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LAST VAULT ―300億の遺産―  作者: asnt2026


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第41話 十二本目

片平志乃の名前が消えたあとも、《CLAIM》は終わらなかった。


残った十一人には、それぞれ別の時間が流れている。


理人は修理した可動床を渡り、細い通路を進んだ。右足首へ体重を掛けるたび鈍い痛みは残るが、さっきより悪くはない。


一ノ瀬。


荒巻。


芹沢。


葉月。


皆川。


救助を受けた者たちが先へ進む。


CLAIMを拒否された者も、自分の方法で障害を越えていた。


晴斗は停止した搬送ベルトの側板を外し、手でローラーを回す。


ルカは狭い隙間へ身体を滑り込ませ、裏側からロックを外した。


茉莉は壊れた小扉を何度も引いたあと、構造を諦めて床下の非常レバーを見つけた。


苑子は最後までCLAIMを使えなかった。


《RISK SCORE : 45》


低いということは、自分で処理できると判断されたということらしい。


それが安全という意味ではない。


故障した昇降台の横には、手動ポンプがある。


一度押す。


台が数センチ上がる。


手を離せば少し戻る。


苑子は何度も押した。


腕が重くなる。


十一回。


十二回。


十五。


途中から数えるのをやめた。


空気は乾き切っていて、喉の奥に鉄と埃の味が残っている。蛍光灯の白い光は均一ではなく、一本暗い場所を通るたび、自分の影だけが先へ行ったり後ろへ戻ったりした。


昇降台が高さを合わせる。


苑子は身体を乗せる。


一歩。


台が沈む。


もう一歩。


向こうの床へ手を伸ばす。


届く。


指。


手首。


肘。


身体を引き上げる。


膝が床へ乗った。


その瞬間、


《SELF RECOVERY COMPLETE》


表示が青へ変わった。


苑子は仰向けになった。


天井を見る。


「四十五でも、結構きついじゃない」


誰にも届かない声だった。


*


最後の一人が出口へ到達した時、


中央表示が切り替わった。


《AREA 11 CLEAR》


《CLAIM RESULT》


《ACTIVE PARTICIPANTS : 17》


SAFE ROOMへ戻った十七人は、すぐには座らなかった。


片平の席が空いている。


志摩由良はそこを見なかった。


少なくとも、理人にはそう見えた。


苑子は壁際へ移動した。


CLAIM中に見た文字が頭から離れない。


《SURE》


片平の管理番号。


SURE-07-2184。


紙。


以前並べた資料。


まだ引けていない線。


苑子は保管された資料束を引き寄せた。


片平のもの。


志摩のもの。


一枚ずつ開く。


黒塗りされた古い書類。


片平。


《SURE保険査定》


その下に、


《07-2184》


苑子の指が止まった。


もう一枚。


志摩由良。


データ分析部門。


資料上部。


《SURE/自動査定モデル検証》


右端。


《CASE 07-2184》


同じ。


苑子はペンを取った。


志摩由良。


片平志乃。


二人の名前の間に線を引く。


七本目。


「何してるの」


晴斗が近づく。


苑子は顔を上げない。


「続き」


「六組の?」


「七組になった」


晴斗がしゃがむ。


ルカも来る。


「志摩さんと片平さん?」


「同じ案件番号」


志摩が離れた位置からこちらを見る。


何も言わない。


苑子は次の資料を引いた。


久保田理玖。


皆川文乃。


久保田の資料には、


《NEXT》


《選抜評価》


皆川。


《選抜問題監修》


同じ番号。


NEXT-04。


「八本」


苑子が線を引く。


久保田が近づいた。


資料を確認する。


「私の奨学制度です」


皆川が見る。


「私が問題を作ってた制度と同じ」


二人とも、互いの存在は知らなかった。


それでも線はつながる。


次。


重松英嗣。


もういない。


新海譲。


もういない。


二枚。


《GROWTH》


融資審査。


事業再建。


同じ番号。


九本目。


晴斗の声が小さくなる。


「いない人同士も」


「最初から組だったなら」


苑子は言った。


「出たあとも組は消えない」


次。


一ノ瀬結衣。


仁科昂平。


債権売却。


回収委託。


同一ロット番号。


十本目。


一ノ瀬の顔が止まった。


仁科が出る前に言った言葉が戻ったのかもしれない。


俺を切った数字、忘れんなよ。


一ノ瀬は何も言わなかった。


十一本目。


二階堂隆雅。


赤城鉄平。


九条物流再編。


労務合理化資料。


雇用削減交渉。


同じ年。


同じ事業所コード。


二階堂は線を見る。


表情は変わらない。


赤城が出る前に、


正しい奴に危険な方へ送られるのが一番たち悪い、


と言った。


その言葉だけが残っている。


苑子は十一本目を引いた。


残る。


荒巻泰造。


鶴巻信也。


荒巻が資料の前へ来る。


鶴巻はずっと前に出た。


K-13を見た時、


「設備番号だ」


と答えた男。


最初に見つけた旧資料。


《旧鉱山転用》


苑子は荒巻の紙を開く。


工事。


補強。


地下空洞。


鶴巻。


警備設備設計。


施設保安。


案件番号の後半は黒い。


二つを横に並べる。


一致するのは、


《MINE-R》


そこまで。


完全ではない。


苑子のペンが止まる。


「証拠としては弱い」


久保田が言った。


「同じ案件番号が全部見えていません」


「そう」


苑子は鶴巻の資料を見る。


K-13。


設備番号。


旧鉱山。


荒巻が紙を一枚持ち上げた。


裏。


古い施工記号。


「これ」


苑子が見る。


《R-12》


荒巻は自分の記憶を探るように目を細めた。


「旧鉱山の現場で使ってた区分記号だ。Rは転用区画」


「鶴巻さんがK-13を知ってた」


理人。


荒巻が頷く。


「警備系なら、完成後に入っててもおかしくねえ」


苑子は線を引いた。


十二本目。


完全な証拠ではない。


ただ、


十一本が明確につながったあとでは、


偶然という言葉の方が苦しくなる。


床に十二本。


二十四人。


今は十七人しかいない。


それでも線の上には、


最初にここへ集められた全員がいた。


理人。


越智。


汐里。


羽鳥。


葉月。


八田。


晴斗。


ルカ。


二階堂。


赤城。


茉莉。


杏。


志摩。


片平。


芹沢。


苑子。


久保田。


皆川。


重松。


新海。


仁科。


一ノ瀬。


荒巻。


鶴巻。


葉月が床へしゃがむ。


「十二組」


苑子はペンを置いた。


「たぶん」


「また、たぶん?」


晴斗。


「最後だけ完全には確認できてないから」


越智が十二本を見る。


「二十四人が十二件の案件に二名ずつ」


理人は自分と越智の線を見る。


再建支援撤回。


父の会社。


その線だけ、


他より太く見える気がした。


「全部、九条さんの会社?」


杏。


苑子が首を横に振る。


「九条本体だけじゃない。関連会社、基金、融資制度、再開発、保険、物流。でも決裁の最終ラインには九条玄蔵の名前がある」


芹沢が聞く。


「全部?」


「今確認できる範囲では」


誰も喋らない。


十二。


九条。


決裁。


葉月がゆっくり立つ。


自分の祖父。


「十二個」


その声で、


壁面モニターが点いた。


苑子の資料を読んだわけではない。


ただ偶然とは思えないタイミングだった。


白い文字。


《SOURCE INDEX AVAILABLE》


十二行。


番号だけ。


《DECISION 01》


《DECISION 02》


《DECISION 03》


……


最後。


《DECISION 12》


晴斗の息が止まる。


苑子は画面から目を離せなかった。


十二本の線。


十二個のDECISION。


理人の中で、


ようやく名前がついた気がした。


この二十四人は、


三百億を取り合うために集められたのではない。


少なくとも、


それだけではない。


九条玄蔵が過去に決めた十二の何か。


自分たちは、


その中に二人ずつ配置されている。


画面の最上部へ新しい文字が出た。


《PRECEDENT ARCHIVE》


その意味を、


この時はまだ誰も正しく理解していなかった。



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