↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
LAST VAULT ―300億の遺産―  作者: asnt2026


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
13/48

第13話 二階堂の答え

LIFT Aが上昇を始めた瞬間、理人は足の裏で異常を感じた。


速すぎるわけではない。


むしろ上がり方は遅い。


ただ、床が水平ではなかった。


右前方が沈み、左後方が持ち上がる。数センチ程度の傾きなのに、縦穴の底が見えない場所では身体が感じる角度がまるで違った。


宮部杏が手すりを握る。


「これ、ずっとこのまま?」


「動くぞ」


荒巻泰造の声が飛んだ。


次の瞬間、床が反対側へ傾いた。


黒い円筒の一つが、ご、と低い音を立てて滑る。


理人が足を出した。


止めようとして、荒巻に肩を掴まれる。


「足で止めるな。持ってかれるぞ」


円筒は床を滑り、反対側の金属枠へぶつかった。


鈍い衝撃。


LIFT A全体が大きく揺れる。


《LOAD : 25》


《SUPPORT : 10》


《BALANCE ERROR》


赤い表示が点滅した。


汐里が杏の腕を掴んで中央から外側へ引く。


「こっち」


「真ん中の方が安全じゃないの?」


「重さを散らすって荒巻さんが言ったでしょう」


「人間も重りなの?」


「今はそう考えて」


杏の顔が一瞬だけ固まった。


汐里自身も言ってから唇を閉じた。


人間も重り。


この場所では、そうだった。


体重。


職業。


年齢。


判断力。


誰をどこへ置けば生存率が上がるか。


さっきMAKER ROOMで二階堂たちがやったことと、今ここで自分たちがやっていることに、どれほど違いがあるのか。


理人は床下を見る。


右前の姿勢制御装置が伸びきっている。


左後方は逆に縮んでいる。


「荒巻さん、右前が限界です」


「ああ。次に右へ荷が寄ったら戻せねえな」


「円筒を固定できれば」


「固定具がねえ」


理人は黒い円筒を見る。


一本四十キロ前後。


それが十五本。


いや、正確には床表示に別の項目がある。


《TRANSFERABLE BURDEN : 15》


一個が一単位。


人間四人と床に固定された基礎負荷を合わせた十に、移動可能なBURDEN十五。


合計二十五。


理人は数字を見て息を止めた。


十五。


自分たちの不足分と同じだった。


SUPPORTは10。


LOADは25。


差は15。


偶然ではない。


「これ全部」


理人が円筒を見る。


「余分なんじゃない」


荒巻が顔を向ける。


「何だ」


「次のTRANSFER DECKで、この十五をほかの三台へ渡すんです」


杏が隣のLIFTを見る。


B、C、D。


それぞれSUPPORT30。


LOAD25。


余裕5。


三台で十五。


汐里も気づいた。


「五ずつ」


「そうです」


理人が言う。


「こっちの十五を、五ずつ渡せば」


Aは10。


Bは30。


Cは30。


Dは30。


全て、


LOAD=SUPPORT。


理人は上を見る。


最初のTRANSFER DECKまで、まだ二十メートル以上ある。


「そこまで持たせれば」


荒巻が言った。


「四台とも一旦、釣り合う」


「たぶん」


荒巻が理人を見る。


「また、たぶんか」


「最近増えました」


「悪くねえ」


言った直後、床が大きく揺れた。


杏の身体が横へ流れる。


汐里が手を伸ばした。


理人も動く。


だが一番早かったのは荒巻だった。


杏の肩を掴み、自分の身体ごと床へ落とす。


二人の膝が金属板へぶつかる。


「痛っ」


「立つな!」


荒巻は杏の腕を離さず、もう片方の手で手すりを掴んだ。


黒い円筒が二本、頭の高さを横切る。


ひとつ。


二つ。


数十センチ先で金属枠へ激突した。


ゴン。


床がさらに傾く。


理人の身体が浮いた。


足が床から離れる。


一瞬だった。


腹の奥が抜ける。


次に靴底が戻った時、右足首へ鋭い衝撃が来た。


「真鍋さん!」


汐里の声。


「大丈夫」


言ったあと、またそれを使ったと思った。


汐里が顔をしかめる。


「動かせますか」


理人は足首を曲げる。


痛む。


ただ、体重はかけられる。


「歩けます」


「なら後で見ます」


ゲームの中では、それが十分な診断になるらしい。


荒巻が円筒へ身体を寄せる。


「二本、こっちへ」


理人も手を掛ける。


「でも右が沈んで」


「だから左へ持ってく」


「人で調整するんじゃなくて?」


「人よりこいつの方が重い。使えるもの使え」


二人で押す。


動かない。


荒巻が肩を当てた。


「せーの」


理人も体重を掛ける。


円筒が数センチ転がる。


その瞬間、床の傾きがわずかに戻った。


杏が目を見開く。


「重りを動かして、床を真っすぐにしてる?」


荒巻は息を吐く。


「真っすぐじゃねえ。落ちない方へ寄せてるだけだ」


*


MAKER ROOMでは、二階堂がLIFT Aの傾斜角を見ていた。


七度。


九度。


六度。


数字が上下する。


三雲葉月は両手を操作卓につかず、胸の前で指を組んでいた。


「これ、本当に予定通り?」


「予定という言葉を使うなら、想定範囲です」


二階堂。


一ノ瀬結衣が振り向く。


「九度傾いても?」


「転落限界は十二度」


「三度しかない」


「三度あります」


一ノ瀬の眉が寄る。


「そういう言い方が」


「嫌いでも構いません」


二階堂の視線は画面から動かない。


「今は彼らがTRANSFER DECKへ到達するかどうかだけ見てください」


新海譲がコインを操作卓の上で回した。


今度は指で弾かない。


円を描いて回り続ける。


「もしAが落ちたら」


二階堂は答えない。


新海が続ける。


「俺らが落としたことになる?」


「その問いは、重松さんの時と同じです」


皆川文乃が言った。


「一つに決められない」


「便利だな、責任って」


新海は回っているコインを指で止めた。


「分ければ薄くなる」


「薄くはならないでしょう」


葉月だった。


声は大きくない。


「人数が増えるだけで」


誰も返さなかった。


その時、


《LIFT A : TILT 11.1°》


警告音。


葉月の指が袖口へ伸びる。


握る前に止めた。


画面の中で、荒巻と理人が黒い円筒を転がしている。


十一・一。


十・四。


九・八。


下がる。


一ノ瀬の肩がわずかに落ちた。


二階堂は何も言わない。


ただ次の数字を見る。


八・九。


七・二。


五・六。


そして。


《TRANSFER DECK 1 APPROACH》


四台のLIFTが同じ高さへ近づいていく。


*


最初に到着したのはBだった。


続いてC。


D。


三台とも床はほぼ水平。


LIFT Aだけが、少し右へ傾いたまま上がってくる。


晴斗が手すりから身を乗り出した。


「真鍋さん!」


「乗り移るな!」


越智恒成がすぐ止める。


「接続完了前です」


「分かってるって」


「今、足を出したでしょう」


「出してない。出しかけただけ」


「同じです」


ルカが晴斗の肩を引く。


「はいはい。助けたいならまず邪魔しない」


「お前まで」


四台の間から金属床が伸び始めた。


ガコン。


ガコン。


ひとつずつ接続される。


《TRANSFER DECK 1》


《PERSON / BURDEN TRANSFER AVAILABLE》


《NEXT SECTION START : 180 SEC》


三分。


理人は表示を見た瞬間、Bへ向かって叫んだ。


「五個受け取って!」


晴斗が聞き返す。


「何を?」


「BURDEN!」


理人が黒い円筒を叩く。


「B、C、Dで五個ずつ!」


久保田理玖がDから画面を見る。


すぐに理解した。


「AのTRANSFERABLE BURDENが十五なら成立します。Aが10、ほか三台が30」


越智がBの床表示を見る。


《LOAD : 25》


《SUPPORT : 30》


「受け入れ可能です」


赤城鉄平が眉を寄せる。


「待てよ。何でこっちがそっちの荷物を引き受けんだ」


「そういう配分だからです」


越智。


「配分したのは俺らじゃねえだろ」


「でも受け取らなければ、Aが次へ進めない」


晴斗が言う。


赤城は理人たちを見る。


床へ座り込んでいる杏。


足首を気にしながら立つ理人。


荒巻。


汐里。


その向こうにいる二階堂の姿は見えない。


「二階堂か」


理人は少しだけ目を上げた。


「たぶん」


赤城が鼻を鳴らす。


「また、あいつか」


それでも円筒へ手を伸ばした。


「五本だな」


「一個四十キロくらいあります」


荒巻。


赤城の口元が動く。


「先に言えよ」


晴斗とルカも加わる。


一本目。


金属床の継ぎ目を越える。


二本目。


三本目。


残り時間。


百二十秒。


四台の参加者全員が動いた。


AからBへ五。


Cへ五。


Dへ五。


最後の一本を牧瀬苑子と羽鳥雅也がDへ引き込んだ瞬間、四台の表示が切り替わった。


A。


《LOAD 10 / SUPPORT 10》


B。


《LOAD 30 / SUPPORT 30》


C。


《LOAD 30 / SUPPORT 30》


D。


《LOAD 30 / SUPPORT 30》


赤い警告が、全て消えた。


縦穴が静かになる。


それまで床下で唸っていた姿勢制御装置まで、一斉に息を止めたようだった。


晴斗が数字を見る。


「マジか」


久保田が眼鏡も掛けていないのに、無意識に鼻筋へ指を置く。


「計算上は当然です」


「その言い方、今だけは許す」


理人はAの中央へ立った。


床は水平だった。


完全に。


さっきまであれほど暴れていた同じ床とは思えない。


汐里が足元を確認してから、理人を見る。


「二階堂さんの配分」


「ですね」


「最初からここまで考えてた?」


理人はMAKER ROOMのある上方を見る。


見えない。


「たぶん」


汐里が少しだけ笑った。


「便利になりましたね、その言葉」


次区間開始まで、残り四十五秒。


壁面に四台の生存表示が並ぶ。


十六人。


全員。


理人はそれを見たあと、もう一度Aの《10》を見る。


嫌な数字だった。


自分たちだけを危険へ押し込んだ数字。


それなのに、その十がなければ、三台に五ずつの余裕を作ることもできなかった。


腹立たしい。


その感覚だけは、まだ簡単だった。


もっと厄介なのは、


二階堂隆雅の判断が、ここまでは正しかったことだった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。