第19話「服が、ありませんでした」
第19話「服が、ありませんでした」
会談まで三日。
セリアが朝から真剣な顔をしていた。
「先生」
「なに」
「ちゃんとした服を着てください」
「着る」
「今から確認します」
「確認しなくていい」
「します」
セリアがミアのクローゼットに向かった。ミアが止める前に開けた。
「…………」
沈黙。
「……先生」
「なに」
「ない」
「ある」
「ないです」
「あるよ。一番右に——」
「魔法使いのローブしかないです」
「それが一番ちゃんとしてる」
「……国王との会談にローブで行くつもりですか」
「魔女だから」
「…………」
セリアがクローゼットを閉めた。閉める音が少し大きかった。
* * *
街に行くことになった。
服を買いに。
ルナとヴァルも来た。ルナが「ぁ!!」と張り切っていたので断れなかった。
「先生、ルナちゃんの服も新しいものがあった方がいいですね」
「そうだね」
「会談に連れて行くんですよね」
「連れて行く。条件に入れてないけど、絶対連れて行く」
「では二人分です」
街の服屋に入った。
店主が出てきた。ミアを見た。ヴァルを見た。固まった。
「……いらっしゃいませ」
「服を見たい。大人用と赤ちゃん用」
「……かしこまりました」
店主の目がヴァルから離れなかった。ヴァルは今日は猫サイズだ。肩に乗っている。それでも目が赤い。
「ペットです」
「……そうですか」
「品種がそういうの」
「……そうですか」
学習しない店主だった。いや、初めて会う人には毎回そうなる。
* * *
大人用の服を選んだ。
セリアが次々と持ってきた。ミアが次々と却下した。
「これはどうですか」
「派手」
「では」
「地味すぎる」
「では」
「動きにくい」
「動く必要はないです会談中は」
「ルナが飛んだとき追いかけられない」
「……」
セリアが少し考えた。
「……動きやすくて、かつ品がある、となると」
「難しいよね」
「難しいですね」
ルナがヴァルの背中から浮いて、棚の方に向かった。
「ルナ、だめ——」
ルナが棚の一角で止まった。一枚の服を、小さな手でつかんだ。
「ぁ!」
ミアが確認した。
深い青色のワンピースだった。シンプルで動きやすそうで、でも素材がしっかりしていた。袖に小さな刺繍が入っている。星の形だ。
「……ルナが選んだ」
「センスがありますね」とセリアが言った。
「着てみる」
試着した。
鏡を見た。
「……まあ、いいかも」
「いいですよ。ちゃんとしてます」
「動ける?」とミアが腕を上げて確認した。
「動けてます」
「よし」
「ぁ!!」とルナが言った。
正解らしかった。
* * *
次はルナの服だ。
赤ちゃん用の棚に移動した。小さい服がたくさん並んでいる。
「……かわいい」
「先生、顔が」
「わかってる」
「ゆるんでます」
「わかってる!!」
ルナ用の服を選んだ。白くてやわらかい素材のものにした。袖に小さなフリルがついている。
「これにする」
「似合いそうですね」
「着せてみよう」
その場でルナに着せた。
「ぁ……?」
ルナが自分の袖を見た。フリルを指でつついた。
「かわいい?」
「ぁ……」
よくわかっていないらしかった。でもフリルが気に入ったのか、ずっとつついていた。
店主が遠くから見ていた。
「……お子さんですか」
「まあ」
「かわいらしいですね」
「そう」
「目の色が珍しい」
「そうなんですよ」
(そうなんですよ、は三回目くらいだ。だんだん慣れてきた。)
ヴァルが店主を見た。赤い目で。
「……こちらは」
「ペット」
「……」
「品種が——」
「もう大丈夫です」
今度は学習した。
* * *
帰り道。
ルナはヴァルの背中の上で新しい服を着たまま、自分の袖のフリルをずっとつついていた。
「ぁ……ぁ……」
「気に入ったね」
「ぁ!」
「よかった」
セリアが袋を持ちながら言った。
「……先生、ちゃんと見えてましたよ。服を着たら」
「そう?」
「そうです。普段がひどすぎるので気づきませんでしたが」
「ひどいは余計だよ」
「事実です」
「……」
ヴァルが静かに言った。
「……悪くなかった」
「ヴァルが言う?」
「事実を言った」
(ヴァルに褒められた。)
(素直に嬉しいのが悔しい。)
「……ありがとう」
「礼は不要だ」
「不要でも言う」
「……好きにしろ」
* * *
家に戻って、ミアは新しい服を畳んでクローゼットにしまった。
その横に、魔法使いのローブが並んでいる。
(会談が終わったら、また全部ローブに戻る。)
(それでいい。私は魔女だから。)
ルナが部屋に浮いてきた。フリルをまだつついている。
「ぁ……」
「まだ気になるの?」
「ぁ!」
「会談のときも着るからね」
「ぁ!!」
(わかってるのかな。たぶんわかってない。)
ミアはルナを抱き上げた。
「国王に会うんだよ」
「ぁ」
「ちゃんとしてね」
「ぁ」
「ちゃんとできる?」
「ぁ!!」
(返事だけは元気いい。)
ヴァルが隅から言った。
「……何をもってちゃんとするかが問題だが」
「そうだね」
「あの子のちゃんとは、泣かない程度だろう」
「それで十分だよ」
「ぁ!」
ルナが羊のぬいぐるみをミアに差し出した。
どういう意味かはわからなかったが、ミアは受け取った。
「ありがとう」
「ぁ!!」
それで満足らしかった。
会談まで、あと二日。
<続きます>
【次回予告】
ライナーが「当日の段取りを確認したい」と来た。
ガルドも来た。
段取りを話し合っていたら、ルナが眠くなった。
ライナーが自然に読み聞かせを始めた。
ガルドが自然にヴァルの背中の上に座ろうとした。
ヴァルが低い声で何か言った。
ガルドが座るのをやめた。




