第16話「テーブルが大きくなりました」
第16話「テーブルが大きくなりました」
朝。
セリアが新しいテーブルを買ってきた。
前のより一回り大きい。四人座っても余裕がある。
「……セリア、自分で運んできたの?」
「街の家具屋さんに頼んで運んでもらいました。先生の魔法のお礼で以前助けたことがある方で」
「そうなんだ」
「ガルド様がいらっしゃるたびに手狭でしたので」
「ガルドのために買ったの?」
「二人分です」
「……」
(セリア、現実主義だな。)
ルナがヴァルの背中から新しいテーブルをじっと見た。
「ぁ……」
「大きいでしょ」
「ぁ!」
浮いてテーブルの上に降りようとした。
「テーブルは乗るところじゃない!」
「ぁ!?」
ヴァルが尻尾で引き戻した。
「ありがとうヴァル」
「……」
* * *
昼前。
ライナーが来た。
今日は絵本を二冊と、小さな毛布を持っていた。
「毛布を」
「昼寝用です。赤ちゃんは体温調節が苦手と聞きました」
「……どこで」
「街で」
「また街で調べたんだね」
「情報収集は——」
「はいはい」
上げた。
ライナーが新しいテーブルを見た。
「……テーブルが変わりましたね」
「セリアが買った」
「大きくなりましたね」
「まあ、色々あって」
「……なるほど」
ライナーが何かを察した顔をした。察しがいい人だ。
ルナがライナーに向かって浮いてきた。腕輪がぱちりと光った。
「ぁ!」
「やあ」
ライナーが膝をついた。ルナが腕輪を見せるように手を差し出した。
「……これは」
「作った。追跡用の腕輪」
「先日提案していたものですか」
「そう。飛んでも居場所がわかるようになった」
ライナーが腕輪を覗き込んだ。魔法陣の細工を確認している。
「……精巧な作りですね」
「三枚分の設計図の犠牲の上に成り立ってる」
「……どういう意味ですか」
「ルナが食べた」
「…………」
「紙が好きらしい」
「…………そうですか」
ルナが「ぁ!」と誇らしそうに言った。
* * *
お茶を飲みながら話していたとき、玄関がノックされた。
ミアが開けた。
ガルドが立っていた。
今日も大荷物だった。
「よう!ミア!また来たぞ!!」
「……また来たね」
「非番だ!!」
「そう」
「今日は何持ってきたと思う!?」
「わからない」
「沐浴用のたらいだ!!」
「……なんで」
「ルナのお風呂どうしてるかと思って!!」
(確かに、桶で代用してたけど。)
「上がる?」
「上がる!!」
ガルドが中に入った。リビングを見た。ライナーが座っていた。
「…………」
「…………」
「また鉢合わせたな」
「そうですね」
「お前、今日は何持ってきた」
「絵本と毛布です」
「俺はたらいだ!!」
「……実用的ですね」
「そうだろ!!」
二人が向かい合った。今日は剣呑な雰囲気はなかった。慣れてきたのかもしれない。
ルナが「ぁ!!!!」とガルドに向かって飛んだ。ガルドが両手で受け止めた。
「よし!!元気か!!」
「ぁ!!!!」
「よし!!!!」
(この二人のやりとり、毎回同じだ。でも毎回楽しそうだ。)
* * *
新しいテーブルに四人が座った。ライナーが左、ガルドが右、ミアが正面、セリアがお茶を運んでいた。
ルナはテーブルの上に座っていた。乗るところじゃないと言ったが、ガルドが「いいじゃないか!!」と言って乗せた。
「……先生」
「ガルドのせい」
「乗せたのはガルド様ですね」
「俺か!!」
「そう」
「すまん!!」
ルナはテーブルの上でごきげんだった。全員の顔が見える場所だ。きょろきょろと四人を見回している。
「ぁ、ぁ、ぁ、ぁ」
一人ずつ確認するように。
「……ルナに点呼されてる気分だ」とガルドが言った。
「そうですね」とライナーが言った。
「全員いるよ」とミアが言った。
「ぁ!」
確認完了らしかった。
* * *
「本題を話していいですか」
ライナーが居住まいを正した。
「大規模戦闘まで、あと十日です」
「……そうか」とガルドが言った。顔が変わった。騎士団長の顔になった。
「場所は東の平野。帝国と連邦、両軍合わせて三千を超える規模になります」
「こちらも同じ情報だ」
「その規模の戦闘になると、衝撃波や魔法の余波がここまで届く可能性があります」
「……どのくらい?」
「微弱です。建物には影響しません。ただ——」
「ルナが感じ取ったら飛ぶ」
「はい」
ミアは腕輪を作った経緯を説明した。ルナの手首の腕輪と、ミアの首の魔石。
「飛んでもすぐわかって追いかけられる」
「それは賢明です」
「俺も追いかけるぞ!!」
「……ガルドが来たら余計ルナが喜んで遠くまで飛びそう」
「……そうか」
「うん」
「……待機してる」
「それがいい」
ルナがテーブルの上でガルドの方を向いて、「ぁ!ぁ!!」と両手をばたばたさせた。
ガルドが顔を近づけた。ルナがガルドの鼻をぺちん、とやった。
「よし!!!!」
「ぁ!!!!」
嬉しそうだった。何が嬉しいのかはわからない。でも嬉しそうだった。
ライナーが隣でそれを見て、静かに笑っていた。
ミアは目がうるんできた。
「……先生、顔が」
「わかってる」
「ゆるんで——」
「わかってる!!」
* * *
夕方。
二人が帰る時間になった。
今日も玄関に並んで立っていた。もう慣れた光景だった。
「また来ます」
「また来るぞ!!」
「日をずらしてって言ったけど」
「……忘れていました」とライナーが言った。
「忘れた!!」とガルドが言った。
「二人とも」
「「すみません」」
声が揃った。
初めて揃った。
二人が顔を見合わせた。
「……」
「……」
ルナが「ぁ!」と笑った。
ミアも笑った。セリアも笑った。
ヴァルだけが「……何がおかしい」と言った。
<続きます>
【次回予告】
大規模戦闘、当日。
ミアは家の中でルナを見ていた。
ルナが窓の外を見た。
腕輪が光った。
「やっぱり飛んだ」




