43話「戦争が終わった村」
話数がズレているのに今気づきました。すみません。
43話「戦争が終わった村」
村に着いた。
国境近くの村だった。
小さかった。
畑が広かった。
畑に人がいた。
何人もいた。
一緒に耕していた。
「あの人たちは」とミアが言った。
「帝国の兵士だった人と、連邦の兵士だった人です」とセリアが言った。
「一緒に?」
「戦後に移り住んできた人たちらしいです。依頼書に書いてありました」
ミアは畑を見た。
確かに一緒に耕していた。
ただ、話していなかった。
隣にいるのに、話していなかった。
黙って鍬を動かしていた。
(ぎこちない。)
* * *
依頼の内容は結界の点検だった。
村の外周に古い結界が張ってあった。
戦時中に設置されたものらしかった。
今は機能していないかもしれない。
確認してほしいということだった。
村長が出てきた。
六十代くらいだった。
疲れた目をしていた。
「来てくれましたか」
「結界の点検に」とミアが言った。
「ええ。まあ、結界はついでみたいなもので」
「ついで?」
村長が畑を見た。
「あの人たちが来てから三ヶ月経ちます。ずっとああです」
「話さない?」
「話しません。でも喧嘩もしません。ただ、ぎこちない」
(三ヶ月。)
(三ヶ月ぎこちないまま畑を耕している。)
「……それで?」
「何かが変わるといいと思っているだけです」と村長が言った。
「私たちに何か期待してますか」
「いいえ」
村長が首を振った。
「ただ、あなた方に赤ちゃんがいると聞いたので」
「ルナが何かするとは限りませんよ」
「知っています」
村長がルナを見た。
ルナが村長を見た。
「ぁ」
村長が少し目を細めた。
「……かわいいですね」
「そうです」
* * *
結界の点検を始めた。
ミアが村の外周を歩いた。
セリアがついてきた。
ルナはヴァルの背中だった。
結界の痕跡はあった。
ただ、ほとんど消えていた。
戦争が終わったから誰も維持しなかったらしかった。
「直しますか」とセリアが言った。
「どうしようか」とミアが言った。
「必要ないかもしれません。戦争は終わりましたし」
「そうだね」
「ただ魔物除けくらいにはなります」
「じゃあ軽く張っておく。加減して」
「先生が言いますか」
「……する。加減する」
ミアは結界を張り直した。
今回は加減できた。
村の外周をぐるりと、薄く、静かに。
「できました」とセリアが言った。
「うん」
「橋のようにはなりませんでしたね」
「……なってない」
「よかったです」
(よかった。)
(加減できた。)
(橋じゃなくて結界でよかった。)
(橋だったらまた石造りになるところだった。)
* * *
作業が終わった。
昼になっていた。
畑の人たちも休憩していた。
木陰に分かれて座っていた。
帝国側と連邦側で分かれていた。
ルナがヴァルの背中から降りた。
「ぁ」
地面に降りた。
ハイハイを始めた。
(どこに行くんだろう。)
ルナは真っすぐ進んだ。
畑の方に進んだ。
木陰に近づいた。
連邦側の元兵士のそばに来た。
男が一人座っていた。
三十代くらいだった。
ルナを見た。
「ぁ!!」
ルナが男の足元に来た。
足をつかんだ。
ぺちぺちした。
男が固まった。
(この反応は知っている。)
(みんなこうなる。)
男がゆっくりルナを見た。
ルナが見上げた。
「ぁ」
「……」
男が何か言おうとした。
止めた。
もう一度言おうとした。
「かわいいな」
小さい声だった。
* * *
ルナが次に動いた。
今度は帝国側の方に向かった。
女性が一人座っていた。
四十代くらいだった。
「ぁ!!」
足をつかんだ。
ぺちぺちした。
女性が固まった。
ルナを見た。
「……なんで来たの、この子」
誰に言うともなく言った。
連邦側の男が言った。
「さっきこっちにも来た」
女性が男を見た。
男が女性を見た。
三ヶ月ぶりかもしれなかった。
初めてかもしれなかった。
二人が目を合わせた。
「ぁ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
ルナが女性の足をぺちぺちしながら言った。
男が、小さく笑った。
女性も、小さく笑った。
(笑った。)
* * *
ミアはそれを少し離れたところから見ていた。
特に何もしなかった。
ルナが動いて、ルナが笑いかけて、それだけだった。
でも木陰の空気が少し変わっていた。
(変わった。)
(何かが変わった。)
セリアが隣に来た。
小声で言った。
「声が聞こえてきます」
「うん」とミアが言った。
「さっきまで聞こえなかった声が」
「うん」
「ルナちゃんがいたから」
「……そうだね」
畑の方から、少しずつ話し声が聞こえてきた。
大きくなかった。
でも確かに聞こえた。
帝国側と連邦側が混じっていた。
* * *
ヴァルが隣に来た。
「戦争が終わった」
ぽつりと言った。
「うん」とミアが言った。
「書類の上では前から終わっていた」
「うん」
「でも今終わった」
(そうだ。)
(調印式のあの日に終わったはずだった。)
(でも今終わった気がした。)
(この村の木陰で。)
(ルナが足をぺちぺちしたときに。)
「ぁ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
ルナが戻ってきた。
ハイハイで全力で戻ってきた。
ミアの足元に来た。
見上げた。
「おかえり」
「ぁ!!」
ルナが足をつかんだ。
ぺちぺちした。
(この子は誰の足でもぺちぺちする。)
(帝国も連邦も関係ない。)
(足があればぺちぺちする。)
(それだけのことかもしれない。)
(それだけのことが、三ヶ月動かなかったものを動かした。)
* * *
村長が来た。
「結界、ありがとうございました」
「点検したら薄くなっていたので張り直しました」とミアが言った。
「……畑の人たちが話していました」
「ルナのおかげです」
「そうかもしれません。ただ」
村長が畑を見た。
「あなた方が来たから、だとも思います」
「私たちは何もしていません」
「それでも」
村長がミアを見た。
「戦争中も、戦争が終わっても、外から人が来ることがなかった。あの人たちには」
「……そうですか」
「来てくれてよかった」
(来てよかったかどうかは、わからない。)
(ルナが動いて、ルナが笑いかけただけだ。)
(でも村長がそう言うなら。)
「……また通ることがあれば寄ります」
「ぜひ」
「ぁ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
ルナが村長の足をつかんだ。
ぺちぺちした。
村長が固まった。
顔が崩れた。
(やっぱりこうなる。)
(どこに行ってもこうなる。)
* * *
村を出た。
夕方だった。
空が橙色だった。
ミアはヴァルの背中でルナを抱いていた。
ルナがうとうとしていた。
(今日終わった。)
(戦争が今日終わった。)
(書類じゃなくて。)
(この目で見て、終わった。)
「セリア」
「はい」とセリアが言った。
「拾ってよかったと思う」
「ルナちゃんをですか」
「うん」
セリアが少し間を置いた。
「……目に何か入っただけです」
「何も飛んでないよ今」
「入っただけです」
「ぁ……」
ルナが寝言を言った。
夕空に溶けた。
<続きます>
【次回予告】
市場に来た。
ルナが脱走した。
パン屋に行った。
八百屋に行った。
鍛冶屋に行った。
どこでも歓迎された。
最終的に魔物と昼寝しているところを発見された。
ミアは何も言えなかった。
メモアプリで作ってるとたまにやらかします。ごめんなさい。




