第12話 均等では死ぬ
MAKER ROOMの中央には、四本の縦棒が表示されていた。
A。
B。
C。
D。
すべて現在LOADは25。
その横に、配分前のSUPPORT。
0。
上部には大きく、
《TOTAL SUPPORT : 100》
新海譲がコインを指で転がしながら言う。
「二十五ずつで終了じゃないの」
皆川文乃も表示を見る。
「普通に考えればそうなります」
「なら早く決めようぜ」
「待ってください」
二階堂隆雅だった。
一ノ瀬結衣が横を見る。
「何かありますか」
「均等では駄目です」
新海がコインを止めた。
「何で」
「LOADとSUPPORTが同じなら余裕がゼロだからです」
「同じなら支えられるでしょう」
葉月が聞いた。
二階堂は四本のLIFT映像を拡大した。
停止状態。
LOAD 25。
床は水平。
「停止している今なら」
志摩由良が先に気づいた。
机を指先で一定間隔に叩いていた音が止まる。
「動けば荷重が変わる」
「そうです」
二階堂。
「加速、減速、参加者の移動。四台とも常にLOAD25とは限らない」
皆川が空中へ線を描く。
「例えば一瞬でも26になれば、SUPPORT25では不足1」
「全台がぎりぎりの状態になる」
一ノ瀬の眉が寄る。
「だから余裕を作る?」
「ええ」
新海が笑う。
「でも百しかないだろ。どっか増やしたら、どっか減る」
「その通りです」
一ノ瀬の視線が二階堂へ止まる。
「一台を危険にするつもりですか」
二階堂は答えない。
代わりに操作卓へ指を滑らせた。
A。
メンバー。
真鍋理人。
有川汐里。
荒巻泰造。
宮部杏。
B。
柏木晴斗。
東雲ルカ。
赤城鉄平。
越智恒成。
C。
芹沢洋平。
羽鳥雅也。
柚原茉莉。
仁科昂平。
D。
久保田理玖。
片平志乃。
八田周平。
牧瀬苑子。
葉月が袖口をつまんだ。
「人を見て決めるんですか」
「当然です」
二階堂。
「同じLOAD25でも、中身は同じではない」
「人の重さはシステムが調整してる」
新海。
「質量の話ではありません」
二階堂がAを指した。
「真鍋さんは設備点検。荒巻さんは建設現場監督。有川さんは救急看護師。宮部さんは若く、小柄で移動しやすい」
一ノ瀬の口元が硬くなる。
「だから危険を集中していい?」
「そうは言っていません」
「言っているのと同じです」
「違います」
二階堂の声は上がらない。
「生き残れる可能性が最も高い場所へ、不足を集中させると言っています」
部屋が静かになった。
新海がコインを操作卓へ置く。
今度は遊ばない。
「どんな配分?」
二階堂は数字を入れた。
B。
30。
C。
30。
D。
30。
残り10。
A。
10。
一ノ瀬が息を吸う。
「十五不足」
「静止状態で、です」
皆川。
「動いたらもっと」
「その可能性があります」
二階堂。
葉月がAの映像を見る。
理人たちはまだ何も知らず、床の装置を確認している。
「それ、本当に一番助かるんですか」
二階堂は葉月へ顔を向けた。
「全員を均等に危険へ置くよりは」
「答えになってない」
葉月が言った。
口調は柔らかい。
それでも引かなかった。
二階堂は少しだけ間を置く。
「三台へ5ずつ余裕を持たせれば、少なくともTRANSFER DECKまでは安定して到達できる可能性が高い」
皆川が図を見る。
「そこでAのBURDENを三台に移す」
「そうです」
「でもAがTRANSFER DECKまで持たなかったら?」
一ノ瀬。
「失敗です」
あまりに簡単に言ったので、葉月の指が袖口を強くつまんだ。
「人が乗ってるんですよ」
「分かっています」
「失敗、で終わるんですか」
「では二十五ずつにしますか」
二階堂が全員を見る。
「四台とも余裕ゼロで動かす。その方が平等ではある」
一ノ瀬が何か言おうとする。
その前に志摩由良が画面を拡大した。
LIFTの仕様。
《DYNAMIC LOAD VARIANCE》
《±1〜8》
「最大八」
由良が言った。
「加速時の瞬間負荷。SUPPORT25なら、全部のLIFTで不足が起きる可能性がある」
「しかも同時に」
皆川。
「四台全部が不安定化したら、TRANSFER DECKまで誰も届かない可能性がある」
新海は顔をしかめる。
「じゃあ一台に押し付けるのが正解?」
「正解とは言っていません」
二階堂が答えた。
「生存可能性が高いと言っている」
一ノ瀬が二階堂を見る。
「その区別、便利ですね」
「便利だから使っているわけではありません」
残り時間。
《DECISION LIMIT : 42》
葉月が操作卓へ近づく。
Aの四人。
理人。
汐里。
荒巻。
杏。
名前を見る。
「Aを十五にするのは」
「十です」
二階堂。
「もっと悪い」
「不足を中途半端に分散させる方が危険です」
「でも」
「三雲さん」
二階堂が初めて少し低い声を出した。
「全員を助ける案があるなら言ってください」
葉月は口を閉じた。
映像を見る。
ない。
少なくとも今は。
二階堂が正しいのかもしれない。
その考えが喉の奥に引っ掛かる。
認めるのとは違う。
それでも時間は止まらない。
三十一。
三十。
二十九。
*
LIFT A。
理人は床下のブレーキを見ていた。
突然、全員の腕輪が振動する。
《SUPPORT ALLOCATION COMPLETE》
杏が画面を見る。
「来た」
四台の床の縁に数字が浮かぶ。
LIFT B。
30。
LIFT C。
30。
LIFT D。
30。
最後。
LIFT A。
《10》
杏の顔が止まる。
「十?」
荒巻がAのLOADを見る。
《LOAD : 25》
汐里も同じ数字を確認した。
「十五足りない」
理人は隣のLIFTを見る。
晴斗たちのB。
LOAD25。
SUPPORT30。
余裕5。
Cも。
Dも。
自分たちだけ。
十五不足。
杏の声が少し震える。
「何で」
理人は答えられない。
MAKERが決めた。
誰が提案したのかは分からない。
ただ、この数字の形には見覚えがあった。
誰か一人、あるいは一か所へ負担を寄せる。
二階堂。
そう思った。
確証はない。
けれど名前が最初に浮かぶ。
汐里が理人を見る。
「これでも、正解があると思います?」
突然の質問だった。
理人は一瞬だけ返せない。
「まだ始まってません」
「そうですね」
汐里は前を見る。
「じゃあ、始まってから考えましょう」
赤い警告灯が回り始める。
LIFT Aの床だけが、低い唸りを上げた。
四隅の姿勢制御装置が動き、右前方が数センチ沈む。
杏が手すりを掴む。
荒巻は反対側へ一歩動いた。
床がわずかに戻る。
「全員、真ん中に寄るな!」
荒巻の声が響く。
「重さを散らせ!」
理人が左へ。
汐里が後方へ。
杏が荒巻の指示通り右へ動く。
床が軋む。
上部。
《START IN 5》
五。
四。
理人が上を見る。
三。
ほかの三台は青。
自分たちの床だけ赤い。
二。
MAKER ROOM。
一ノ瀬が最後まで認証欄へ指を置けずにいた。
二階堂が彼女を見る。
「均等なら全滅します」
一。
一ノ瀬が指を置く。
《DECISION ACCEPTED》
四台の昇降床が動き始めた。
そのうち一台だけが、赤く染まったまま上昇した。




