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戦火で拾った赤ちゃんを育ててたら戦争が終わったんですけど?  作者: ななぐさ
第二部 「戦火の赤ちゃんと世界のおでかけ」
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40/60

第40話「先生、お金がありません」

第40話「先生、お金がありません」


 食後だった。


 セリアが家計簿を持ってきた。

 テーブルに置いた。

 広げた。


 数字が並んでいた。


「……」


 ミアが黙った。


「先生」


「……うん」


「見えていますか」


「……見えてる」


 赤い数字だった。

 全部赤かった。

 端から端まで赤かった。


(赤い。)

(全部赤い。)

(こんなに赤かったっけ。)


「テーブルです」とセリアが言った。


「うん」


「以前ガルドさんが来たときに買い替えたやつです」


「うん」


「調印式のミアさんの服代です」


「うん」


「ルナちゃんの服代です。成長が早いので何着も」


「……うん」


「ルナちゃんの離乳食用の道具一式です」


「うん」


「追跡腕輪の魔石の材料費です」


「うん」


「家の修理代です。今回の旅の前後で二回直しました」


「……うん」


「荷物が増えたので鞄を買いました」


「うん」


「細々としたものが積み重なっています」


「……うん」


「合計です」


 セリアが一番下の数字を指で示した。


「……」


 ミアが固まった。


* * *


 ヴァルが向こうから言った。


「働け」


「……うん」


「今すぐ」


「……うん」


「ミア」


「……うん」


「返事が薄い」


「……うん」


(数字を見たまま動けなかった。)

(この数字を見て動ける人間がいるとしたら相当だ。)


「ぁ」


 ルナが家計簿を見た。

 手を伸ばした。


「だめ」とミアが言った。


「ぁ!!」


「だめ」


「ぁ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」


「だめ」


「ぁ……」


 ルナが諦めた。

 ウサギのぬいぐるみを持った。

 ぎゅっとした。


(ルナには関係ない話だ。)

(関係ない話なのに何となく申し訳なかった。)


* * *


 セリアが家計簿を閉じた。


「整理すると、当面の生活費はあります。ただし余裕がありません」


「どのくらい余裕がない?」


「しばらくは質素にしないといけません」


「しばらくって?」


 セリアが少し考えた。


「……一ヶ月以上は」


「一ヶ月」


「以上です」


(一ヶ月以上。)


「食事は?」


「野草のスープと硬いパンで当分やっていけます」


「当分」


「はい」


「野草のスープ」


「はい」


「硬いパン」


「はい」


「……ルナは?」


「ルナちゃんの離乳食はそのままです」


(当然だ。)

(ルナの食事を削るという選択肢は最初からなかった。)


「わかった。私は野草のスープで」


「わたしも野草のスープで」


「ヴァルは?」


 ヴァルが言った。


「狩ってくる」


「助かる」


「礼は不要だ」


(助かった。)

(ヴァルがいると多少マシになる。)


* * *


「依頼を受けることにする」とミアが言った。


「魔法の依頼ですか」とセリアが言った。


「うん。戦後復興の支援とかなら今の時期いくつかあると思う」


「目立ちたくないんじゃなかったんですか」


「……目立ちたくない。でもお金がない」


「どちらが大事ですか」


「お金がない方が今は大事」


「正直でよかったです」


 セリアが立ち上がった。

 棚から薄い冊子を取り出した。

 テーブルに置いた。


「何これ」


「出発前に冒険者組合の掲示板から書き写してきました」


「いつの間に」


「先生が荷造りで混乱していた間に」


(混乱していた。)

(あの荷造りは混乱していた。)

(ルナの荷物が多すぎた。)


 ミアは冊子を開いた。

 依頼が並んでいた。

 橋の修理補助、荷物の運搬、結界の点検。


「ルナも連れていく」とミアが言った。


「現場にですか」


「置いていくより連れていく方が安心できる」


「……わかりました」


「ぁ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」


 さっきまでしょんぼりしていたルナが急に元気になった。


「聞いてたの?」


「ぁ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」


(聞いてた。)

(ちゃんと聞いてた。)


* * *


 夕方だった。


 ヴァルが帰ってきた。

 鹿を一頭持ってきた。


「でかい」とミアが言った。


「問題ないか」とヴァルが言った。


「問題ない。ありがとう」


「礼は不要だ」


 セリアが鹿を見た。

 少し考えた。

 エプロンをつけた。


「今夜は煮込みにします」


「助かる」


「ルナちゃんの分も少し薄めて出汁を取れます」


「ぁ!!」


 ルナが反応した。

 匂いで気づいたのかもしれなかった。

 ヴァルの周りをハイハイで回り始めた。


「近づくな」とヴァルが言った。


「ぁ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」


「まだ料理中だ」


「ぁ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」


「……好きにしろ」


 ヴァルが折れた。


(鹿一頭に負けたわけじゃなくてルナに負けたんだろう。)

(たぶんそうだろう。)


* * *


 夜、煮込みができた。


 パンが硬かった。

 煮込みはたっぷりだった。

 悪くなかった。


「美味しいですね」とセリアが言った。


「うん」とミアが言った。


「硬いパンも煮込みに浸せば」


「うん」


「節約も悪くないですね」


「……そうだね」


 ルナが出汁を飲んでいた。

 「ぁーーー」と言いながら飲んでいた。

 嬉しそうだった。


(この子が嬉しそうなら悪くない。)

(本当に悪くない。)


 ヴァルが静かに言った。


「明日から依頼か」


「うん。橋の修理補助から始める」


「ルナも連れていくんだったな」


「うん」


「ぁ!!」


 ルナが出汁を飲みながら「ぁ!!」と言った。

 嬉しそうだった。


(やっぱり聞いてる。)

(この子はいつも聞いてる。)


 月が窓から見えた。

 いつもの月だった。


(明日から仕事だ。)

(まあ、やるしかない。)

(ルナも一緒だし。)


<続きます>


【次回予告】

橋の修理補助に行った。

加減を間違えた。

橋が半分新築になった。

村人が騒然とした。

ミアは目立ちたくなかった。

目立った。

ルナは現場の犬に囲まれていた。

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