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LAST VAULT ―300億の遺産―  作者: asnt2026


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第45話 十三番目

《CURRENT APPLICATION READY》


《ORIGINAL DECIDER : MANABE RIHITO》


《PRECEDENT : CRITERIA-BASED SELECTION》


理人は画面の前から動けなかった。


父の署名は消えている。


代わりに出ているのは、自分が決めた基準だった。


SPEED。


COOPERATION。


COMPLIANCE。


PRECISION。


あの時は、何を評価するかを決めただけだと思っていた。


だが、その数字の先で人が残り、人が出た。


新海は七十九。


仁科は七十六。


二人とも死ななかった。


それでも、この場所からは切れた。


中央の床が開く。


一人分の区画がせり上がった。


そこに立っていたのは宮部杏だった。


「私?」


杏の足元へ数字が出る。


《CURRENT SCORE : 79》


晴斗が息を呑んだ。


七十九。


新海と同じ。


次。


《PRECEDENT THRESHOLD : 80》


《RESULT : CONTINUATION INELIGIBLE》


杏の顔から血の気が引いた。


「待って」


理人の前に二つの選択肢。


《APPLY PRECEDENT》


《OVERRIDE》


OVERRIDEの下。


《REQUIREMENT》


《PRIOR DECISION : WRONG》


さらに、


《CURRENT COST : DEFICIT TRANSFER》


杏の一点不足を、


理人が引き受ける。


晴斗が画面を見る。


「一だけじゃん」


久保田がすぐ返す。


「前にも同じことを言いました」


晴斗の口が閉じる。


一。


数字だけなら小さい。


でも、


線のどちら側かを決めるには十分だった。


杏が理人を見る。


「真鍋さん、無理しなくていいです」


「そういう問題じゃ」


言いかけて止まる。


何が問題なのか。


自分でも、まだうまく言えない。


父は十八人を残した。


四十六人を残さなかった。


全部を救える選択肢がなかったから。


自分たちは八十という線を引いた。


それで新海と仁科が出た。


あの判断を、


間違いだったと押せるのか。


越智が少し離れた場所から理人を見る。


何も言わない。


二階堂も。


誰かに答えを渡せば、


また自分はその後ろへ隠れる。


理人はOVERRIDEへ触れた。


確認。


《PRIOR DECISION : WRONG》


指が止まる。


杏が小さく言う。


「私は大丈夫です」


「何が」


「出るだけなら」


「それ、新海さんも言ってた」


杏が黙る。


理人は画面を見る。


間違い。


その一語が、


必要以上に大きい。


「線を引いたこと全部が間違いだったわけじゃない」


システムは答えない。


理人は続けた。


誰かに説明するというより、


自分の手を動かすために。


「でも、線の外にいる人を見なくていいと思った」


汐里が理人を見る。


「そこは間違ってた」


理人は押した。


《PRIOR DECISION : WRONG》


《OVERRIDE ACCEPTED》


杏の《79》が消える。


代わりに、


理人の腕輪。


《DEFICIT : 1》


床が動いた。


杏の区画と理人の区画が一本の細い通路でつながる。


《ORIGINAL DECIDER SHALL SETTLE CURRENT COST》


理人の出口は向こう側。


途中に一か所、


足場がない。


幅は八十センチほど。


いつもの理人なら、


機械の動きを見る。


構造を読む。


だが今回は何も動かない。


ただ飛ぶだけだった。


右足首。


まだ腫れている。


汐里が気づく。


「真鍋さん」


「八十センチです」


「距離の話してません」


「分かってます」


理人は助走を取った。


三歩。


四歩。


踏み切り。


右足へ体重が入った瞬間、痛みが脛まで走る。


身体が前へ出る。


一瞬だけ、


足元から床が消えた。


向こう側。


近い。


それでも着地するまでが妙に長い。


左足。


床。


右足。


遅れて触れる。


膝が崩れた。


手をつく。


「真鍋さん!」


汐里の声。


理人はそのまま数秒動かなかった。


足首。


痛む。


ただ折れてはいない。


たぶん。


「大丈夫です」


「その言葉、禁止にしません?」


理人は笑いかけ、


やめた。


立つ。


一歩。


もう一歩。


出口。


《CURRENT APPLICATION CLEAR》


杏の区画も青へ変わった。


《CONTINUATION RESTORED》


杏が息を吐く。


「ありがとうございます」


理人は首を横に振る。


「前の人には、これしなかった」


杏は返せなかった。


そのことまで消えるわけではない。


今ひとり助けたから、


前に切れた二人の意味が変わるわけでもなかった。


中央画面が暗くなる。


一つ。


二つ。


これまで表示されていたPRECEDENTが消えていく。


最後に残った文字。


《PRECEDENT 12 : COMPLETE》


続いて、


《TWELVE PRECEDENTS : COMPLETE》


誰かが、


息を吐いた。


晴斗だった。


「終わった?」


十二。


二十四人。


十二本の線。


九条玄蔵の十二の決裁。


苑子が見つけた形。


全部つながった。


皆川が画面を見る。


「たぶん、ここまでが十二件の確認」


久保田。


「なら、次が最終判断です」


二階堂が無言で表示を待つ。


理人も。


これで、


何のために集められたのか分かる。


十二の過去。


十二の前例。


それを見たうえで、


最後の何かを選ぶ。


そう思った。


中央に文字。


《FINAL DECISION》


晴斗が顔を上げる。


その下。


《UNAVAILABLE》


誰も動かなかった。


「何で」


葉月が言う。


画面が切り替わる。


《TWELVE PRECEDENTS : COMPLETE》


《REQUIRED DECISION : NOT FOUND》


久保田の眉が寄る。


「必要な決裁が、見つからない?」


皆川。


「十二じゃない」


一ノ瀬が画面へ近づく。


その時、


十三行目が現れた。


今までなかった場所。


《DECISION 13》


理人の喉が動く。


さらに一行。


《STATUS : NOT EXECUTED》


晴斗が読み上げる。


「未実行?」


《DECISION 01》から《12》まで。


過去。


完了。


記録あり。


十三だけ、


空白。


玄蔵の映像は出ない。


代わりに、


画面の右端に小さな識別コード。


《K-13》


理人は無意識に一歩前へ出た。


最初のエリアで見た。


古い金属枠。


K-13。


第十三号。


旧鉱山。


鶴巻が知っていた番号。


点が、


まだ一本にはならない。


けれど、


同じ場所へ向かい始めている。


葉月が小さく言った。


「おじいちゃん」


返事はない。


代わりに、


ロックされていたSOURCE INDEXが、


一斉に解除された。


《DECISION 13 SOURCE AVAILABLE》


理人たちは、


十二個の過去を解いたと思っていた。


違った。


十二個は、


まだ決められていない十三番目のために置かれていた。

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