表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
戦火で拾った赤ちゃんを育ててたら戦争が終わったんですけど?  作者: ななぐさ
第二部 「戦火の赤ちゃんと世界のおでかけ」
PR
33/60

第33話「古代遺跡とルナの手」

 第33話「古代遺跡とルナの手」


 ガルドは元気だった。


「昨日着いたぞ!!」


「昨日でよかったんですか」とセリアが言った。


「連邦から帝国まで自分の足で来た。当然だ!!」


「馬では来なかったんですか」


「馬より俺の方が早い」


(本当に思ってる顔だ。)


 ミアは朝食のスープをすすりながら、ガルドを眺めた。

 昨日の夜中に着いて、王宮の客室を一つ使ったらしい。

 帝国側は特に驚いた様子もなく受け入れていた。

 慣れてきているのかもしれない。


「ぁ!!!!」


 ルナがガルドに向かってハイハイで突撃した。

 ガルドが膝をついて両腕を広げた。


「よし!! 来い!!」


 ルナが突っ込んだ。

 ガルドが受け止めた。

 ルナがガルドの顔をぺちんと叩いた。


「よし!!」


(なんで嬉しそうなんだ。)


* * *


 食後、ライナーが言った。


「本日は、地下遺跡のご案内を予定しております」


「遺跡?」とミアが言った。


「王宮の地下に、古い遺構が残っております。以前から存在は知られていましたが、学者以外はほとんど立ち入らない場所です。せっかくの機会ですので」


「おもしろそうだな!!」とガルドが言った。


「……ガルド様にも声をかけるべきでしたか」


「来ていいか!?」


「……構いません」


 ライナーが少し目を閉じた。

 こういうとき、ライナーは何かを諦めた顔をする。


(慣れてきているのかもしれない。)


* * *


 地下への階段は、王宮の端にあった。


 石造りの通路。壁に燭台が並んでいる。空気がひんやりしている。

 先導するライナーの後ろに、帝国王、ミア、セリア、ガルド、ヴァルが続いた。


 ミアはルナを抱えていた。


(ここでハイハイされたら困る。)


 石畳の継ぎ目が古い。壁の石が黒ずんでいる。

 どのくらい前に作られたものか、見当もつかなかった。


「どのくらい古いんですか」とセリアが聞いた。


「はっきりとはわかっていません。数百年前、という説が有力ですが」とライナーが言った。


「何のために作られたんですか」


「それも、わかっていません。祭祀の場という説と、貯蔵庫という説があります」


「……どちらもあいまいですね」


「遺跡とはそういうものです」


「ぁー」とルナが言った。


(ルナも感想がある。)


* * *


 遺跡の中は、思ったより広かった。


 大きな石の部屋がいくつかつながっていた。

 天井が高い。柱に古い彫刻が施されている。

 何かの文字が刻まれているが、読めなかった。


「この文字は?」とミアが聞いた。


「解読されていません」とライナーが言った。


「誰も読めないの?」


「帝国の学者が何人か試みましたが、対応する言語が見つかっていないそうです」


(知らない文字だ。)


 ミアは壁に近づいた。

 細かく、びっしりと刻まれている。

 絵のようにも見えるし、文字のようにも見えた。


「……きれいだな」


「ぁー」


 ルナが壁に手を伸ばした。


「ルナ、触らないよ」


「ぁ!!」


(触りたいらしい。)


 ミアはルナを壁から離した。


* * *


 一番奥の部屋は、他より広かった。


 中央に、台座のようなものがあった。

 石でできた、低い台。何も載っていない。

 台座の周りに、床から天井まで伸びる柱が六本立っていた。

 柱にも文字が刻まれていた。


「この台座は何ですか」とセリアが聞いた。


「わかりません」とライナーが言った。


「わからないことが多いですね」


「遺跡とはそういうものです」


 ガルドが台座の周りをぐるぐると歩き始めた。


「でかいな!!」


「声が響きますので少し抑えてください」


「すまん!!」


(全然抑えていない。)


 帝国王が台座の前に立ち、静かに眺めた。


「……私が若い頃に一度来たことがある。その頃からここは変わっていない」


「何百年も変わっていないということですか」とセリアが言った。


「そうなるな」


(何百年。)


 ミアは台座を見た。

 何かが引っかかった。

 うまく言葉にできなかった。


(……なんだろう。)


* * *


 そのとき、ルナが動いた。


 ミアの腕の中で身をよじり、台座の方に手を伸ばした。


「ルナ、だめだよ」


「ぁ!!!!!!!!!!!!!!」


 今日一番の声だった。


(触りたい。絶対に触りたい。)


 ルナは諦めなかった。

 手を伸ばし続けた。体を前に倒そうとした。落ちそうになった。


「ルナ!!」


 ミアが体勢を立て直した瞬間、ルナの指先が台座に触れた。


 一瞬だった。


 台座が、光った。


* * *


 誰も動かなかった。


 柱の文字が、薄く青白く光っている。

 台座の表面に、光の線が走っている。

 広がっていく。床まで伸びていく。


「……なにが」


 ミアの声が、小さかった。


 部屋全体が、ゆっくりと震えた。

 天井から細かい砂が落ちた。

 燭台の炎が、揺れた。


「ぁ!!」


 ルナが嬉しそうに声を上げた。


(嬉しそうにしてる場合じゃない!!)


 帝国王が台座を見た。

 長年政治的判断をしてきた目から、みるみる血の気が引いた。


「……ライナー」


「はい」


「これは」


「……わかりません」


 二人の声が、珍しく同じ温度だった。


 震えが、続いていた。


* * *


 ミアは状況を整理した。


 台座が光っている。

 柱が光っている。

 床に光の模様が広がっている。

 建物が揺れている。

 ルナが嬉しそうにしている。

 ヴァルが台座を静かに見ている。


(ヴァルが慌てていない。)


 それだけが、少し落ち着く材料だった。


「ヴァル」


「なんだ」


「危険?」


 ヴァルは台座を見たまま、少し間を置いた。


「……今すぐ死ぬ危険はない」


「今すぐじゃない危険はある?」


「……わからない」


(ない、とは言わなかった。)


 ミアはルナをしっかり抱え直した。


 光が、まだ広がっていた。


* * *


 ガルドが台座の前に立った。


「どうすれば止まる!?」


「わかりません」とライナーが言った。


「触れば止まるか!?」


「触って始まったんですが」


「……そうだな!!」


 帝国王が台座に近づいた。


「陛下、危険ですので」


「構わない」


「いや、構います」


 ライナーがさりげなく帝国王の前に立った。


 その間もミアはヴァルを見ていた。

 ヴァルの耳が、わずかに動いた。

 何かを聞いている顔だった。


(ヴァルには何かわかっている。)


「ヴァル、何か感じる?」


「……古い、な」


「古い?」


「この場所の作りが、ひどく古い。知っている様式ではない」


「それは遺跡だからでは」


「そうではなく」


 ヴァルがミアを見た。


「竜族の記憶にも、ない様式だ」


(竜族の記憶にもない。)


 ミアは台座を見た。

 光がじわじわと広がり続けている。

 天井までまだ届いていない。


(まだ時間はある。)


「セリア、出口を確認して」


「わかりました」


「ガルド、陛下の近くにいて」


「よし!!」


「ライナーさんは今のまま」


「承知しました」


 ミアはヴァルに近づいた。

 ルナを片腕で抱えたまま、台座の前に立った。


(何かを起動した。)

(わからないものを。)

(ルナが触れて。)


「ぁー」


 ルナが台座に向かって手を伸ばした。

 ミアがその手をそっと包んだ。


「……もう触らないよ」


「ぁ」


(わかってるのかわかってないのか。)


* * *


 光が、止まった。


 台座の表面を走っていた線が、ゆっくりと消えていった。

 柱の文字が暗くなった。

 震えが、収まった。


 部屋が、静かになった。


 誰も、しばらく動かなかった。


「……止まった?」とガルドが言った。


「止まったようです」とライナーが言った。


「何だったんだ!?」


「わかりません」


「わかりません、が多いな!?」


「遺跡とはそういうものです」


 帝国王がゆっくりと台座に近づいた。

 光の消えた台座を、静かに眺めた。


「……何百年も、何もなかった」


「はい」


「今日初めて光った」


「……はい」


 帝国王がミアを見た。

 正確には、ミアの腕の中のルナを見た。


「ルナ様が触れて、光った」


「……はい」


 全員の視線が、ルナに集まった。


 ルナは何も気にしていなかった。

 ヴァルの耳をつかんで、ひっぱっていた。


「ぁ!!」


「……引っ張るな」


* * *


 地上に戻ってから、ライナーが言った。


「……学者を呼ぶことを検討します」


「よさそうですね」とセリアが言った。


「遺跡の記録を一から見直す必要があるかもしれません」


「何か手がかりになるものがありましたか」


「柱の文字が、光ったときだけ形が変わっていた気がします。確認できていませんが」


「形が変わった?」


「……気のせいかもしれません」


(気のせいではないと思う。)


 ミアは何も言わなかった。


(ヴァルが言っていた。竜族の記憶にもない様式。)

(何百年も動かなかったものが、ルナが触れて動いた。)

(何かのはずみ、ではないかもしれない。)


 でも今は、わからない。

 わからないことを口にしても、混乱が増えるだけだ。


「ぁー」


 ルナが声を上げた。

 廊下の先を見ている。


(また走りたいのかな。)


「……今日はもう走らないよ」


「ぁ!!!!」


(走りたいらしい。)


* * *


 夜。


 ルナが眠った後、ミアはヴァルに聞いた。


「さっきの、何だと思う」


 ヴァルは窓際で目を閉じたまま、少し間を置いた。


「わからない」


「竜族の記憶にもない、って言ってたよね」


「言った」


「それって、竜族より古いってこと?」


「……可能性はある」


(竜族より古い。)


「ルナが触れたから動いた?」


「そうだろう」


「なんで?」


 ヴァルがゆっくりと目を開いた。


「それがわからない」


 静かな声だった。


(ヴァルにもわからないことがある。)


 ミアはルナの寝顔を見た。

 ウサギをしっかり抱えて、眠っている。


(この子は、何なんだろう。)


 戦場で拾った。

 魔力が異常に高い。

 魔物に懐かれる。

 ドラゴンに服従される。

 何百年も眠っていた遺跡を、指先一つで起動する。


(……それでも、今日も普通に走り回って、疲れて眠った。)


「ぁ……」


 ルナが寝言を言った。


 ミアは少しだけ笑った。


「おやすみ、ルナ」


 月が、王宮の庭を照らしていた。


<続きます>


【次回予告】

遺跡のことが学者たちに知れ渡った。

帝国中から問い合わせが来た。

ライナーが対応に追われた。

ガルドは関係なかった。

ガルドがルナを連れて庭に出た。

帝国の子どもたちが集まってきた。

ルナが「ぁ!!」と言った。

ガルドが「よし!!」と言った。

ライナーが書類の山から顔を上げた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ