第21話 保証人
CHECK 3へ向かう途中、通路の構造が変わった。
それまで一本だった道が二つへ分かれる。
正面。
《STANDARD ROUTE》
右。
《GUARANTOR ROUTE》
二階堂の前にだけ、右側の扉が開いた。
越智と荒巻にも同じ表示が出ている。
三人。
MAKERが選んだ三人。
この時になって初めて、BREAKERS側にも文字が表示された。
《GUARANTOR》
晴斗の声がスピーカーから聞こえる。
「二階堂さん、荒巻さん、越智さんの三人」
晴斗自身も内容を初めて理解したような声だった。
「俺らが選びました」
荒巻が天井を見る。
「何をする役だ」
少し間があった。
答えたのは汐里。
「保証枠を持つ三人、としか出てなかったんです」
「それで選んだ?」
「はい」
「俺を?」
「はい」
荒巻が鼻を鳴らした。
「見る目ねえな」
杏の声が遠くから飛ぶ。
「自覚あったんだ」
「うるせえ」
わずかな笑い。
すぐ消える。
二階堂はGUARANTOR ROUTEを見る。
腕輪。
現在保持。
《OCHI TSUNENARI》
《YUHARA MARI》
自分のASSIGNMENTは越智が保持。
仁科の名前はいつの間にか消えている。
彼のCHECKを一度終えたあと、別の人間へ再委任されたらしい。
茉莉だけが、保証移管で残った。
右側の扉に表示。
《GUARANTOR CHECKPOINT》
《ENTRY REQUIRED》
二階堂が眉を寄せる。
「任意ではない」
越智の声。
「こちらもです」
荒巻。
「俺もだ」
三人とも入るしかない。
*
MAKER ROOMでは、汐里が画面を見ていた。
三本のGUARANTOR ROUTEがメイン通路から離れていく。
「こんなの、最初に表示されてなかった」
八田がルール履歴を開く。
「保証枠はNETWORK安定化に使用、までです」
苑子。
「RELEASEされたものが保証人へ移るとも書いてない」
皆川が画面を見る。
「でもRELEASEは、保持者の担当終了を意味する、としか書いてなかった」
「ASSIGNMENTが終了するとは書いてない」
志摩由良。
指が卓上を叩く。
一回。
止まる。
晴斗が両手を後頭部へ回しかけてやめた。
「またそれか」
汐里は二階堂たちの経路を見る。
「保証人がどこまで保証するか、確認できますか」
八田が操作する。
表示は出ない。
「質問する?」
晴斗。
苑子が天井を見る。
「九条さん」
数秒。
九条玄蔵の声。
「何だ」
「GUARANTORは、何を保証する役割ですか」
「保持者がRELEASEしたASSIGNMENTの継続だ」
苑子の目が動く。
「誰かが捨てた責任を引き継ぐ?」
「表現は任せる」
「では、GUARANTOR自身がRELEASEできますか」
「できない」
汐里の指先が止まった。
晴斗も黙る。
「いつまで保持するんですか」
苑子。
今度は返事まで少し長かった。
「GUARANTORである間だ」
通信が切れた。
晴斗が顔を上げる。
「である間?」
皆川。
「保証人じゃなくなったら」
誰も続きを言わなかった。
*
二階堂がGUARANTOR ROUTEへ入る。
扉が閉じる。
通路は狭かった。
幅一・五メートルほど。
天井も低い。
白い照明が一本ずつ順番に点き、前方だけを照らしている。空気は急に冷たくなり、コンクリートから滲む湿気の匂いへ、金属が熱を持った時の甘い臭いが混ざっていた。
二階堂は歩く。
三十メートル。
行き止まり。
壁に二つのプレート。
《GUARANTOR HOLD》
《GUARANTOR EXIT》
その下。
《HOLDを選択した場合、NETWORKへ残留》
《EXITを選択した場合、次区画へ進行》
タイマー。
《60》
二階堂が画面を見る。
NETWORKへ残る。
それは茉莉のASSIGNMENTを保持し続けるという意味だろう。
EXIT。
次へ進む。
その時、保証枠はどうなる。
書いていない。
二階堂は天井へ顔を上げた。
「九条玄蔵」
返事。
「聞いている」
「私がEXITを選んだ場合、保持中のASSIGNMENTはどうなりますか」
数秒。
「ゲーム内で確認できる」
二階堂の目が細くなる。
「答える義務がない質問ですか」
「ルールに含まれない結果については、そうだ」
通信が切れた。
二階堂は画面を見る。
五十四秒。
HOLD。
EXIT。
今までなら、情報がないなら安全側を取る。
HOLD。
だがその場合、自分だけがここへ残る。
ほかの参加者は次へ進む。
保証を持っている限り、誰かがRELEASEするたびASSIGNMENTが増える可能性もある。
いつ終わるか分からない。
一方、EXITを選べば何かが起こる。
その何かは、
必ず誰かへ返る。
そんな気がした。
二階堂はHOLDへ指を近づけた。
止める。
腕輪。
《YUHARA MARI》
茉莉。
さっき死にかけた。
仁科がRELEASEしたから。
自分が引き受け、CHECKを通した。
ここでEXITすれば、
彼女のASSIGNMENTはどうなる。
「二階堂さん」
汐里の声がスピーカーから入った。
「聞こえます?」
「ええ」
「そちらの表示は」
二階堂は内容を伝えた。
汐里はすぐ答えなかった。
「HOLDしたら、そこに残るんですよね」
「そう読めます」
「EXITは」
「結果不明」
また沈黙。
「有川さんなら?」
「私に聞かないでください」
二階堂の眉が少し上がった。
汐里が続ける。
「あなたが決めるところでしょう」
「珍しいですね」
「何が」
「判断を返されるのは」
汐里は少し息を吐いた。
「あなたがいつもやってることです」
通信が切れた。
二階堂は残り時間を見る。
三十二秒。
*
別のGUARANTOR ROUTE。
荒巻は迷わずHOLDを押そうとした。
「荒巻さん」
汐里の声。
「何だ」
「肩の状態」
「関係あるか」
「あります。HOLDがどれくらい続くか分からない」
「じゃあEXITしろって?」
「そうは言ってません」
「またそれか」
荒巻は少し笑った。
「判断材料だけ出す?」
「はい」
荒巻は右肩を回す。
痛み。
顔には出さない。
「分かった」
指を止める。
*
越智は表示を読むだけで、まだどちらにも触れなかった。
《NETWORK》
その単語を見ていた。
保証人がNETWORKへ残る。
では、EXITすればNETWORKから外れる。
保証人である間だけ保持する。
前のルールと九条の回答。
二つをつなぐ。
越智の唇がわずかに動いた。
「そういうことですか」
天井へ聞く。
「保証人がNETWORKから外れた場合、保証対象のASSIGNMENTは消滅しますか」
九条。
「消滅するとは言っていない」
越智は目を閉じた。
一秒。
開く。
「十分です」
HOLDへ指を置こうとする。
その前に、
別の通路で選択音が鳴った。
《DECISION ACCEPTED》
二階堂だった。
*
二階堂はEXITを押した。
理由は一つではない。
自分だけが残ることの損失。
今後増える可能性のある保証。
茉莉一人のASSIGNMENT。
全体。
数字にしようとすればできた。
それでも最後に指を動かしたのが何だったのか、自分でも正確には分からない。
EXIT側の扉が開く。
白い光。
二階堂が一歩進む。
腕輪。
《GUARANTOR STATUS : TERMINATING》
《3》
三。
二。
一。
《TERMINATED》
その瞬間、
《YUHARA MARI》
の文字が二階堂の腕輪から消えた。
二階堂は足を止める。
*
茉莉の通路。
突然、腕輪が激しく振動した。
茉莉が驚いて手を上げる。
さっきまで、
《HOLDER : NIKAIDO TAKAMASA》
だった表示。
消える。
一瞬の空白。
そのあと、
赤い文字。
《ASSIGNMENT RETURNED》
《ORIGIN : YUHARA MARI》
茉莉の顔が固まる。
「戻った?」
腕輪には、
自分自身の名前。
《YUHARA MARI》
自分のASSIGNMENTを自分が持っている。
前方のGATE。
青から赤へ。
ロック。
「何で」
その声を聞いて杏が振り向く。
通路越し。
「茉莉?」
「自分に戻った」
「何が」
「私の担当」
茉莉は腕輪を杏へ向ける。
もちろん遠すぎて見えない。
それでもそうした。
「二階堂さんがいなくなったら、私に戻ってきた」
理人も足を止める。
頭の中で線がつながる。
仁科。
RELEASE。
二階堂。
GUARANTOR。
EXIT。
そして茉莉。
消えていない。
一周して、
元の場所へ戻っただけだ。
中央システムの声。
感情のない音。
《GUARANTOR TERMINATION DETECTED》
《UNRESOLVED ASSIGNMENT WILL RETURN TO ORIGIN》
茉莉の前で、
GATEの赤いランプが点灯する。
タイマー。
《60》
自分の責任を自分が持ったままでは、
出口は開かない。
杏が通路の向こうから茉莉を見ていた。
さっき、
受け取れないと言った相手。
残り五十九秒。
五十八。
茉莉は自分の腕輪を握った。
捨てた人間がいる。
代わりに持った人間がいる。
その人間がいなくなれば、
最後には自分へ戻ってくる。
この施設では、
責任だけが行き場を失わなかった。
保証人が消えれば、
責任は元の持ち主へ戻る。




