↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
LAST VAULT ―300億の遺産―  作者: asnt2026


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
34/48

第34話 足りなかったもの

《FINAL THRESHOLD : 88》


数字が確定しても、誰もすぐには動かなかった。


久保田理玖の頭上には、


《SCORE : 87》


一つ足りない。


たった一つだった。


けれど透明なEXITは閉じている。


久保田は扉の前に立ったまま、自分の親指を爪の横へ押しつけていた。強く押しすぎたのか、皮膚の一部が白くなっている。


晴斗が表示を見る。


「これ、本当に八十八?」


「十五人の平均が八十七・二。切り上げで八十八です」


久保田の声には、いつもの速さがなかった。


「計算は合っています」


「いや、そうじゃなくて」


晴斗は自分の表示を見る。


《81》


言葉が止まった。


ルカ。


《84》


片平志乃。


《82》


八田周平。


《86》


出口へ着いた時には一人ずつの点だったものが、今は一枚の壁に全員分並んでいる。


皆川文乃、95。


芹沢洋平、94。


羽鳥雅也、93。


荒巻泰造、92。


越智恒成、92。


柚原茉莉、90。


宮部杏、89。


牧瀬苑子、88。


久保田理玖、87。


八田周平、86。


東雲ルカ、84。


片平志乃、82。


柏木晴斗、81。


新海譲、79。


仁科昂平、76。


水のゲームを終えたばかりの服はまだ完全に乾いていなかった。空調は強く、濡れた布の冷たさが身体へ戻ってくる。白い照明に照らされた床からは消毒液のような匂いが上がり、その清潔さが、十五人を数字だけに並べた画面と妙に似合っていた。


新海が自分の七十九を見た。


片方の口角が少し上がった。


笑ったというより、負けた賭けの配当を確認する時のような顔だった。


その時、


すべての得点表示が消えた。


新しい文字。


《EVALUATION PROCESS》


最初に光ったのは八人。


皆川。


芹沢。


羽鳥。


荒巻。


越智。


茉莉。


杏。


苑子。


名前の横。


《DIRECT QUALIFIED》


晴斗が息を吐く。


「八十八以上」


次。


五人。


久保田。


八田。


ルカ。


片平。


晴斗。


表示は黄色。


《BASE THRESHOLD : CLEARED》


《FINAL THRESHOLD : NOT REACHED》


晴斗が画面へ一歩近づく。


「どっち?」


答えるように三行目。


《CONDITIONAL CONTINUATION》


「継続?」


ルカが言った。


久保田の目が画面へ上がる。


「待ってください」


全員が見る。


「ルールには、FINAL THRESHOLD以上が通過資格を得る、と書いてありました」


晴斗。


「だから?」


「未満は死ぬとも、即脱落するとも書いていない」


皆川が顔を上げた。


「BASE THRESHOLDも別にあった」


《80》


最初から表示されていた数字。


最低基準。


最終基準。


二つあった。


その意味を、今まで一つにまとめて考えていた。


越智が静かに言う。


「規定上、DIRECT QUALIFIEDとCONTINUATIONは別です。通過資格が直接与えられないだけで、継続資格まで失うとは書かれていません」


晴斗が息を吐いた。


「じゃあ俺ら」


「まだです」


久保田が黄色い表示を見る。


喜ぶより先に、次の文字を待っている。


その方が正しかった。


名前の横へ数字が出た。


久保田。


《THRESHOLD DEFICIT : 1》


八田。


《2》


ルカ。


《4》


片平。


《6》


晴斗。


《7》


晴斗が眉を寄せる。


「不足?」


ルカが自分の四を見る。


「八十八まで足りない分」


合計表示。


《TOTAL DEFICIT : 20》


二十。


何の数字なのか。


誰もまだ知らない。


残った二人の名前が赤くなった。


新海譲。


仁科昂平。


《BASE THRESHOLD FAILURE》


その下。


《CONTINUATION INELIGIBLE》


仁科の顔が変わった。


「は?」


新海は動かなかった。


ただ七十九を見る。


仁科がMAKER ROOMを見上げる。


ガラスの向こうに理人たち六人がいる。


「お前らが決めた点数だろ!」


一ノ瀬の肩がわずかに動いた。


「仁科さん」


「協力三十五、規則二十五、正確さ二十五、速さ十五。全部お前らが決めた」


一ノ瀬は否定しない。


仁科は自分の胸を指した。


「それで四点足りねえから、俺は終わりか?」


「あなた自身の価値を決めた数字じゃありません」


一ノ瀬が言った。


仁科が笑った。


短い音だった。


「生き残れるかどうかに使ってんだろ。それで価値じゃねえって?」


一ノ瀬の唇が閉じる。


その隣で二階堂も何も言わない。


ここで「違う」と言えば、


それこそ数字の外から逃げることになる。


理人は操作卓へ置いた手を離した。


自分も押した。


十五。


三十五。


二十五。


二十五。


六人で。


仁科の七十六の一部には、


自分たちの判断が入っている。


「俺は納得してねえぞ」


仁科が言った。


システムは反応しない。


代わりに側面の扉が二つ開いた。


《SAFE EXIT》


その下に、


現在までのEXIT BANK。


仁科はそちらを見ない。


新海は見た。


金額を一度だけ確認する。


それからポケットへ手を入れかけ、コインがないことを思い出したらしい。何も持っていない指だけを二度動かした。


「一点か」


晴斗が新海を見る。


「そんな、一点でいいの?」


新海が顔を向ける。


「一点だからだよ」


「何が」


「こういう時に『あと一回やれば取り返せる』って追う奴から、先に全部なくす」


新海は七十九の表示へ背を向けた。


「俺は賭けるけど、負けた数字まで嘘にはしない」


SAFE EXITへ歩く。


途中で一度だけ久保田を見る。


「八十七なら、俺なら続ける」


久保田が目を上げる。


「理由は」


「惜しいから」


久保田の眉が寄る。


新海は笑う。


「冗談だよ」


扉の前。


認証。


《SHINKAI YUZURU――CONTINUATION ENDED》


白い光の中へ消えた。


仁科は動かない。


「俺は押さねえ」


SAFE EXIT。


「勝手に決めた数字で、勝手に終わらせて、最後は自分で出口押せって?」


一ノ瀬がガラス越しに仁科を見る。


二人の間に、


まだ誰も知らない過去がある。


それを苑子だけが資料の線から疑い始めている。


「仁科さん」


一ノ瀬が呼ぶ。


「何だよ」


「あなたが納得していないことは、分かりました」


「だから?」


「それでも、今は出てください」


仁科の目が細くなる。


「自分で切っといて?」


一ノ瀬の喉が動いた。


「はい」


言い訳をしなかった。


仁科はしばらく一ノ瀬を見る。


それから鼻で息を吐いた。


「弁護士ってもっと上手いこと言うのかと思ってた」


「今は弁護してません」


「そうかよ」


仁科は出口へ向かった。


ボタンの前で止まる。


押さない。


数秒後、


システムが自動認証した。


《BASE FAILURE EXIT PROCESS》


扉が開く。


仁科は振り返らない。


「俺を切った数字、忘れんなよ」


一ノ瀬へ向けたものか、


全員へ向けたものか分からなかった。


《NISHINA KOHEI――CONTINUATION ENDED》


扉が閉じる。


残り十九人。


二人が消えたあと、


黄色の五人だけが画面へ残った。


晴斗7。


ルカ4。


片平6。


久保田1。


八田2。


そして、


《TOTAL DEFICIT : 20》


その下に英文が出た。


《UNPAID DEFICIT WILL BE CARRIED FORWARD》


杏が声に出す。


「持ち越し?」


誰も答えない。


次の表示。


《NEXT AREA》


一拍。


《LIABILITY》


その下。


日本語。


《誰が払う》


久保田の腕輪に、


《1》


が残った。


八田には2。


ルカ4。


片平6。


晴斗7。


出口の扉を抜けても、


数字は消えなかった。


足りなかったものだけが、


次の部屋へついてきた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。