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LAST VAULT ―300億の遺産―  作者: asnt2026


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15/48

第15話 残る者、降りる者

四分という時間は、話し合うには短く、人を一人選ぶには長すぎた。


《03:42》


数字が減る。


誰も最初の一言を出さない。


地下の縦穴を流れる風が、TRANSFER DECKの隙間から細い音を立てて抜けていく。赤い非常灯は一定間隔で明滅し、明るくなるたび参加者の顔へ違う影を作った。


赤城鉄平が最初に口を開いた。


「くじでいいだろ」


一ノ瀬がいれば反対したかもしれない。


だが彼女はMAKER ROOM。


ここにいるのはBREAKERSだけだ。


晴斗が顔をしかめる。


「命のくじ?」


「誰かが背負わなきゃいけねえなら、平等だろ」


越智がすぐ言う。


「確率が平等なだけです。結果の生存可能性は平等ではありません」


「じゃあまた、使える奴に押しつけるか?」


越智は答えない。


赤城が理人を見る。


「さっきみたいに」


その言葉で視線が集まった。


A。


理人たち。


荒巻が口を開こうとする。


その前に汐里が言った。


「Aは反対です」


荒巻が横を見る。


「お前が決めることじゃねえ」


「肩を確認したのは私です」


「動く」


「それしか言わないですね」


「動くからな」


杏が小さく息を吐いた。


少し笑ったのかもしれない。


荒巻がそちらを見る。


「何だ」


「いや、頑固だなって」


「お前に言われたくねえ」


杏の口元が少し上がった。


重松が死んだあと、帰ると言った人間。


それでも残った。


さっきは落ちかけた。


今もここにいる。


理人は一人ずつ顔を見る。


誰が適任か。


その考えが自然に浮かぶ。


自分の嫌なところを見つけたようだった。


二階堂と同じことをしている。


人物を並べ、


強い。


弱い。


使える。


危ない。


分類する。


理人は視線を床へ落とした。


「LIFTじゃなくて、中身を変えたら?」


牧瀬苑子だった。


それまで全員の言葉を聞いていた。


「どういう意味です」


理人が聞く。


苑子が四台の表示を指す。


「一台が十五オーバーしなきゃいけない。でも、今の四人組のままじゃなくていいでしょう」


表示。


《PERSON / BURDEN TRANSFER AVAILABLE》


人も移れる。


「強い人を一台に集める?」


晴斗。


苑子は首を横に振る。


「それだけじゃない。重いBURDENを動かせる人、設備を読める人、身体を見る人。役割を揃える」


理人の目が止まる。


二階堂は最初からAをそう見た。


設備。


建設。


医療。


小柄で動ける杏。


だからAへ危険を集中した。


「結局、二階堂と同じじゃねえか」


赤城。


苑子は赤城を見る。


「似てる。でも一つ違う」


「何だよ」


「今度は本人が選べる」


その言葉で空気が少し変わった。


誰かに決められる。


自分で選ぶ。


危険そのものは同じでも、その二つが同じではないことくらいは理人にも分かった。


荒巻が言う。


「なら俺は行く」


汐里。


「肩」


「俺が選ぶ」


「身体の状態については私が言います」


「止めるのか」


「止めるとは言ってません。判断材料を出してるだけです」


荒巻は少し黙った。


「そういう言い方、覚えたのか」


「元からです」


理人が口を開く。


「俺も行きます」


汐里がすぐ理人を見る。


「足首」


「歩けます」


「だから、それは私が」


「判断材料でしょう」


汐里の口が止まった。


理人は少しだけ笑う。


「使わせてもらいます」


「そういうところだけ覚えるの早いですね」


ルカが片手を上げた。


「私も」


晴斗が顔を向ける。


「何で」


「視線誘導とバランス取り。動くもの見るのは得意」


「そんな理由で?」


「晴斗くんよりは理由あるよ」


「いや俺も行く」


「配送員だから?」


「重いもん運ぶの慣れてる」


「じゃあ被る」


「何でオーディションみたいになってんだよ」


ほんの少しだけ空気が緩む。


それでも時間は減っている。


《02:11》


汐里が言った。


「私は行きます」


理人が見る。


「有川さんは」


「誰か怪我した時に必要でしょう」


「危険な方に医療職が行くのは」


「安全な方で待ってても、落ちた人には届きません」


その言葉に理人は返せなかった。


荒巻。


理人。


汐里。


あと一人。


杏が手を上げる。


「私」


三人が同時に見る。


「駄目です」


汐里。


「何で」


「足首」


「歩ける」


「それ私の真似?」


「便利だから」


杏は少し笑った。


すぐ真顔へ戻る。


「あと、軽いから。人間の重さもLOADになるなら、私が一番軽いでしょ」


越智が表示を確認する。


「人物移動後はBURDEN量で最終15超過へ調整されます。体重差そのものはシステムが単位換算するようです」


杏が眉を寄せる。


「じゃあ意味ない?」


「身体を動かせるという点には意味があります」


理人が言う。


杏は理人を見る。


「なら行く」


荒巻が腕を組む。


「さっき落ちかけたぞ」


「だから何」


「怖くないのか」


杏はすぐに答えなかった。


縦穴を見る。


下は暗い。


赤い光が途中までしか届かない。


「怖いよ」


声が思ったより普通だった。


「でも、それと行かないのは別じゃない?」


荒巻は何も言わなかった。


少しして鼻から息を吐く。


「分かった」


汐里は納得していない顔のまま杏を見る。


「無理だと思ったら途中でも言って」


「はい」


「強がらない」


「はい」


「大丈夫って言わない」


杏が理人を見る。


「それ真鍋さん用じゃない?」


理人は聞かなかったことにした。


*


最終的に、Aへ乗ったのは同じ四人だった。


理人。


汐里。


荒巻。


杏。


ただし意味は違う。


最初は二階堂たちが選んだ。


今度は自分たちで選んだ。


B、C、DからBURDENが戻される。


五本。


十本。


十五本。


Aの床へ黒い円筒が増えていく。


《LOAD 25》


《SUPPORT 10》


赤い表示。


B。


30ではなく、25へ戻した分だけSUPPORT30に対して余裕5。


Cも。


Dも。


《FINAL CONDITION ACHIEVED》


赤城がBからAを見る。


「正気じゃねえな」


荒巻が返す。


「お前も残ってる時点で似たようなもんだ」


赤城の顔が少し歪む。


「それとこれとは違う」


「違うか?」


返事はなかった。


接続床が縮み始める。


晴斗がルカの横から叫ぶ。


「真鍋さん!」


理人が見る。


「落ちないでよ!」


「努力します」


「そこは絶対って言えよ!」


ルカが横から口を挟む。


「真鍋さんにそれ求めても無理」


「お前どっち側だよ!」


「面白い方」


接続床が完全に収納された。


四台が離れる。


《FINAL ASCENT》


三。


二。


一。


Aが上がる。


最初より揺れは強かった。


けれど理人たちは知っている。


どの音のあとに床が傾くか。


どの方向へ円筒が滑りやすいか。


荒巻は円筒を押す。


理人は床下の制御音を聞く。


汐里は杏と荒巻の身体を見る。


杏は移動の早さで空いた位置を埋める。


「右来る!」


理人。


四人が動く。


円筒二本が滑る。


荒巻と杏が押し返す。


「次、前!」


理人の声。


汐里が後ろへ下がる。


床が傾く。


戻る。


赤い警告。


消える。


また点く。


上昇。


風が強くなる。


出口の白い光が上に見えた。


あと二十メートル。


十。


床が最後に大きく沈む。


杏の身体が揺れる。


荒巻が手を出しかける。


杏が自分で踏みとどまった。


「大丈夫」


汐里が見る。


杏はすぐに言い直す。


「立ててる!」


「よし」


五メートル。


三。


LIFT Aが停止する。


床が水平へ戻った。


一拍遅れて、


B。


C。


D。


四台のランプが青へ変わる。


《AREA 04 CLEAR》


《SURVIVORS : 22》


一瞬、誰も反応しなかった。


次に晴斗の声が響いた。


「全員?」


久保田が画面を見る。


「二十二」


「全員?」


「だから二十二です」


晴斗が両手を上げる。


「全員じゃん!」


赤城が手すりへ背を預ける。


羽鳥が目を閉じる。


志乃は小さく息を吐いた。


MAKER ROOMでは、一ノ瀬が椅子もない場所で操作卓へ片手をついていた。


画面。


二十二。


生存。


葉月はその数字を見たあと、二階堂を見る。


「あなたの配分で、助かった」


二階堂は画面から目を離さない。


「結果論です」


「自分で言うんだ」


「別の結果もあり得ました」


「それでも」


葉月が続ける。


「今回は、あなたが正しかった」


二階堂はしばらく黙っていた。


「正しかったかどうかは分かりません」


葉月が眉を寄せる。


二階堂はようやく彼女を見る。


「生き残った。それだけです」


*


SAFE ROOMへ戻ったあと、赤城鉄平は誰より先に出口受付の前へ立った。


《WITHDRAWAL AVAILABLE》


ゲームごとに辞退できる。


そのルールは変わっていない。


理人は少し離れた場所から見ていた。


赤城のEXIT BANK。


《¥4,720,000》


前より増えている。


荒巻が近づく。


「帰るのか」


赤城は表示を見たまま答えた。


「ああ」


「さっきまで残ってたろ」


「さっきまではな」


荒巻は何も言わない。


赤城が続けた。


「二階堂の判断、間違ってなかったんだろ」


「結果はな」


「そこなんだよ」


赤城がようやく荒巻を見る。


「正しい奴に危険な方へ送られるのが、一番たち悪い」


理人の耳にも届いた。


赤城は少し笑う。


「間違ってるなら殴って終われる。でも正しいって言われたら、次も従えって話になる」


荒巻の眉が動いた。


「だから降りる?」


「俺はな」


赤城は出口ボタンへ指を置く。


「次に俺がMAKERになった時、同じことできる気がしねえ」


押した。


《WITHDRAWAL CONFIRMED》


扉が開く。


白い光。


赤城は振り返らなかった。


歩き始めてから一度だけ手を上げる。


誰に向けたものか分からない。


扉が閉じる。


《AKAGI TEPPEI――WITHDRAWN》


残り二十一人。


理人はその表示を見る。


正しい判断。


間違った判断。


生き残る判断。


降りる判断。


どれか一つに名前を付ければ済むと思っていたものが、少しずつ形を失っていく。


その向こうでは、二階堂隆雅がSAFE ROOMへ戻ってきた。


何人かが見る。


誰も礼を言わない。


誰も責めない。


二階堂も何も求めなかった。


理人と目が合う。


「十」


理人が言った。


二階堂は立ち止まる。


「あなたが決めたんですよね」


「ええ」


「俺たちなら持たせられると思った」


「そう判断しました」


「落ちたら?」


二階堂は少しだけ間を置いた。


「私の判断は失敗だった」


「それだけ?」


「それ以上に何を言えばいいですか」


理人は答えられなかった。


腹は立つ。


今も。


ただ、十ではなく二十五ずつならどうなったかも、もう知っている。


二階堂が理人の横を通り過ぎる。


数歩進んだところで理人が呼び止めた。


「二階堂さん」


振り向く。


「俺は、あなたのやり方嫌いです」


「知っています」


「でも今回は」


言葉が止まった。


助かった。


ありがとう。


どちらもしっくり来ない。


二階堂は少し待った。


理人が続けないと分かると前を向く。


「無理に結論を出す必要はありません」


そのまま歩いていく。


理人はその背中を見た。


それがまた腹立たしかった。


自分より先に、


正解が一つではないことを知っているように見えたからだ。

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