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花を編む人

「どうして豊穣の女神の信仰に興味を持ったんですか? 僕、真珠王国へ行ったことがありますけど、街で見かけるのは天空神の妻や娘たちを祀る神殿ばかりでした。」


エイデンが興味深そうに尋ねた。


「祖父母の代までは、豊穣の女神は王家が信仰する神様だったんです。幼い頃は祖父と祖母に連れられて豊穣祭へ行きました。みんな花冠をつけて踊って、お酒を飲んで……とても楽しかったですよ。」


「その後は、なくなっちゃったんですか?」


ジェスミンは首を横に振る。話しながらも、手元のかぎ針と糸は止まらない。


「祖父から聞きました。その代で王太女がディマン王国の王族と結婚して、天空神の信仰が持ち込まれたそうです。それから少しずつ、そうした儀式や祭りは姿を消していきました。」


「待ってください。それって、お祖父さんたちの時代ってことは……『涙の聖女』と『砕骨の未亡人』の時代ですよね?」


「ええ、その頃です。」


「確か聞いたことがあります……。その時代を境に、真珠王国では豊穣の女神の聖女は現れなくなったんですよね?」


「はい。その代わりに、ディマン王国から天空神の勇者と聖女が定期的に派遣されるようになりました。」


「まさに政教一体ですね。」


「そうですね。」


「じゃあ、ジェスミンさんはどうして豊穣の女神に興味を持つようになったんですか?」


「……最初は、婚約があったからです。」


ジェスミンは俯き、絡まってしまった糸をほどこうとした。少しずつ結び目を解き、ようやく元通りにすると、再び静かに編み始める。


「婚約」という言葉を聞いた瞬間、エイデンは思わず息を呑んだ。


ジェスミンはそんなことには気づいていないように、自然な口調で続ける。


「女王陛下が進めたい政策は、王子妃や、その候補である者たちに任されるものなんです。」


ジェスミンが、自分の過去の婚約についてエイデンの前で語ったのは、これが初めてだった。


エイデンは無意識のうちに息を潜める。

獲物を警戒させまいと、狩りの最中に物音ひとつ立てないよう神経を研ぎ澄ませる――そんな時と同じように。


数秒の沈黙のあと、ジェスミンは再び口を開いた。


「それから巡礼の旅ですね。セイレーンは無尽部族の巫女たちが語る昔話を聞くのが好きで……私も一緒に聞いているうちに、興味を持つようになりました。」


「今こうして調べているのは、もう誰かのためではなく……私自身のためなんです。」


そう語るジェスミンの表情は、本当に楽しそうだった。


セイレーンの名前を口にしても、いつものような重たい悲しみは、その瞳から一時だけ消えていた。


エイデンは十年前の自分を殴り飛ばしたくなった。


幼い頃、エリカ王妃付きの薬草師ソラが、ティムを連れて数か月の間この辺境に滞在していたことがある。

エイデンとティムが出会い、友人になったのは、その夏だった。


ソラは何度か豊穣の女神についての神話を話してくれた。

けれど当時のエイデンはまだ幼く、少し聞いただけで退屈になり、ティムの手を引いて草むらへコオロギを探しに行ってしまったのだ。


―今思えば、あの時ソラは、一体何を伝えようとしていたのだろう。


その日以来、エイデンはジェスミンが編み物をしている姿を目にすることが増えた。


器用に動く指先。


かぎ針を操る手。


糸を滑らせる仕草。


そして作品だけを真っ直ぐ見つめる真剣な眼差し。


そのどれもが、エイデンの心を奪ってやまなかった。


「昔の婚約者は、私がこういうものを編むのをあまり好きではなかったんです。」


ジェスミンは少し困ったように笑う。


「どうしてですか?」


エイデンは本気で驚いた。


母のヒルダですら、ノーマンのやることを制限したことなど一度もない。


「私の時間は全部、自分のために使うべきだと言われました。教室でも、大勢の前で『そんなことをする暇があるなら王子妃教育の復習をしろ』と叱られたこともあります。」


「うわぁ……。うちの母さん、父さんにそんなこと一度も言ったことありませんよ。」


エイデンには、とても信じられなかった。


「それでも編み続けたんですか?」


ジェスミンは少しいたずらっぽく彼を見た。


「もちろんです。」


そして、柔らかく微笑む。


「勉強も王子妃教育も、一度も怠ったことはありませんでした。」


「だから、私の時間の使い方を止める資格がある人なんて、いないと思っています。」


そう言ったあと、小さくため息をつく。


「でも、セイレーンやマラ――もう一人の友人は違いました。婚約者に少し注意されただけで、二人とも編み物をやめてしまったんです。」


それからというもの、ジェスミンは次々と作品を編んでいった。


最初に完成したのは、繊細なレースと小花で飾られたハンドバッグ。それはヘクトール伯爵夫人のもとへ送られた。


数日後には、羊毛で編まれた暖かなショールが完成し、真珠王国にいる母親へ届けられた。


その次には、緑と白の糸で本物と見紛うほど美しい百合の花束を編み上げ、丁寧に包んで無尽部族にいるセイレーンへ送った。


そして最近は、淡い青色の帽子を編み始めていた。


「この空色、男性には少し似合わないでしょうか?」


ジェスミンが意見を求めるように尋ねる。


―もしかして、僕への贈り物!?

エイデンの胸は一気に高まった。


「い、いや! すごくいい色だと思います!」


「本当ですか? 季節には少し合わないでしょうか?」


「僕は、贈り物って色より気持ちのほうが大事だと思います。好きな人からもらえるなら、何だって嬉しいですよ。」


―しかし。

次に会った時、ジェスミンは残酷な事実を告げた。


「母からの手紙に、最近の真珠王国は天候が不安定だと書いてあったので……祖父に帽子を編もうと思っているんです。」


お祖父さんだったーーっ!?


このところジェスミンと過ごす時間が増え、すくすく育っていた少年の恋心は、あまりにも無慈悲な現実によって粉々に打ち砕かれた。


「ジェスミンさんの手編みの物、僕も欲しいなぁ……」


錆の冒険者ギルドの談話室で、エイデンはソファに寝転がり、まるで芋虫のようにもぞもぞと身をよじらせていた。


「思い切って本人に言ってみたら?」


ノーマンが助言する。


「俺なんて跪いて泣けば、お前の母さんは大抵のことは聞いてくれたぞ。」


橘さんは懐かしそうに微笑んだ。


「編み物ねぇ。私が若かった頃は、真珠王国の女の子なら誰でも習っていたわ。」


「橘さんも編めるんですか!?」


冒険者たちは一斉に驚いた。


豪快に戦う橘さんの姿しか知らない彼らには、椅子に座って編み物をする姿など想像もできなかった。


「私は祖母に育てられたから、最初はあまり得意じゃなかったの。学校に入ってから覚えたのよ。」


何かを思い出したように、橘さんは照れくさそうに笑う。


「ケイトはもともと王子の婚約者だったから、編み物は本当に上手だったわ。私たちの結婚式のウェディングドレスも、彼女の手作りだったの。」


その話を聞いたロイも、何かを思い出したらしい。


自分の手を見つめ、露骨に嫌そうな表情を浮かべる。


「手編みのマフラーか……」


「……あんなものは、二度と受け取りたくないな。」



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