第14話「鉢合わせました」
第14話「鉢合わせました」
昼前。
ガルドが来た。今日は手ぶらだった。約束を守った。
「よう!ルナ!元気か!」
「ぁ!!」
「よし!!」
ルナがヴァルの背中から浮いてガルドの方に向かった。ガルドが両手を広げて受け止めた。でかい手だ。ルナが小さく見える。
「今日は何しに来たの」
「遊びに来た!!」
「騎士団長が遊びに来ていいの」
「非番だ!!」
また非番だった。この人、非番が多いのか仕事をさぼっているのか、ミアにはわからなかった。
とりあえず上げた。
ガルドはルナと積み木で遊び始めた。積んでは崩し、積んでは崩している。崩すたびにルナが「ぁ!!」と喜ぶ。ガルドも喜ぶ。無限に続きそうだった。
(平和だ。)
ミアは育児書の続きを読んでいた。セリアが洗濯物を干していた。ヴァルが日向で丸くなっていた。
平和だった。
* * *
玄関がノックされた。
ミアが開けた。
ライナーが立っていた。両手に本を数冊抱えていた。
「絵本を持参しました。前回お約束した——」
「あ、ありがとう。上がって」
「失礼します」
ライナーが中に入った。
リビングを見た。
積み木で遊んでいるガルドとルナが目に入った。
「…………」
ガルドがライナーに気づいた。
「…………」
二人の視線が交差した。
ルナだけが「ぁ!」とライナーに手を振った。
* * *
「ライナー」
「ガルド」
「非番か」
「情報収集だ。そちらは」
「非番だ」
「そうか」
「そうだ」
二人が向かい合って立っていた。テーブルを挟んで。騎士団長と騎士団長。帝国と連邦。普通に会ったら剣を抜く間柄だ。
ミアが間に入った。
「二人とも座って」
「……失礼します」とライナーが言った。
「……邪魔するぞ」とガルドが言った。
二人がテーブルの左右に座った。
セリアがお茶を二人分持ってきた。こういうとき、セリアは頼りになる。
「ありがとうございます」とライナーが言った。
「感謝する」とガルドが言った。
二人ともお茶を飲んだ。
沈黙。
ルナが積み木を一つ持って、テーブルの上に置いた。
「ぁ」
また沈黙。
「……可愛いな」とライナーが言った。
「ああ」とガルドが言った。
また沈黙。
(ルナがいなかったら絶対険悪なままだった。)
* * *
「絵本を持ってきました」
ライナーがテーブルに本を並べた。三冊。どれも装丁が丁寧で、絵がやわらかい色使いだ。
「星と月の絵が多いものを選びました。それとこちらは動物の絵本です」
「丁寧だな」とガルドが言った。
「用品選びは丁寧にすべきでしょう」
「俺も用品持ってきたぞ」
「……何を」
「ぬいぐるみとがらがらと積み木とボールと布の絵本だ」
「布の絵本は私も考えていました」
「先を越されたな」
「……そうですね」
二人がまたルナを見た。
ルナはライナーが並べた絵本のうちの一冊をつかんで、ぺらぺらめくっていた。星の絵が多い本だ。
「ぁ……」
目が真剣だ。ちゃんと見ている。
「……気に入ってもらえたようで」
「ライナー、ポイント高いな」
「用品選びは丁寧にすべきでしょう」
「同じこと二回言ったぞ」
「…………」
* * *
しばらくして、ルナが絵本を持ったままライナーの方に浮いてきた。
ライナーの膝の前に降りて、絵本を差し出した。
「ぁ」
「……読みましょうか」
「ぁ」
ライナーがルナを膝に乗せた。絵本を開いた。
「『むかし、空の一番高いところに、星たちの王国がありました』」
「ぁ……」
ルナが絵をじっと見た。
ガルドがそれを見ていた。
「……ライナー、読み聞かせなんかするんだな」
「子どもには言葉をたくさん聞かせた方がいいと聞きました」
「どこで」
「街で」
「また街で調べたのか」
「情報収集は——」
「仕事のうちじゃないだろこれは」
「…………」
ライナーが少し黙って、また読み続けた。
「『星の王子様は毎晩、地上を見下ろしていました。地上には、きらきらと光るものがあったのです』」
「ぁ……ぁ……」
ルナが絵に手を伸ばした。星の絵を、そっと触った。
「好きなんだな、星が」
「月も好きみたいです」
ガルドとライナーがルナを見ていた。二人とも同じ顔をしていた。さっきまでの険悪さは、どこかに消えていた。
(ルナ、すごいな。)
(この子、気づいてないだろうけど。)
ミアはお茶を一口飲んだ。
セリアが隣でそっと言った。
「……先生、今日は平和ですね」
「そうだね」
「騎士団長が二人いるのに」
「ルナのおかげだよ」
「ぁ」
ルナが絵本から顔を上げて、ミアを見た。
呼んだのがわかったのか、にっこりした。
(この子、本当に色々わかってる気がする。)
* * *
夕方。
二人が帰る時間になった。
なぜか玄関に二人並んで立っていた。
「ガルド、帰る方向は」
「南だが」
「私は北です」
「じゃあ一緒じゃないな」
「そうですね」
「……よかった」
「同感です」
二人が同時にミアを見た。
「また来ます」とライナーが言った。
「また来るぞ!!」とガルドが言った。
「……来るのはいいけど、次は日をずらして来て」
「なぜですか」とライナーが言った。
「なんでだ!!」とガルドが言った。
「二人同時だと家が狭い」
「……善処します」とライナーが言った。
「善処する!!」とガルドが言った。
(二人とも善処だった。)
(どっちも来るな、これは。)
ルナが二人に向かって手を振った。
「ぁ!ぁ!!」
「達者でいてください」とライナーが言った。
「元気でいろよ!!」とガルドが言った。
二人が森の道を、別々の方向に歩いていった。
ミアは玄関を閉めた。
「……セリア」
「なんですか」
「これ、毎回来る気がする」
「そうですね」
「二人で」
「そうですね」
「どうしよう」
「……大きいテーブルを買いましょうか」
「現実的だね」
「ぁ」とルナが言った。
星の絵本をまだ持っていた。
<続きます>
【次回予告】
大規模戦闘の日が近づいてきた。
ミアは魔法の腕輪を作ろうとした。
設計図を書いた。
ルナが食べた。




