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第10話「もう一人、来ました」

第10話「もう一人、来ました」


 朝。


 また玄関に手紙が来た。


 今度は刺さっていなかった。ドアの隙間に無理やり押し込んであった。封蝋が曲がっている。筆跡が荒い。封筒に「至急」と書いてあった。字が大きい。


 ミアは開けた。


 中身は一行だった。


「会いに行く。連邦騎士団長ガルド・バーン」


「……」


 ミアはかまどを見た。


 今日は燃やさないでおこうと思った。証拠として取っておく方がいい気がした。


「先生、何でしたか」


「連邦の騎士団長が来るって」


「また騎士団長ですか」


「今度は連邦」


「帝国の次に連邦」


「そう」


「……忙しくなりますね」


「なってほしくない」


 ルナが「ぁ!」と言った。ヴァルの背中の上で、手紙の方を指さしていた。


「関係ないよ」


「ぁ!」


「関係ない」


「ぁ!!」


(なんで張り切ってるの。)


* * *


 昼になる前に来た。


 森の入り口から声が聞こえた時点で、ミアは察した。


「魔女ミア!いるか!俺はガルド・バーンだ!連邦騎士団長の!会いに来たぞ!」


 うるさかった。鳥が一斉に飛び立った。ルナが「ぁ!?」と驚いて浮いた。ヴァルが素早くルナの下に移動した。


「……来るのが早い」


「先生、出ますか」


「出ないと玄関ぶち破りそう」


「そうですね」


 ミアは玄関を開けた。


 男が立っていた。


 でかかった。ライナーより頭一つでかい。肩幅が尋常じゃない。鎧を着ているのに鎧より体の方が存在感があった。顔は彫りが深くて日焼けしていて、笑顔だった。なぜか笑顔だった。


「いたいた!魔女ミアだな!俺がガルドだ!よろしくな!」


 握手を求めてきた。


(ライナーと全然違う。)


* * *


 上げる気はなかったが、「立ち話でいい!」と言うので玄関前で話した。


「先日の件だろうね」


「そうだ!連邦の左翼が壊滅した件だ!」


「うちの子がやった」


「知ってる!見てた!」


「怒ってる?」


「怒ってない!すごかった!あの魔力はなんだ!ものすごかったぞ!」


(怒ってないの?)


「……壊滅したのに?」


「まあ壊滅はしたが、全員生きてたし!それより俺はあの赤ちゃんが気になって来たんだ!」


「気になって」


「ああ!あんな小さいのにあんな魔力、見たことない!研究したい!」


「やだ」


「即答か!」


「研究はやだ。ルナは普通の子。」


「普通じゃないだろどう見ても!」


「普通」


「…………」


 ガルドが腕を組んで考えた。


「……じゃあ見るだけでもいいか」


「やだ」


「なんで!?」


「ルナが嫌がるかもしれないから」


「本人に聞いてみてくれ!」


(本人はまだしゃべれないんだけど。)


* * *


 結局、ルナに会わせることになった。


 ガルドがミアの横に来た瞬間、ルナがヴァルの背中の上から「ぁ!!!!」と声を上げた。


「おお!」


 ガルドが顔を輝かせた。


「かわいいな!!名前はミアが言ってたやつか、ルナか!?」


「ぁ!」


「返事したぞ!!」


「よく言ってる」


「賢いな!!」


 ガルドが床に膝をついた。でかい体が半分になった。ルナと目線を合わせようとしている。


「ルナ、俺はガルドだ。よろしくな」


「ぁ!」


 ルナが手を伸ばした。ガルドの顔を、ぺちん、とやった。


「……っ」


 ガルドが固まった。


 ライナーのときは指をつかんだ。今回はぺちん、だ。


(ルナ、人によって対応が違う?)


「……俺、嫌われたか?」


「どうだろ」


「ぁ!」


 ルナがもう一回ぺちんとやった。


「……もしかして、遊んでくれてるのか?」


「ぁ!!」


「遊んでくれてるな!!」


(そうなの?)


 ガルドがでかい顔で笑った。ルナも笑った。なぜか通じ合っていた。


 ヴァルがじっとガルドを見ていた。


「……ミア、あれは何だ」


「ペット」


「目が」


「品種が」


「……そうか」


 ガルドはヴァルを三秒見て、それ以上見るのをやめた。ライナーと同じだ。どちらも勘がいい。


* * *


「本題だ」


 ガルドが改まった。顔は真剣になったが、声の大きさは変わらなかった。


「連邦としても、あの魔力を野放しにするわけにはいかない。管理下に——」


「やだ」


「まだ言い終わって——」


「やだ」


「……ライナーにも同じこと言ったか」


「言った」


「あいつ、どうしたんだ」


「情報共有する約束をして帰った」


「……あいつらしいな」ガルドが唸った。「俺も同じ条件でいいか」


「帝国と連邦に同時に情報共有したら、それを使って戦争するんじゃないの」


「……うっ」


「うっ、じゃなくて」


「……考えてなかった」


「正直だね」


「俺は正直が取り柄だ」


 ミアは少し考えた。


「……両方に同じタイミングで同じ情報を伝えるなら、いい」


「なんでだ?」


「どっちかだけが有利にならないから」


「……賢いな」


「魔女だから」


「ぁ!」とルナが言った。


「ルナも賢いな!!」


(それはまだわからない。でもそうだといいな。)


* * *


 ガルドが帰り際、ルナにもう一回ぺちんとされた。


「また来ていいか」


「……条件は守ってくれるなら」


「守る!約束は守る男だ!」


「そう」


「ルナ、また来るぞ!」


「ぁ!!」


 ルナが大きく手を振った。さっきより明らかに元気がいい。


 ガルドが森の道を帰っていった。来たときと同じくらいうるさく、枝を折りながら歩いていった。


 セリアが呆れた顔で言った。


「……賑やかな人でしたね」


「ライナーと正反対」


「でも、悪い人ではなかったと思います」


「そうだね」


 ヴァルが静かに言った。


「あの男も、また来る」


「ライナーのときも言ってたね」


「どちらも、ルナから目が離せていなかった」


「……」


(ルナ、気づいてないだろうな。自分がどれだけ人を引きつけるか。)


 ルナはヴァルの背中の上で、ガルドが消えた森の方向をまだ見ていた。


「ぁ……」


 名残惜しそうだった。


 ミアは笑いをこらえながら、中に戻った。


* * *


 夜。


 セリアが寝た後、ミアはテーブルで一人、ライナーの手紙とガルドの手紙を並べて見た。


 帝国と連邦。ずっと戦争している二つの国。


(この子が間に立つことになるのかな。)


 意図せず。何も知らないまま。ただ泣いたり笑ったりしているだけで。


(……それでいい。しばらくは。)


 ルナはヴァルの背中で眠っていた。穏やかな寝顔だ。


(守る。ちゃんと守る。)


 ミアは手紙を二枚とも、ていねいに折って、引き出しにしまった。


 今度は燃やさないでおくことにした。


<続きます>


【次回予告】

離乳食、はじめました。

一口目、ルナが固まった。

二口目、ルナが泣いた。

三口目で魔力が光った。

ミアは離乳食の作り直しを決意した。

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