第6話:聖域の守護者と、届かない願い
ルビー(と名付けた宝石付きリス)が仲間に加わってから、森での生活は一気に華やかになった。
ルビーは私の肩がお気に入りらしく、薬草採取の時もずっとそこが定位置だ。たまに「きゅいっ!」と鳴いて、珍しい果実や高価な薬草がある場所を教えてくれる。
「わあ、すごい……。ここ、見たこともない果物がいっぱい!」
ルビーに案内されて森のさらに奥へ進むと、そこはまさに実りの宝庫だった。
王都の市場でもめったに見かけない『虹色のリンゴ』や、一粒で一週間は疲れが取れると言われる『太陽のベリー』が鈴なりに実っている。これならリオンの入院費も、思っていたより早く貯められるかもしれない。
不思議なことに、森の奥へ行けば行くほど、恐ろしい魔物の気配は消えていった。
たまに体長3メートルはありそうな大きな狼と目が合うけれど、ルビーが「きゅい!」と一声鳴くと、向こうは「おっと失礼」と言わんばかりに道を譲ってくれる。
「ルビーって、もしかしてこの森の顔役なの?」
私が笑って聞くと、ルビーは得意げに胸を張った。
どうやらこの森の奥は、一種の『聖域』になっているらしい。悪意を持たない者には、森そのものが味方をしてくれるような、不思議な安心感に満ちていた。
「よく来たな、生命の光を持つ子よ」
静かな湖畔に出た時、透き通るような声が響いた。
水面からふわりと現れたのは、淡い緑色の髪を持った美しい青年――この森の守護者である精霊、ザイスだった。
ルビーが私の肩から飛び降り、ザイスの足元で親しげに跳ね回る。
それを見たザイスは、穏やかな微笑みを浮かべて私を見つめた。
「カーバンクルが人間を連れてくるとは珍しい。……だが、君の持つ魔力を見て納得したよ。君はこの森の一部、いや、生命そのものの化け身のような存在だ」
精霊であるザイスには、私の力が『生命魔法』であることが筒抜けらしい。
私は思い切って、ずっと胸に支えていた悩みを打ち明けてみた。
「あの、ザイスさん。……眠り続ける弟を助ける方法は、ありませんか?」
私はリオンのこと、あの日覚醒した光が彼を包み、それからずっと目を覚まさないことを必死に話した。森の守護者である精霊なら、何か知っているかもしれないと思ったんだ。
ザイスはしばらく沈黙し、私の話を聞き終えると、悲しげに目を伏せた。
「……すまない。私の知識を持ってしても、その弟君の状態を解き明かすことはできない」
「そんな……」
「君の魔法は、確かに彼の肉体を完璧に繋ぎ止めている。だが、人間の『意識』や『魂』の領域は、我ら精霊にも踏み込めない深淵だ。彼がなぜ目覚めないのか、どうすれば戻れるのか……今の私には答えられない」
膝から崩れ落ちそうになった私を、ルビーがそっと足元で支えてくれた。
精霊でも分からない。その事実は、重く私の心にのしかかる。
「だが、諦める必要はない。君の魔法が彼を生かしている限り、可能性はゼロではないのだから。この森の素材を使い、君の魔法を磨き続けなさい。いつかその光が、彼の心の奥底まで届く日が来るかもしれない」
「……はい。ありがとうございます」
私は顔を上げ、涙を拭った。
今はまだ答えが見つからなくても、リオンを救うためにできることは全部やる。
聖域の豊かな実りと、不思議な仲間たち。
私の「魔女」としての修行は、ここから本格的に始まっていくことになった。




