表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『絶望の夜に覚醒した治癒魔法~眠り続ける弟を救うため、私は森の奥で「魔女」になる~』  作者: 沼口ちるの


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

4/18

第4話:王都の剣と盾、そして生命の胎動

王都の中心にそびえ立つ、聖騎士団本部の執務室。

山積みになった書類から顔を上げ、聖騎士団長レイナは深くため息をついた。若くしてトップに上り詰めた彼女の美貌には、明らかな疲労が滲んでいる。


コンコン、と気の抜けたノックの音が響き、返事をする前にドアが開いた。


「よぉ、団長様。相変わらず書類と睨めっこか?」

「……遅いですよ、副団長。午後のパトロールの報告書はどうなっているんですか?」


入ってきた無精髭の男――副団長レオンハートをギロリと睨みつけるが、彼は全く堪えた様子もなく、ソファにどっかりと腰を下ろした。


「まあ固いこと言うな。路地裏で小銭稼ぎをしてたチンピラ共を少し掃除しただけだ。報告書なんて紙の無駄だろう」

「あなたがそうやってサボるから、私の仕事が増えるんですよ……まったく、昔から変わらないんだから」


レイナは眉間を揉みながら愚痴をこぼす。

『団長』と『副団長』。階級で言えばレイナの方が上だが、二人のやり取りはどう見ても逆転していた。


それもそのはずだ。レイナにとってレオンハートは、十年前から剣と戦術を叩き込まれた直属の『師匠』なのだから。

実力だけで言えば、レオンハートは現役の騎士団の誰よりも強い。レイナ自身、未だに模擬戦で彼から一本を取れたことがない。それでも彼が副団長に留まり続けているのは、本人が「書類仕事は性に合わん」「上に立つ器じゃない」と昇格を固辞し続けているからだった。


「で? ただサボっていたわけじゃないんでしょう?」


レイナがペンを置き、真剣な眼差しを向ける。レオンハートがわざわざ執務室に顔を出す時は、大抵ろくでもない事態の報告と相場が決まっているからだ。


「……ちょっと、面白いものに遭遇してな」

「面白いもの、ですか?」


レオンハートは目を細め、窓の外の青空を見つめた。


「ああ。路地裏で、とんでもない魔力の揺らぎを感じた。……おそらく、『生命魔法』の欠片だ」

「なっ……!?」


レイナがガタッと音を立てて立ち上がる。


「古代魔法の……? まさか。回復魔法すら失われているこの時代にですか? 誰が、どこで?」

「さあな。俺が駆けつけた時には、魔力の残滓しかなかった。ただの魔力溜まりの暴走かもしれんがな」


レオンハートはあえて嘘をついた。

あの路地裏で出会った、弟を救いたいと願う小さな少女。あの規格外の光を放つ原石を、国や教会の連中に見つかるわけにはいかない。あの子は、自分自身の足で歩かせるべきだ。


「だが、ただの暴走にしては純度が高すぎた。……レイナ、時代が動く前兆かもしれんぞ」

「時代が……」

「お前も、団長という肩書に胡座をかかず、しっかり剣の素振りを続けておけよ。平和な時代はそう長く続かん」


ソファから立ち上がり、ヒラヒラと手を振りながらドアへと向かうレオンハート。

その背中を見て、レイナは無意識に背筋を伸ばし、最敬礼の姿勢をとっていた。


「はいっ、師匠! ――あっ、じゃなくて、レオンハート副団長!」


言い直した時には、すでにドアはパタンと閉じられていた。

残されたレイナは少し赤くなった顔を覆いながら、再び山積みの書類へと向き直るのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ