第18話「国家が動きました」
第18話「国家が動きました」
翌朝。
ライナーとガルドが二人で来た。
珍しかった。いつもは別々に来る。それが今日は玄関前に並んで立っていた。しかも二人とも真剣な顔をしていた。
「……二人で来るのは初めてだね」
「はい」とライナーが言った。
「ああ」とガルドが言った。
「仲良くなった?」
「「そういうことではありません」」
声が揃った。
「……まあ、入って」
四人でテーブルについた。セリアがお茶を出した。ルナはヴァルの背中の上でがらがらを振っていた。
しゃかしゃか。
「ぁ!ぁ!」
「ルナ、少し静かにしてて」
「ぁ……」
がらがらを胸に抱えた。静かになった。
* * *
「本題に入ります」
ライナーが居住まいを正した。
「昨日の件が、両国の上層部に伝わりました」
「……どのくらいの上層部」
「最上部です」
「…………」
「陛下が、ミア殿にぜひ一度会談を、と」
ミアは少し黙った。
「帝国の国王が?」
「はい」
「私に?」
「はい」
「……なんで私に」
「ルナ様のことも含め、直接お話ししたいと」
「ルナ様って言った?」
「……言いました」
(国王がルナを様付けした。)
ミアはお茶を一口飲んだ。
「うちも同じだ」とガルドが言った。「連邦国王も会談を希望している」
「連邦も?」
「ああ。しかも——」
ガルドとライナーが顔を見合わせた。
「同じ日を希望している」とライナーが言った。
「同じ日だ」とガルドが言った。
「…………」
ミアは二人を見た。
「……二人とも板挟みになってるんだね」
「「はい」」
また揃った。
ルナが「ぁ!」とがらがらを振った。
しゃかしゃか。
* * *
「報告書、見せてもらえる?」
「……よろしいので?」とライナーが言った。
「どういう風に書かれてるか気になって」
ライナーが懐から折りたたんだ紙を取り出した。帝国側の報告書だ。
ミアが開いた。読んだ。
「…………」
「どうかしましたか」
「……『対象は現在、羊型人形を所持。戦意への影響は計り知れない』って書いてある」
「……はい」
「羊型人形、ガルドが持ってきたやつだよ」
「……把握しています」
「がらがらも書いてある」
「……はい」
「『対象の移動手段は魔力による浮遊、および竜王の背部』」
「……事実です」
「竜王の背部って」
「……事実なので」
ガルドが連邦側の報告書を取り出した。
「こっちも似たようなもんだぞ。『対象は戦場において感情的反応を示し、その際の魔力暴発により両翼に甚大な被害。なお対象はその後、担当魔女の胸部にて沈静化』って書いてある」
「担当魔女って私のこと?」
「そうだ」
「胸部にて沈静化って、要はミアが抱っこしたってことだよね」
「そうだ」
「……」
セリアが小声で言った。
「……先生、国家文書に載りましたね」
「載りたくなかった」
* * *
「会談、受けた方がいいですか」
ミアが率直に聞いた。
「受けていただいた方が、こちらとしては助かります」とライナーが言った。
「なぜ」
「上層部が独自に動く前に、ミア殿と話してもらう方が……その、穏やかに済む可能性が高いので」
「独自に動いたらどうなるの」
「……ルナ様に何かしようとするかもしれません。悪い意味ではなく、確認や調査という名目で」
「やだ」
「だから先に会談を、ということです」
ミアはヴァルを見た。ヴァルが静かに言った。
「行け。私も行く」
「ヴァルも来てくれる?」
「当然だ」
「……国王たち、ヴァルを見たら腰抜かすかもしれない」
「好都合だ」
(竜王が外交に使える威圧感を自覚してる。)
「ガルドはどう思う」
「行った方がいいと思う。ただ——」とガルドが少し考えた。「国王たちに一つお願いがある」
「なに」
「ルナを兵器扱いしないでほしい。陛下にもそう伝えてある」
「……伝えたんだ」
「ああ。俺、そういうのは正直に言う」
ミアはガルドを見た。
「……ガルド、いい人だね」
「当然だ!!」
ルナが「ぁ!!」と言った。同意らしかった。
* * *
「わかった。会談、受ける」
「ありがとうございます」とライナーが言った。
「助かる!!」とガルドが言った。
「条件が三つある」
「……なんでしょう」とライナーが言った。
「ルナに触れるときは私の許可が必要。ヴァルには何もしない。あと、ルナが眠くなったら会談中でも寝かせる」
「……三つ目は」
「大事なこと。眠いのに起こしておくのはかわいそう」
「……わかりました」
「俺も異論ない!!」
ルナがまたがらがらを振った。
しゃかしゃか。
「ぁ!」
(この子、自分が国家案件になってるの、全然知らないんだろうな。)
ミアはルナを見た。
(それでいい。しばらくは。)
* * *
二人が帰った後、セリアがテーブルを片付けながら言った。
「……先生、国王と会談することになりましたね」
「なったね」
「緊張しますか」
「……しない」
「本当ですか」
「国王より、ルナの夜泣きの方が怖い」
「……そうですか」
「そうだよ。夜泣きは三時間おきに来る。国王は一回だけ」
「……言われてみれば」
ルナが「ぁ!」と言いながら、ヴァルの背中から浮いてミアの方に向かってきた。ミアの膝に降りてきて、がらがらを差し出した。
「一緒に振る?」
「ぁ!!」
ミアがルナと一緒にがらがらを振った。
しゃかしゃか。
ヴァルが静かに言った。
「……国王たちが見たら、報告書になんと書くだろうな」
「『担当魔女、対象とがらがらを共同使用』とか書かれそう」
「ぁ!!」とルナが言った。
セリアが少し笑った。
<続きます>
【次回予告】
会談の準備をすることになった。
セリアが「先生、ちゃんとした服を着てください」と言った。
ミアが「ある」と言った。
セリアが先生のクローゼットを開けた。
なかった。




