第13話「対抗してきました」
第13話「対抗してきました」
翌朝。
ガルドが来た。
手ぶらだった。
「よう!ミア!ルナ!元気か!」
「元気だよ」
「ぁ!」
「よし!!」
ガルドが満足そうに頷いた。それだけだった。用件はそれだけらしかった。
(この人、特に理由がなくても来るんだ。)
とりあえず玄関前で立ち話をした。ガルドはルナが浮いてヴァルの背中に乗るのを見て「おお!!」と声を上げた。鳥がまた飛び立った。
「毎回驚くね」
「だって毎回すごいんだもんな!!」
「慣れてほしい」
「慣れられるか!!」
ルナがガルドをじっと見て、「ぁ!」と手を伸ばした。
「呼んでるな!!」
「そうかも」
ガルドが膝をついた。でかい体が地面に近づいた。ルナがぺちん、とやった。
「よし!!」
(何がよしなの。)
しばらくそうしていたとき、ガルドが家の中をちらりと見た。
「……なんか、前より物が増えてないか」
「ライナーが持ってきた」
「ライナーが?」
「赤ちゃん用品。器とか人形とかマットとか」
「…………」
ガルドの顔が変わった。
「俺は手ぶらで来た」
「うん」
「ライナーは荷物を持ってきた」
「うん」
「…………」
「どうした?」
「……明日また来る」
「え、来なくていいよ別に」
「来る」
ガルドが帰った。いつもより足が速かった。
* * *
翌日。
昼前にガルドが来た。
大荷物だった。
両手に木箱二つ。背中に袋が三つ。さらに部下が二人、後ろで荷物を抱えて立っていた。
「持ってきたぞ!!」
「……なにこれ」
「赤ちゃん用品だ!!」
「多くない?」
「多くない!!」
セリアが玄関から顔を出して固まった。
「……先生、あれ全部家に入るんですか」
「入れる気でいるみたい」
「ぁ!!!!」
ルナが大興奮で浮いた。荷物の方に向かって飛んでいこうとした。ヴァルが素早く尻尾で捕まえた。
「ヴァル、グッジョブ」
「……」
* * *
とりあえず全部広げた。
テーブルの上も床も荷物だらけになった。
「これは何?」
「がらがらだ!振ると音が出る!」
「これは?」
「布の絵本だ!破れないやつ!」
「これは?」
「でかいぬいぐるみだ!熊!」
「大きすぎない?」
「大きい方がいい!!」
熊のぬいぐるみはルナより二回りでかかった。ルナが飛んでいって、熊に正面からぶつかった。そのまま抱きついた。
「ぁ……!!」
「気に入ったな!!」
ガルドが誇らしそうに笑った。
「他にも——」
「ちょっと待って」とミアが言った。「全部で何個あるの」
「数えてない!」
「……」
セリアが数えた。
「……十七個です」
「十七!?」
「十七だ!!」
「多い!!」
「赤ちゃんに多すぎるものはない!!」
(ある。絶対ある。)
ヴァルが積み上がった荷物を見渡して、静かに言った。
「……家が狭くなった」
「そうだね」
「置く場所がない」
「そうだね」
「ミア、どうする」
「……ガルド、半分持って帰って」
「やだ!」
「やだじゃなくて!」
「全部ルナのために選んだんだぞ!!」
「気持ちはありがたいけど!」
* * *
結局、半分だけ残すことになった。
ガルドが渋々選んで、木箱一つと袋一つを部下に持たせて帰らせた。残ったのは布の絵本、がらがら、熊のぬいぐるみ、あとはやわらかい積み木と小さなボールだった。
「……これでいい?」
「不満だが仕方ない」
「ありがとう。ルナも喜んでるから」
ルナは熊のぬいぐるみにもたれかかって、がらがらを振っていた。
しゃかしゃかしゃか。
「ぁ!ぁ!!」
音が出るたびに喜んでいる。
「かわいいな!!」
「うん」
ガルドが床に大きな体を下ろして、ルナの隣に座った。ルナがガルドにがらがらを向けた。
「俺に振ってくれてるのか!!」
「ぁ!!」
「よし!!一緒に遊ぶぞ!!」
(なんかすごく自然に居ついてる。)
セリアがミアの隣に来て小声で言った。
「……ライナー様が来たら、この光景どう説明しますか」
「……考えたくない」
「でも来ますよね、きっと」
「来るね、きっと」
「ぁ!!」とルナが元気よく言った。
* * *
昼食の時間になっても、ガルドは帰らなかった。
「飯、あるか?」
「……いるの?」
「腹が減った」
「騎士団長が他所の家で昼食を食べていいの?」
「非番だ!!」
セリアが呆れた顔でミアを見た。ミアも呆れた顔でセリアを見た。
「……作ります」とセリアが言った。
「助かる」とミアが言った。
「感謝する!!」とガルドが言った。
ルナが「ぁ!!」と言った。
結局四人と一竜で昼食を食べた。ガルドは三人前食べた。ヴァルは食べなかった。ルナは離乳食を七口食べた。昨日より二口増えた。
「ルナ、七口も食べたじゃないか!!」
「そうなんだよ」
「すごいな!!天才か!!」
「天才かどうかはまだわからない」
「天才だ!!絶対天才だ!!」
(ガルド、ライナーと同じことを言っている。)
(でも嬉しい。)
* * *
夕方になってガルドがようやく腰を上げた。
「また来るぞ!!」
「……来るのはいいけど、次は手ぶらで来て」
「手ぶらで来たら負けた気がする」
「何に負けるの」
「ライナーに!!」
「ライナーと張り合わなくていい」
「張り合う!!」
ガルドが森の道を帰っていった。来たときと同じくらいうるさく。でも今日は荷物を半分減らされた分、少し悔しそうだった。
ミアは玄関を閉めた。
家の中が、さっきより賑やかになっていた。積み木、ボール、がらがら、熊のぬいぐるみ。
(物が増えた。でも悪くない。)
ルナが熊のぬいぐるみをヴァルに押し付けていた。ヴァルが困った顔をしていた。
「ヴァル、受け取ってあげて」
「……これは何だ」
「くま」
「くまとは」
「動物。ヴァルより弱い」
「……そうか」
ヴァルが熊のぬいぐるみを受け取った。どう扱えばいいかわからないのか、ただ前足で押さえていた。
ルナが「ぁ!」と笑った。
ミアも笑った。
セリアだけが「明日の片付けを考えると憂鬱です」と言っていた。
<続きます>
【次回予告】
ライナーが絵本を持ってきた。
ガルドも来ていた。
二人が鉢合わせた。
家の中が少し険悪になった。
ルナは気にせず絵本を読んでいた。




