第24話「国王たちも、すっかりでした」
第24話「国王たちも、すっかりでした」
第二回会談。
中立館。前回と同じ場所。同じ石造りの建物。同じ長いテーブル。
違ったのは、両国王が手土産を持ってきていたことだ。
「……」
ミアはテーブルに置かれた二つの包みを見た。
「あの、これは」
「ルナ様に」と帝国王が言った。声が少し早かった。
「ルナに贈り物だ」と連邦王が言った。声も少し早かった。
二人が同時に言った。
二人が顔を見合わせた。
「…………」
「…………」
「ぁ!!」とルナが言った。
包みの方に向かって手を伸ばした。
* * *
帝国王の包みを開けた。
絵本だった。装丁が立派だ。表紙に金の箔押しで星の絵が入っている。
「……星の絵本」
「ライナーから、ルナ様が星と月を好まれると聞きまして」
「ライナーが言ったんだ」
「はい」
ライナーが後ろで静かに立っていた。目が微妙に泳いでいた。
(ライナー、国王に話したんだ。)
(几帳面に情報共有してる。)
「ありがとうございます」
「ぁ!!!!」
ルナが絵本をつかんだ。ぺらぺらめくった。金色の星の絵が並んでいる。目が輝いた。
「ぁ!!!!!!」
「……気に入ってもらえたようで」
帝国王の顔が緩んだ。国王の顔ではなくなった。前回と同じだ。ルナの前では毎回そうなるらしい。
* * *
次に連邦王の包みを開けた。
ぬいぐるみだった。丸くて白い。耳が長い。
「……ウサギ?」
「そうだ。星の絵本を持ってくると聞いたので、被らないようにした」
「聞いたって、誰から」
「ガルドから」
ガルドが後ろで直立していた。目が微妙に泳いでいた。
(ガルドも国王に話してたんだ。)
(しかも帝国王とガルドで情報共有してた。)
(ライナーとガルドが事前に打ち合わせしてた……!?)
「……ライナー、ガルドと話した?」
「……少し」
「何を話したの」
「……陛下方が手土産を考えているとお聞きしたので、被らないように」
「二人で調整したんだ」
「……結果的に」
(帝国の騎士団長と連邦の騎士団長が、赤ちゃんへの贈り物が被らないように打ち合わせした。)
(これは国家機密に入るんだろうか。)
「ぁ!」
ルナがウサギのぬいぐるみをつかんだ。抱きしめた。それから絵本と交互に持ち替えて、どっちも手放せない様子だった。
「ぁ!ぁ!!」
「両方持っていていいよ」
「ぁ!!!!」
連邦王が目を細めた。
「……かわいらしいな」
「そうですね」と帝国王が言った。
二人が同時にルナを見ていた。
* * *
会談が始まった。
今日の議題は一つだ。両国の今後の関係について、具体的な話を進める。
「前回の会談から、現場での小競り合いが二件ありました」と帝国王が言った。「現場への周知が追いついていない状況です」
「我々も同様だ」と連邦王が言った。「停戦の合意を正式に文書化する必要がある」
「同意します」
「では停戦協定の草案を——」
「ぁ!!」
ルナが絵本を帝国王に差し出した。
「……読みましょうか」
帝国王が言った。
会談中だった。停戦協定の話をしているところだった。
「……陛下」とライナーが言った。
「少しだけ」
「……」
帝国王がルナを膝に乗せた。絵本を開いた。
「『むかしむかし、空の星たちは毎晩、地上を見守っていました』」
「ぁ……」
ルナが絵をじっと見た。
連邦王が向かいでそれを見ていた。
「……羨ましいな」
「ルナ様がよろしければ」とガルドが言った。
「いいのか」
「ルナ次第です」
連邦王が静かにルナに手を伸ばした。
「ぁ」
ルナが連邦王の指をつかんだ。
「……」
連邦王の目が、少し遠くなった。
* * *
ライナーがミアの隣に来て、小声で言った。
「……陛下たちも、すっかり」
「うん」
「前回より、明らかに」
「そうだね」
「こういう会談になるとは、正直思っていませんでした」
「どんなのを想像してた?」
「……もっと、緊張感のある場になると」
「ルナがいたら無理だよ」
「……そうですね」
ライナーが少し笑った。
「でも、悪くない結果になっていると思います」
「うん」
「停戦協定の話が、思ったより素直に進んでいます」
「なんで素直に進んでるんだろう」
「……ルナ様がいると、強い言葉を使いにくくなるのだと思います」
「眠ってる赤ちゃんの前で怒鳴れないのと同じ?」
「……そうかもしれません」
(ルナが外交官になってる。)
(本人は絵本見てるだけだけど。)
* * *
昼になって、ルナが眠くなった。
今日も前回と同じだ。暖かい室内で、お腹が満たされて、大人の声を聞いていたら眠くなった。
「ぁ……ぁ……」
「眠い?」
「ぁ……」
帝国王の膝から、ミアの腕に戻ってきた。すりっとはまった。目が閉じかけている。
絵本とウサギのぬいぐるみは両方持ったままだ。
「……寝てください」
「ぁ……」
すぐに寝息が聞こえた。
会談室が静かになった。
帝国王と連邦王が、ルナを見ていた。
「……毎回、眠くなるのですね」とライナーが言った。
「前回もそうだったな」と連邦王が言った。
「安心しているのでしょう」と帝国王が言った。
「……陛下の膝が心地よかったのでは」とガルドが言った。
「そうであれば嬉しいが」と帝国王が言った。
「ぁ……」
ルナが寝言を言った。
全員が同時に見た。
また全員が同時に口元を緩めた。
(この光景、国家機密にした方がいいかもしれない。)
(帝国王と連邦王が、揃って赤ちゃんの寝言に反応してる。)
* * *
会談は午後も続いた。
停戦協定の草案が、大筋で合意された。
正式な文書にするのはまだ先だが、方向性は決まった。両国の軍に現場への通達を出すことも決まった。
最後に帝国王が言った。
「……第三回の会談も設けたい」
「同意する」と連邦王が言った。
「はい」とミアが言った。
「次回もルナ様をお連れください」
「……連れてきます」
「それと」と連邦王が続けた。「次回までに、ルナ様の好きなものをガルドに聞いておく」
「俺か!!」とガルドが小声で言った。
「そうだ。詳しいだろう」
「詳しいが……!!」
ライナーが小声でミアに言った。
「……次回の手土産を考えているようです」
「国王たちが」
「……はい」
「もう被らないように調整するの?」
「……おそらく」
(帝国王と連邦王が、赤ちゃんへの手土産が被らないように調整しようとしている。)
(これが外交なのかどうか、もうよくわからない。)
* * *
帰り道。
また夕暮れの空をヴァルで飛んだ。
ルナはまだ眠っていた。ウサギのぬいぐるみを胸に抱えて、絵本は脇に挟んで。
「……ヴァル」
「なんだ」
「停戦協定が大筋で合意した」
「……そうか」
「まだ正式じゃないけど」
「でも方向性が決まった」
「そう」
ヴァルが少し間を置いた。
「……この子が来てから、何日だ」
「もうすぐ二ヶ月」
「二ヶ月で、戦争が止まりかけている」
「……ルナのおかげじゃないよ。国王たちが決めたことだから」
「そうかもしれない。だが」
「だが?」
「きっかけは、この子だ」
ミアはルナの顔を見た。眠っている。ウサギを抱えて。
(きっかけ、か。)
「……ルナは、ただ泣いて笑って眠っただけだよ」
「それで十分だったのだろう」
夕焼けの中を、三人で飛んだ。
下に森が見えてきた。家の明かりが小さく見えた。
セリアが夕食を作っているのかもしれない。
(帰ろう。)
ミアはルナをしっかり抱え直した。
(ただいま、って言おう。)
<続きます>
【次回予告】
停戦協定の草案が現場に通達された。
小競り合いが減った。
でも完全には止まらなかった。
ルナがまた飛んだ。
今度は両軍の兵士たちが、なぜか一緒に心配した。




