)

(加減できた。)

(橋じゃなくて結界でよかった。)

(橋だったらまた石造りになるところだった。)


* * *


 作業が終わった。


 昼になっていた。

 畑の人たちも休憩していた。

 木陰に分かれて座っていた。

 帝国側と連邦側で分かれていた。


 ルナがヴァルの背中から降りた。


「ぁ」


 地面に降りた。

 ハイハイを始めた。


(どこに行くんだろう。)


 ルナは真っすぐ進んだ。

 畑の方に進んだ。

 木陰に近づいた。


 連邦側の元兵士のそばに来た。

 男が一人座っていた。

 三十代くらいだった。

 ルナを見た。


「ぁ!!」


 ルナが男の足元に来た。

 足をつかんだ。

 ぺちぺちした。


 男が固まった。


(この反応は知っている。)

(みんなこうなる。)


 男がゆっくりルナを見た。

 ルナが見上げた。


「ぁ」


「……」


 男が何か言おうとした。

 止めた。

 もう一度言おうとした。


「かわいいな」


 小さい声だった。


* * *


 ルナが次に動いた。


 今度は帝国側の方に向かった。

 女性が一人座っていた。

 四十代くらいだった。


「ぁ!!」


 足をつかんだ。

 ぺちぺちした。


 女性が固まった。

 ルナを見た。


「……なんで来たの、この子」


 誰に言うともなく言った。


 連邦側の男が言った。


「さっきこっちにも来た」


 女性が男を見た。

 男が女性を見た。


 三ヶ月ぶりかもしれなかった。

 初めてかもしれなかった。

 二人が目を合わせた。


「ぁ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」


 ルナが女性の足をぺちぺちしながら言った。


 男が、小さく笑った。

 女性も、小さく笑った。


(笑った。)


* * *


 ミアはそれを少し離れたところから見ていた。


 特に何もしなかった。

 ルナが動いて、ルナが笑いかけて、それだけだった。

 でも木陰の空気が少し変わっていた。


(変わった。)

(何かが変わった。)


 セリアが隣に来た。

 小声で言った。


「声が聞こえてきます」


「うん」とミアが言った。


「さっきまで聞こえなかった声が」


「うん」


「ルナちゃんがいたから」


「……そうだね」


 畑の方から、少しずつ話し声が聞こえてきた。

 大きくなかった。

 でも確かに聞こえた。


 帝国側と連邦側が混じっていた。


* * *


 ヴァルが隣に来た。


「戦争が終わった」


 ぽつりと言った。


「うん」とミアが言った。


「書類の上では前から終わっていた」


「うん」


「でも今終わった」


(そうだ。)

(調印式のあの日に終わったはずだった。)

(でも今終わった気がした。)

(この村の木陰で。)

(ルナが足をぺちぺちしたときに。)


「ぁ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」


 ルナが戻ってきた。

 ハイハイで全力で戻ってきた。

 ミアの足元に来た。

 見上げた。


「おかえり」


「ぁ!!」


 ルナが足をつかんだ。

 ぺちぺちした。


(この子は誰の足でもぺちぺちする。)

(帝国も連邦も関係ない。)

(足があればぺちぺちする。)


(それだけのことかもしれない。)

(それだけのことが、三ヶ月動かなかったものを動かした。)


* * *


 村長が来た。


「結界、ありがとうございました」


「点検したら薄くなっていたので張り直しました」とミアが言った。


「……畑の人たちが話していました」


「ルナのおかげです」


「そうかもしれません。ただ」


 村長が畑を見た。


「あなた方が来たから、だとも思います」


「私たちは何もしていません」


「それでも」


 村長がミアを見た。


「戦争中も、戦争が終わっても、外から人が来ることがなかった。あの人たちには」


「……そうですか」


「来てくれてよかった」


(来てよかったかどうかは、わからない。)

(ルナが動いて、ルナが笑いかけただけだ。)

(でも村長がそう言うなら。)


「……また通ることがあれば寄ります」


「ぜひ」


「ぁ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」


 ルナが村長の足をつかんだ。

 ぺちぺちした。

 村長が固まった。

 顔が崩れた。


(やっぱりこうなる。)

(どこに行ってもこうなる。)


* * *


 村を出た。


 夕方だった。

 空が橙色だった。


 ミアはヴァルの背中でルナを抱いていた。

 ルナがうとうとしていた。


(今日終わった。)

(戦争が今日終わった。)

(書類じゃなくて。)

(この目で見て、終わった。)


「セリア」


「はい」とセリアが言った。


「拾ってよかったと思う」


「ルナちゃんをですか」


「うん」


 セリアが少し間を置いた。


「……目に何か入っただけです」


「何も飛んでないよ今」


「入っただけです」


「ぁ……」


 ルナが寝言を言った。

 夕空に溶けた。


<続きます>


【次回予告】

市場に来た。

ルナが脱走した。

パン屋に行った。

八百屋に行った。

鍛冶屋に行った。

どこでも歓迎された。

最終的に魔物と昼寝しているところを発見された。

ミアは何も言えなかった。

メモアプリで作ってるとたまにやらかします。ごめんなさい。

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