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『絶望の夜に覚醒した治癒魔法~眠り続ける弟を救うため、私は森の奥で「魔女」になる~』  作者: 沼口ちるの


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第8話:増えすぎた家族と、騎士団の来訪

王都での「破壊の魔女」騒動から数週間。

私は逃げるように『迷いの森』の我が家へと戻り、しばらくの間、小屋に引きこもっていた。


弟を助けるための光が、人を傷つけ、物を壊す力にもなる。その事実にひどく落ち込んでいた私を慰めてくれたのは、ルビーだった。それに、精霊のザイスさんが言っていた「魔法を磨き続けなさい」という言葉を思い出し、私は森の奥で傷ついた動物たちを積極的に助けることにしたのだ。


……その結果が、これである。


「はい、お肉。順番に食べてね」


小屋の前の庭。私が差し出した巨大な猪の肉を、体長5メートルを超える『大きなトカゲ』が嬉しそうに丸呑みする。数日前、翼を折って森に墜落してきたところを治してあげたら、すっかり住み着いてしまったのだ。

世間では最強の魔物『レッドドラゴン』と呼ばれているらしいが、私にとってはちょっとよく食べる大きな爬虫類だ。


「わんっ!」


私に飛びかかってきて顔を舐め回すのは、真っ白な毛並みの『大きな犬』。魔法の罠にかかって血だらけだったところを助けた。これも伝説の聖獣『フェンリル』なのだが、私にはモフモフの大型犬にしか見えない。


屋根の上では怪我を治した『大きな鳥』(グリフォン)が日向ぼっこをし、庭の池には『キラキラした馬』(ユニコーン)が水を飲んでいる。


生命の魔法は、純粋な命たちを惹きつける。

私の家はあっという間に、ちょっと変わった動物たちの賑やかな動物園になっていた。


「みんな、今日も元気でよかった……」


そんな平和なスローライフを満喫していた、ある日の午後。

森の静寂を破り、甲冑の擦れるような重い足音が近づいてきた。


「――この先ですね、副団長。……むっ、凄まじい魔力の気配が複数……まさか、すでに軍隊を!?」


凛とした、しかし酷く緊張した女性の声。

小屋の前の茂みが掻き分けられ、姿を現したのは、以前路地裏で助けてくれたレオンハートさんと、彼が「団長」と呼んでいた見上げるほど美しい女騎士だった。


「ひっ……!」


私は思わず後ずさり、足元にいたルビーやフェンリルが私の前に出て、低い唸り声を上げる。


「動かないで! 聖騎士団長レイナです。……あなたが、街で壁を砂に変えたという破壊の魔……じょ……?」


レイナさんは鋭い眼光で私を射抜こうとし――そのまま、完全に石のように固まった。


無理もない。彼女の視線の先には、こちらを威嚇するフェンリル、屋根の上から睨みつけるグリフォン、そして「うちの主に何用だ」と言わんばかりに鼻息から炎を漏らすレッドドラゴンの姿があるのだから。


「まぁまぁ団長、そんなに怖がらせるな。見てみろ、あの子、今にも泣き出しそうだぞ」


「副団長! 冗談を言っている場合ではありません」と大真面目に詰め寄ろうとしていたレイナさんの顔から、サァァッと血の気が引いていく。


「な……な、な……っ!?」


「何ですか、この規格外の魔物の巣窟は!? ドラゴンにグリフォン……フェンリルまで!? エリアと言いましたね、あなた、これほど強力な魔物を従えて、一体何を企んでいるのですか!!」


声が裏返っている。

その横で、レオンハートさんは欠伸を噛み殺しながら頭を掻いていた。


「まぁまぁ団長、落ち着け。よく見ろ、魔物たちに殺気はない。あの子を守ろうとしてるだけだ」


「これが落ち着いていられますか! 国家転覆どころか、世界が滅ぼせる戦力ですよ!?」


「いえ、あの……みんな、森で怪我してたのを治してあげたら、勝手に懐いちゃって……」


「治した……? このレベルの幻獣や竜の傷を、一人で!?」


絶句するレイナさん。

そんな彼女の横で、レオンハートさんは確信に満ちた笑みを浮かべていた。


(……やはりな。生命を与える力が極まれば、それは周囲のあらゆる生命を引き寄せる。そして、その奔流が逆流すれば、すべてを崩壊させる『死』の力となる。……とんでもない『魔女』が誕生しちまったもんだぜ)


「団長、今日のところは引き上げよう。ここで剣を抜けば、王都が火の海になるぞ」


「くっ……。わかりました。ですがエリア、あなたのことは国家の最重要危険人物として、厳重に監視させていただきますからね!」


捨て台詞のようにそう言うと、レイナさんは震える足に鞭打ち、足早に森の出口へと向かっていった。

レオンハートさんは去り際、私に向かって小さくウインクをした。


「……うまく隠せと言ったんだが、お前さん、規格外にもほどがあるぞ。まぁ、飯をしっかり食って、力を制御する練習でもしておけ。また来るぜ、魔女殿」


騎士団が去った後、森には再び静寂が戻った。

けれど、私の心は少しも静かにはならなかった。


王都の騎士団長に目を付けられ、さらにはレオンハートさんに「魔女」と呼ばれて。

私の平穏な(?)スローライフは、ますますあらぬ方向へと加速していく予感がしていた。

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