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LAST VAULT ―300億の遺産―  作者: asnt2026


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35/48

第35話 誰が払う

十九人になったSAFE ROOMは、目に見えて広かった。


椅子の数は変わらない。


そのことが余計に目立つ。


重松。


鶴巻。


赤城。


新海。


仁科。


最初は人の顔で覚えていた空席が、少しずつ数へ変わり始めている気がして、理人は途中で数えるのをやめた。


晴斗は腕輪の《7》を何度も消そうとしていた。


画面を閉じても、


少しすると戻る。


《THRESHOLD DEFICIT : 7》


「しつこいな」


ルカが隣から見る。


「私も四」


「交換する?」


「どうやって」


「知らない」


「じゃあ言わないで」


片平は6を見ても何も言わなかった。


八田は2。


久保田は1。


数字が小さい久保田の方が、むしろ何度も確認している。


理人は声を掛けなかった。


一足りなかった人間に、


七足りなかった人間よりましだとは言えない。


汐里が理人の足元を見る。


「まだ痛みます?」


「少し」


「次に走るなら言ってください」


「次も走る前提ですか」


「ここまで来たら、歩くだけでは済まないでしょう」


正しかった。


言い返す前に照明が落ちる。


十九人が一斉に顔を上げた。


《AREA 10》


《LIABILITY》


《誰が払う》


続いて数字。


《REQUIRED SAFETY : 100》


《PROVIDED SAFETY : 70》


《LIABILITY : 30》


理人は最後の数字を見る。


三十。


晴斗が先に気づいた。


「二十じゃない」


久保田。


「前の不足は二十です」


さらに表示。


《PREVIOUS DEFICIT : 20》


《UNASSIGNED LIABILITY : 10》


《TOTAL LIABILITY : 30》


ルカが小さく息を吐く。


「増えた」


「増えたんじゃない」


八田が眼鏡を上げる。


「もともと安全量が三十不足している。そのうち二十が前の不足として先に割り当てられている」


晴斗。


「同じようなもんだろ」


「違います」


久保田が言う。


「十は誰にも属していません」


「じゃあ誰かに乗る?」


答えるように、


《ROLE ASSIGNMENT》


が始まる。


《MAKER》


二階堂隆雅。


越智恒成。


三雲葉月。


一ノ瀬結衣。


志摩由良。


皆川文乃。


六人。


《BREAKER》


真鍋理人。


有川汐里。


柏木晴斗。


東雲ルカ。


宮部杏。


柚原茉莉。


荒巻泰造。


久保田理玖。


片平志乃。


羽鳥雅也。


八田周平。


芹沢洋平。


牧瀬苑子。


十三人。


理人は二階堂を見る。


二階堂もこちらを見ていた。


何も言わない。


床が分かれる。


六人が沈んでいく。


一ノ瀬だけが、閉じる直前まで仁科が出ていった扉を見ていた。


*


BREAKER側の扉が開く。


巨大な縦長の空間。


底は見える。


それだけで以前の昇降床よりはましだった。


深さは十五メートルほど。


その上に十三本の細い橋が平行に架かっている。


一人一本。


幅は一メートル。


橋の下には黒い床。


ただし途中に何か所も四角い開口部があり、そこだけさらに深い暗闇が覗いている。


天井から十三本のレール。


そこから細いワイヤー。


先端にハーネス。


床は乾いている。


代わりに空気が冷たく、鉄粉と古いゴム、それに油の焼けた臭いが鼻へ残った。真上の白色灯は橋だけを照らし、橋と橋の間は深い灰色に沈んでいる。


ハーネスを装着する。


理人の腰へロック。


肩。


胸。


ワイヤーを引く。


少し遊びがある。


「消防訓練みたいだな」


羽鳥が自分の金具を確認する。


晴斗が橋の下を見る。


「落ちても止まる?」


表示。


《SAFETY LINE ACTIVE》


杏が息を吐く。


「じゃあ良かった」


羽鳥はまだ金具を見ている。


「たぶん、そう簡単じゃない」


ルールが出る。


三行。


《各BREAKERのSAFETY LINEは落下時に自動LOCKする》


《1 LIABILITYにつきLOCKまでのFREE FALLが10cm延長される》


《LIABILITY総量30はMAKERが再配分可能》


晴斗の顔が止まった。


自分の腕輪。


7。


「俺、七十センチ?」


久保田。


「現在のままなら」


ルカ。


「私は四十」


片平は自分の6を見る。


六十センチ。


八田。


二十。


未割当。


十。


どこへ行くか分からない。


理人の表示はゼロ。


汐里も。


羽鳥も。


荒巻も。


全員が天井のMAKER ROOMを見た。


ガラスの向こうに六人。


今度は、


不足を誰へ移すのか。


*


MAKER ROOM。


十三人の名前。


初期LIABILITY。


晴斗7。


ルカ4。


片平6。


久保田1。


八田2。


未割当10。


画面右側には、


《REASSIGN ALL 30》


のボタン。


葉月が読む。


「全部動かせる」


一ノ瀬。


「前の得点不足まで?」


「ええ」


越智。


「前AREAのDEFICITは、ここでは初期割当でしかないようです」


一ノ瀬の目が細くなる。


「それなら、点が足りなかった本人に残す意味は?」


二階堂が十三人の映像を見る。


「ありません」


即答。


葉月。


「またそういう言い方」


「THRESHOLDは終わりました。ここで必要なのは、誰が不足を負った方が生存率が高いかです」


一ノ瀬。


「でも、晴斗さんたちは前のゲームで基準に届かなかった。その結果として持ち越した二十でしょう」


「だから本人が払う?」


二階堂が聞く。


「そうは言ってない」


「なら切り離すべきです」


志摩由良の指が操作卓を叩く。


一定。


「七十センチの自由落下」


晴斗。


四十。


ルカ。


六十。


片平。


片平の映像へ目を止める。


「片平さんは体格が小さい。六十センチ落ちたあと、ハーネスで胸部へ衝撃が集中する」


皆川。


「八田さんも年齢が高い」


越智。


「久保田さんは一だけですが、高所経験は不明」


二階堂は別の四人を選ぶ。


羽鳥雅也。


荒巻泰造。


芹沢洋平。


真鍋理人。


葉月が嫌な顔をした。


「分かりやすい」


「何がです」


「耐えられそうな人に押しつける」


「はい」


否定しなかった。


二階堂は数字を入力する。


羽鳥。


10。


荒巻。


9。


芹沢。


6。


理人。


5。


合計。


30。


晴斗0。


ルカ0。


片平0。


久保田0。


八田0。


一ノ瀬が表示を見る。


「羽鳥さん、一メートル落ちる」


「消防士です。ハーネス墜落時の姿勢を知っている可能性が最も高い」


「荒巻さんは肩を痛めてる」


「だから羽鳥さんより一少ない」


「真鍋さんは足首」


「五十センチなら、着地するわけではありません」


葉月が二階堂を見る。


「そういう問題?」


「そういう問題です」


一ノ瀬の眉が寄る。


二階堂は続けた。


「十三人全員へ二か三ずつ分散させれば、公平には見えます」


操作卓へ十三本の細い赤線を表示する。


「その場合、十三人の多くが落下衝撃を受ける。途中で誰かが動けなくなれば、後続の救助にも人員を取られる」


皆川。


「四人だけに集中すれば、残る九人は即時LOCK」


「彼らが落ちた時、九人が引き上げに回れる」


志摩。


「なるほど」


一ノ瀬が二階堂を見る。


「だから正しいと?」


「正しいとは言っていません」


二階堂は画面へ指を置く。


「全員が生き残る可能性が最も高いと言っています」


以前と同じ言葉。


一ノ瀬はすぐ返さなかった。


その言葉で実際に全員が生き残ったことがある。


それが厄介だった。


葉月が理人の名前を見る。


5。


「本人に聞けたら」


「MAKERは聞けません」


越智。


「ルールです」


残り時間。


《DECISION LIMIT : 46》


四十六。


四十五。


一ノ瀬は認証欄へ手を置かない。


「点数が足りなかった人を助けるために、足りていた人へ移す」


二階堂。


「違います」


「何が」


「助けるためではありません」


二階堂は羽鳥の10を見る。


「生き残らせるためです」


葉月が息を吐く。


「それ、同じに聞こえる」


「私には違います」


残り二十二秒。


皆川が認証。


志摩。


越智。


葉月は少し遅れて押す。


一ノ瀬。


最後に二階堂。


《DECISION ACCEPTED》


*


BREAKERS側。


晴斗の《7》が消えた。


「え」


ルカ。


4が0。


片平。


6が0。


久保田。


1が0。


八田。


2が0。


代わりに、


羽鳥。


《LIABILITY : 10》


荒巻。


《9》


芹沢。


《6》


理人。


《5》


理人は自分の数字を見る。


五十センチ。


晴斗がこちらを見る。


「真鍋さん」


「何」


「俺の七、なくなった」


「見れば分かります」


「そうじゃなくて」


羽鳥が自分の10を見る。


一メートル。


少し笑う。


「なるほどな」


汐里が近づく。


「なるほど、じゃないです」


羽鳥はハーネスを引く。


「一メートルなら、固定された時に身体丸めれば」


「衝撃は消えません」


「分かってます」


荒巻が自分の9を見る。


「また俺か」


杏が顔をしかめる。


「それ言いながらちょっと納得してない?」


「してねえよ」


「顔が」


「何だ」


「また自分ならいいって顔」


荒巻は返さなかった。


理人は上を見る。


ガラスの向こう。


二階堂。


誰がこの配分を提案したのか、


聞かなくても分かった。


《PHASE 1》


《START IN 10》


橋の下。


いくつかの床板が動いた。


開く。


閉じる。


落ちる場所が分からない。


理人はワイヤーを一度引いた。


五十センチ。


以前なら、


何で自分だと思ったかもしれない。


今は違った。


何で自分なのか、


理由が分かる。


だから余計に、


簡単には腹を立てられなかった。



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