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LAST VAULT ―300億の遺産―  作者: asnt2026


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32/48

第32話 点数

六本の線を前にしても、九条玄蔵は現れなかった。


苑子が呼んでも、


晴斗が天井へ向かって「聞こえてるんだろ」と言っても、スピーカーは沈黙したままだった。


葉月も呼ばなかった。


床へ並んだ資料のうち、自分と八田をつなぐ線だけを長く見ている。


理人は、自分と越智の間に引かれた線から目を離せなかった。


父の会社。


九条側。


越智。


三つの言葉を並べる。


以前なら、そこから答えを作った。


九条が父を切った。


越智はその側にいた。


なら越智は敵だ。


簡単だった。


今は、


簡単すぎる答えほど一度疑う癖がついている。


それが良い変化なのか、


この施設に慣らされているだけなのか分からない。


越智は少し離れた場所で、自分の資料を読んでいた。


理人が見ると気づく。


眼鏡を上げる。


「何か」


「知ってました?」


「何をです」


「父の会社」


越智は数秒黙った。


「案件名までは」


理人の肩が硬くなる。


「関わってた?」


「はい」


その一言で、


喉の奥に熱いものが上がった。


越智は逃げない。


「ただし、今ここで説明しても、あなたが納得できる形にはならないと思います」


「勝手に決めないでください」


「では聞きますか」


理人の口が止まる。


聞きたい。


今すぐ。


それでも次の照明が落ちた。


まるで会話を待っていたように。


苑子が資料を集める。


「後で」


理人は越智から目を離した。


「はい」


越智も、それだけ答えた。


*


《AREA 09》


《THRESHOLD》


その下に、


《閾値》


宮部杏が文字を見る。


「読めない」


久保田。


「いきち」


「言い方腹立つ」


「読んだだけですが」


「分かってる」


《ROLE ASSIGNMENT》


名前が分かれる。


《MAKER》


真鍋理人。


有川汐里。


二階堂隆雅。


三雲葉月。


一ノ瀬結衣。


志摩由良。


理人は自分の表示を見る。


六人。


この組み合わせに、嫌なものを感じた。


答えを決めそうな人間ばかりいる。


床が沈む直前、


越智と目が合った。


さっきの話は中断したまま。


越智は何も言わなかった。


理人も。


六人が下へ消える。


*


MAKER ROOM。


今までで一番明るい部屋だった。


白い操作卓。


白い壁。


照明も白。


暗い場所で人を選ばせるより、


明るい場所でやる方がよほど質が悪い。


理人はそう思った。


正面に四本の縦棒。


《SPEED》


《COOPERATION》


《COMPLIANCE》


《PRECISION》


その下。


《TOTAL WEIGHT : 100》


ルールは三行。


《MAKERは4評価項目の配点比率を決定する》


《BREAKERは行動結果に応じELIGIBILITY SCOREを得る》


《最終THRESHOLD以上のSCOREを得た者が通過資格を得る》


一ノ瀬が最後まで読む。


「最終THRESHOLDは?」


画面下に追加表示。


《FINAL THRESHOLD = BREAKER全員の平均SCOREを切り上げ》


《MINIMUM : 80》


葉月が眉を寄せた。


「平均?」


由良の指が卓上を一定間隔に叩き始める。


「全員の点が高いほど、合格ラインも上がる」


「なら頑張れば頑張るほど厳しくなる?」


汐里。


二階堂が答える。


「全員が同じ点なら問題ありません」


一ノ瀬。


「現実には同じにならない」


理人は四本の縦棒を見る。


速さ。


協力。


規則。


正確さ。


この四つに、


自分たちで値段をつける。


「均等二十五」


葉月が言った。


二階堂はすぐ答えない。


理人がそちらを見る。


「反対ですか」


「均等にする理由が、決めたくないからであれば反対です」


葉月の目が細くなる。


「四つとも大事だから」


「本当に同じだけ?」


「じゃあ二階堂さんは?」


「PRECISIONを高くします」


「何で」


「間違った判断は、速度や善意では補えないからです」


汐里が口を挟む。


「協力しなければ突破できない場面もありました」


「ならCOOPERATIONも必要です」


「どっちを高くするんですか」


「PRECISION」


即答だった。


一ノ瀬が腕を組む。


「私はCOMPLIANCEを無視できない。ルールを守らない人を、結果だけで高く評価するのは違う」


理人は少し笑いそうになった。


「もう始まってますね」


一ノ瀬。


「何が」


「誰を良い参加者にするか」


六人が黙る。


画面には四本の棒。


数字を動かすだけだ。


けれど、


SPEEDを上げれば晴斗のような人間が有利になる。


PRECISIONなら久保田や皆川。


COOPERATIONなら羽鳥や荒巻。


COMPLIANCEなら越智や片平。


人の顔が数字の後ろに浮かぶ。


汐里が言った。


「COOPERATION、三十五」


二階堂が見る。


「高いですね」


「今まで一人で突破できたゲーム、ほとんどなかったでしょう」


一ノ瀬。


「COMPLIANCE二十五」


由良。


「PRECISION二十五」


葉月。


「残りSPEED十五」


二階堂は四本を見る。


十五。


三十五。


二十五。


二十五。


「反対です」


葉月が息を吐く。


「やっぱり」


「ただ」


二階堂はPRECISIONを見た。


「明確な代案はありません」


理人が二階堂を見る。


珍しい。


「ならこれで?」


理人の問いに、


二階堂は少しだけ間を置いた。


「ええ」


六人の認証。


理人の指が最後だった。


十五。


三十五。


二十五。


二十五。


数字を見てから押す。


《DECISION ACCEPTED》


*


BREAKERS側。


十五人が入ったのは、学校の体育館ほどの空間だった。


床は黒。


天井は高い。


奥まで一直線ではなく、白い壁でいくつもの区画へ分かれている。


それぞれの区画に簡単な課題が見える。


床のライン。


重い扉。


数字パネル。


二人で持ち上げる必要がありそうなバー。


壁際には、


《SPEED 15》


《COOPERATION 35》


《COMPLIANCE 25》


《PRECISION 25》


と表示された。


晴斗が数字を見る。


「協力が一番高い」


羽鳥。


「助け合えってことか」


新海が笑う。


「助けすぎると遅くなるけどな」


苑子は上のガラスを見る。


そこにMAKER ROOMがある。


理人たちの姿は見えない。


「向こうが決めた」


杏。


「何を?」


「何が良い行動か」


スタート音。


十五人が動いた。


最初の区画。


床に四本の白線。


《指定LINE以外への接触禁止》


その先に四つの数字パネル。


久保田理玖は速かった。


線から足を出さない。


一度見た数字を覚える。


正しい順で押す。


《PRECISION +》


《COMPLIANCE +》


晴斗は二つ目のパネルを一度間違える。


赤。


舌打ち。


それでも速度は久保田より速い。


《SPEED +》


次の区画。


大きな扉。


一人では上がらない。


左右に取っ手。


久保田が最初に着く。


一人で引く。


動かない。


表示。


《2 PERSON REQUIRED》


後ろから片平志乃が来る。


久保田が振り返る。


「手を」


志乃が持つ。


二人で上げる。


重い。


扉が少しずつ上がる。


久保田は先へ抜けようとして、


止まった。


志乃一人では扉を保持できない。


手を離せば落ちる。


数秒。


久保田はそのまま持ち続けた。


志乃が先に抜ける。


「ありがとう」


「次、代わってください」


久保田が抜ける。


志乃が反対側で支える。


《COOPERATION +》


久保田は表示を一度だけ見る。


計算している。


協力三十五。


ここは落とせない。


それが善意なのか、


得点のためなのか。


外から見れば同じ動きだった。


*


MAKER ROOM。


理人は久保田のSCORE推移を見ていた。


七十二。


七十八。


八十三。


二階堂が隣で言う。


「効率がいい」


汐里。


「褒めてます?」


「評価です」


理人は思わず横を見る。


以前と同じ言い方。


「便利ですね、それ」


二階堂は答えなかった。


久保田が最後のPRECISION区画へ入る。


八枚のパネル。


点灯順。


記憶。


一度だけ見せられる。


青。


黄。


黄。


白。


赤。


青。


白。


赤。


消える。


久保田の親指が爪へ触れる。


一秒。


二秒。


押す。


青。


黄。


黄。


白。


赤。


青。


白。


赤。


全点灯。


《CORRECT》


SCOREが上がる。


《87》


理人は数字を見る。


最低基準。


《80》


久保田がEXITへ着く。


前に透明扉。


自分のSCORE表示。


《87》


その下。


《BASE THRESHOLD : 80》


久保田は扉へ手を伸ばした。


開かない。


もう一度。


ロックされたまま。


晴斗が少し後ろから叫ぶ。


「何で?」


久保田も扉を見る。


自分の腕輪。


《SCORE : 87》


《FINAL THRESHOLD : PENDING》


理人の胸の奥が少し冷えた。


ルールを思い出す。


最終THRESHOLD。


全員の平均。


まだ十五人は終わっていない。


八十を超えればいいわけではない。


八十は、


最低でしかなかった。


久保田の表示は八十七。


それでも扉は開かなかった。



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