彼の焦りと彼女の危機2
顔見知りの人達とは一通り挨拶もダンスも済ませたエリザベスは壁際で一人佇んでいた。
この社交の場に出るようになって数年。
最初の頃はお互い照れながらもレイヴンとダンスしたり、新しい友人が出来たりして心から楽しんでいたが、いつからか──レイヴンが騎士団に入団後舞踏会に参加しなくなってからは心から楽しむことが出来ずにいた。
そしてそれは今日も例外ではなく彼女はひたすら暇を持て余してはレイヴンの事を考えて思い悩んでいた。
そんなエリザベスに近付いていく長い金髪を結わえた男がいた。
先程彼女にダンスを申し込もうとした所をアルフレドに邪魔されたモリス伯爵子息はめげずに再度アプローチする気だ。
「やぁエリザベス嬢。さっきはアルに拐われてしまったけれど、今度こそ僕と踊ってほしい。」
にこやかに誘う彼には悪いが、彼女に踊る気はなかった。
疲れていたが出来る限り相手を傷付けずに断ったつもりだった。
しかし二度も断られてショックを隠しきれない彼は色白の顔に落胆の色を映していた。
そんな不憫な姿を見たエリザベスも流石に良心が咎めたのか、自分から近付いていくと彼の手を取った。
「ダンスはまた次の機会にして、少し庭園にお散歩しに行きませんか?考えて見れば今までいつもダンスに誘ってくれていたのに、ちゃんとお話したことあまりなかったですよね?」
思いがけずエリザベスの方から誘ってもらえたモリス伯爵子息─もといシェイドは予想外の展開に狼狽している様に見えたが、心の中ではほくそ笑んでいた。
満月が辺り一面を煌々と照らす庭園で話し込む男女がいた。
男の方は月の下で輝く金髪を夜風に靡かせて数々の女性達を虜にしてきたであろう笑顔を女の方へ向けている。
女はそんな下心のある笑顔に気付いているのかいないのか、先程から彼の口説き文句をのらりくらりと受け流しては月光で昼間よりも神秘的な庭園を満喫していた。
「夜の庭園は昼間とは全く違う雰囲気ですね。神秘的というか。貴女はよくここに来るんですか?」「そうですね。花は見るのも育てるのも好きですし。シェイド様は花はお好きですか?私は特に薔薇やアイリスが好きなんです」
エリザベスが聞くと、シェイドは少し考えてからちょうど近くにあった小さな花を見て答えた。
「あまり考えたことはなかったけど、大きくて派手な花よりもこの花の様な小さくて可憐な花が好みです。何だか貴女みたいだ。それと僕の事はシェイド、と呼んで欲しいな。貴女の事はエリザベスと呼んでも?」
「えぇ、いいわ。じゃあ敬語もなしね」
盛り上がってきた会話が段々と落ち着いてくると少々気まずい空気になったため、そろそろ戻ろうかとエリザベスが口を開きかけた時、シェイドが跪き真っ直ぐ彼女の目を見つめて言った。
「エリザベス…ずっと前から君を愛していた。いきなりで悪いけど結婚を前提に僕の恋人になってくれますか?」
「えっと…ごめんなさい。シェイドとはこれからも良い友人として仲良くしたいわ。それに何より私には好きな人がいるの。本当にごめんなさい」
突然の事で驚きつつも一旦冷静になり静かな声でエリザベスが返事をした。
シェイドはゆっくりと近付いてきて彼女の肩を掴むとうっすら笑みを浮かべてその場に押し倒し、手首を拘束して足の間に自身の身体を割り込ませた。
運の悪いことにそこは広い庭園で一番背の高い草花に囲まれた一角だった。
背中に鈍い痛みを感じたエリザベスは漸く自分の身に何が起こったか理解し、手足をバタつかせて抵抗したが男の力に勝てる筈もなくどうすることも出来ない。
ならばと、大声で叫ぶが只でさえ人気のない場所で叫んでも意味が無く、エリザベスは成す術がなくなった。
けれど、愛する人に捧げるために守ってきた純潔をこんな場所でこんな男に奪われるものかと、彼女は自分の上にいる男を睨み付けながら考えを巡らせた。
久々の更新なのに短いですね(T_T)
次はもう少し長くしたいです。