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LAST VAULT ―300億の遺産―  作者: asnt2026


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36/48

第36話 均等なら

《START》


十三人が橋へ入った。


最初の十メートルは何も起きない。


理人は歩く速度を上げすぎなかった。


床板の継ぎ目。


左右の支柱。


頭上レール。


耳。


設備の音。


ガチ。


一度。


前方三メートル。


床の下からロックが外れる音。


「次、開く!」


理人が叫ぶ。


ほぼ同時に、


晴斗の前の床板が落ちた。


晴斗の身体が沈む。


けれど腰のワイヤーが、


ほとんど間を置かずに止める。


数センチ。


「うわっ!」


両足が宙へ出る。


上半身だけ橋の高さに残る。


ルカが隣の橋から声を上げる。


「動かないで!」


「動けない!」


羽鳥。


「ワイヤー掴むな! 腰で預けろ!」


晴斗が手を止める。


後ろの杏と茉莉が、橋の横にある救助クランクへ走る。


二人で回す。


晴斗の身体が少しずつ上がる。


十秒も掛からない。


橋へ戻る。


晴斗は床に腹這いになったまま息を吐いた。


「ゼロって、こういうこと」


羽鳥。


「そういうことだな」


晴斗が立つ。


怪我はない。


次。


八田。


床が抜ける。


即LOCK。


片平。


即LOCK。


久保田。


即LOCK。


五十センチも落ちない。


落下そのものより、


床が消える瞬間の方が身体へ悪い。


それでも全員、


すぐ救助できる高さに止まる。


理人は二階堂の配分を思い出す。


九人をゼロ。


危険を四人へ集めた。


理屈は見えた。


問題は、


自分たち四人の番だった。


*


MAKER ROOM。


十三本の橋が上から見える。


一ノ瀬は手すりのように操作卓の縁を握っている。


「ゼロの人は止まる」


二階堂。


「ええ」


「なら、最初の二十をそのまま残してたら」


晴斗七。


七十センチ。


ルカ四十。


片平六十。


久保田十。


八田二十。


二階堂が答える。


「五人が大きく落ちます」


「それでも今の四人よりは小さい」


「落下距離だけなら」


二階堂は救助映像を見る。


晴斗を杏と茉莉が引き上げている。


「問題は、誰が救助側に残れるかです」


皆川が理解する。


「五人とも落ちれば」


「残り八人」


志摩。


「しかも分散した位置で同時に落ちた場合、救助が分散する」


越智。


「今は九人がほぼ無傷で残る」


二階堂。


「その九人が四人を引き上げられる」


一ノ瀬が羽鳥の10を見る。


「一メートルでも?」


「だから彼です」


一ノ瀬の指に力が入る。


画面の中。


羽鳥が歩いている。


*


羽鳥の足元で、


ロックが外れた。


音を聞いたのは理人だった。


「羽鳥さん!」


言い終わる前。


床が消えた。


羽鳥の身体が落ちる。


十センチ。


二十。


三十。


止まらない。


胸のハーネスが上へ引かれ、


身体だけがさらに沈む。


五十。


六十。


羽鳥は腕を広げない。


顎を引く。


膝を少し曲げ、


身体を丸める。


八十。


九十。


一メートル。


ガン。


ワイヤーLOCK。


羽鳥の身体が大きく揺れた。


衝撃で息が抜ける音がした。


「羽鳥さん!」


汐里が走る。


自分の橋から横連絡床へ。


救助クランク。


理人も動こうとして、


足を止めた。


自分の前。


低い駆動音。


来る。


「有川さん、そっち任せます!」


汐里は振り返らない。


「はい!」


荒巻が別方向から羽鳥の救助へ行く。


杏。


茉莉。


四人。


クランクを回す。


羽鳥の身体が上がる。


一メートルは、


見ていた距離より長かった。


顔が橋の高さへ戻る。


汐里が手を伸ばす。


羽鳥の前腕を掴む。


「胸、痛みます?」


羽鳥は一度息を吸う。


途中で止まる。


「ちょっと」


「ちょっとは禁止です」


「じゃあ、かなりではない」


「そういう問題じゃない」


荒巻が羽鳥のベルトを掴む。


四人で引き上げる。


橋へ。


羽鳥は仰向けになった。


汐里がすぐ胸部を見る。


呼吸。


肋骨。


意識。


「息できます?」


「できます」


「深く」


羽鳥が吸う。


顔が少し歪む。


「痛い」


「場所」


右胸。


汐里が確認する。


「歩けそう?」


「それ、俺が答えていいんですか」


汐里が一瞬だけ羽鳥を見る。


「今回は」


「歩けます」


汐里は完全には納得していない。


それでも頷く。


「無理なら止まって」


羽鳥が起き上がる。


「了解」


その間にも、


ほかの橋では床が動いている。


九人が残っている。


誰かが羽鳥へ行っても、


別の誰かが次の救助に回れる。


理人はそれを見ながら前へ進んだ。


二階堂の計算。


そういうことか。


*


次は芹沢だった。


《LIABILITY : 6》


六十センチ。


床が抜ける。


落ちる。


LOCK。


肩が揺れる。


志乃と八田がクランク。


苑子が芹沢の腕を掴む。


「靴見る余裕あります?」


芹沢が顔をしかめる。


「今それ言うか」


「喋れるなら大丈夫」


「救急の真似すんな」


芹沢が上がる。


次。


荒巻。


九十センチ。


落下。


ワイヤーが張った瞬間、


痛めていた右肩が大きく上へ持っていかれる。


荒巻の顔から表情が消えた。


「肩!」


杏が叫ぶ。


荒巻は返事をしない。


左手だけでワイヤーを掴みかけ、


羽鳥の声。


「掴むな!」


荒巻が手を離す。


身体を預ける。


晴斗。


ルカ。


杏。


三人がクランクへ。


羽鳥も行こうとする。


汐里が腕を掴んだ。


「あなたは駄目」


「でも」


「今は駄目」


一瞬。


羽鳥は止まった。


その間に三人で荒巻を上げる。


橋へ戻った時、荒巻は右肩を押さえた。


杏がしゃがむ。


「動く?」


「少し」


「絶対嘘」


「歩ける」


杏が汐里を見る。


汐里は遠い。


すぐには来られない。


荒巻が立つ。


右腕はほとんど使っていない。


それでも足は動く。


「行くぞ」


杏が口を開きかける。


荒巻は先へ歩いた。


*


最後。


理人。


《LIABILITY : 5》


五十センチ。


そこまで来るまでに、


全員が仕組みを理解していた。


理人の床が落ちる。


身体が沈む。


五十センチ。


思ったより速い。


腹の奥が置いていかれる。


LOCK。


腰と胸へ衝撃。


足首は床に着かない。


それでも身体が振られた時、


痛めていた右足が橋の側面へぶつかった。


息が止まる。


「真鍋さん!」


汐里。


理人はすぐ答えようとして、


やめた。


「痛いです」


一瞬、


汐里が何か言いそうになる。


「どこ」


「右足」


「動かさないで」


晴斗。


ルカ。


久保田。


三人が救助クランクへ入る。


久保田が一番にハンドルを握る。


晴斗が横。


ルカが反対。


「せーの!」


理人の身体が上がる。


ゆっくり。


橋へ戻る。


汐里がしゃがむ。


靴。


足首。


「前より腫れてます」


「歩けます」


汐里が理人を見る。


理人は少しだけ目を逸らした。


「今のは本当です」


「聞いてません」


「先に」


「そのやり取り、もういいです」


少しだけ、


理人は笑った。


*


十三人全員が第一ゲートへ到達した。


誰も落ちたまま残っていない。


誰も死亡していない。


羽鳥の胸。


荒巻の肩。


理人の足。


痛みは残った。


それでも十三。


全員。


ゲート上部。


《PHASE 1 CLEAR》


《SURVIVORS : 13 / 13》


MAKER ROOM。


一ノ瀬は表示を見た。


十三。


そのまま二階堂を見る。


「あなたの計算通り?」


二階堂は首を横に振った。


「予測範囲です」


葉月が息を吐く。


「またその言い方」


「結果が同じでも、途中の怪我までは一致していません」


一ノ瀬。


「でも全員生きた」


二階堂は答えない。


画面の中で、


晴斗が理人へ肩を貸そうとして断られている。


ルカがその横で何か言っている。


汐里は羽鳥の呼吸を見ている。


杏は荒巻の右肩を気にしている。


九人をほぼ無傷で残したから、


四人を救えた。


数字だけなら、


そういう結果だった。


次の表示が出る。


《PHASE 2》


一ノ瀬の目が止まる。


《LIABILITY TRANSFER : ENABLED》


続いて、


十三人全員の腕輪に新しい項目が現れた。


《TRANSFER》


汐里の名前の横にも、


初めて赤い数字が点いた。


《ARIKAWA SHIORI》


《LIABILITY : 4》


羽鳥がそれを見た。


二階堂も。


理人も。


誰もまだ、


次に誰がその四を払うのか知らなかった。

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