第3話:路地裏の遭遇と、生命を司る力
魔法具店を出て、辺境の『迷いの森』へと向かう道すがら。
王都の外れの人通りの少ない路地で、私はガラの悪い男たちに囲まれていた。
「おい姉ちゃん、一人か? そのデカいリュック、高く売れそうなもん入ってんなぁ」
「大人しく置いてけよ。怪我したくねえだろ?」
昼間とはいえ、薄暗い路地裏。先日の野盗の記憶がフラッシュバックし、足がすくむ。
(どうしよう、魔法を……でも、店主のおじいさんに言われたばかりなのに)
誰にも見られてはいけない力。だけど、このままじゃ有り金も持たせてもらった道具も全部奪われてしまう。
私がギュッと目を瞑り、手の中で光をくすぶらせたその瞬間だった。
「――おい。弱い者いじめで小銭稼ぎとは、王都の治安も落ちたものだな」
低く、だがよく通る渋い声が響いた。
目を開けると、男たちの背後に長身の剣士が立っていた。少し無精髭を生やした四十代くらいの男で、使い込まれているが上等な聖騎士の外套を羽織っている。
「あぁ!? なんだオッサン、引っ込んで……ぐはっ!」
男が剣を抜くよりも早く、騎士の男は流れるような身のこなしで男たちの懐に潜り込み、次々と拳を叩き込んだ。あっという間に全員が地面に這いつくばる。
「ひぃっ、こ、こいつ聖騎士団のレオンハートだ!」
「逃げろっ!」
男たちは這うようにして路地から逃げ去っていった。
「怪我はないか、嬢ちゃん」
「あ、はい……助けていただいて、ありがとうございます。あの、レオンハートさん、ですか?」
「ああ。聖騎士団で副隊長をやっている。……っと、そんなことより嬢ちゃん。今、とんでもない力を漏らしかけていなかったか?」
レオンハートは鋭い、だが探求心に満ちた目で私の手を見つめた。
「え……」
「隠さなくてもいい。俺は趣味で独自に古代魔法の研究をしていてね。魔力の波長には敏感なんだ。君のそれは……失われたはずの『回復魔法』だな?」
まさか、発動する前に見抜かれるなんて。私が警戒して後ずさると、彼は苦笑して両手を上げた。
「安心してくれ、上に報告したりはしない。ただ、少し忠告しておきたくてな。君の持つその力は、ただ傷を治すだけの代物じゃない」
「傷を治すだけじゃない……?」
「ああ。世間では回復魔法と呼ばれているが、古代の文献によれば、それはさらに上位の『生命に準ずる最高等魔法』……すなわち『生命魔法』の、ほんの上澄みに過ぎない」
生命魔法。その響きに、私は思わず息を呑んだ。
「命そのものに干渉し、世界の理すら覆す力だ。扱いを間違えれば、すべてを狂わせる。……だからこそ、君のような子供が不用意に晒していい力じゃない。隠し通すつもりなら、徹底的に隠せ。少しでも漏れれば、嗅ぎつける奴は俺以外にもいるぞ」
街の噂で聞いたことがある。聖騎士団の副隊長レオンハート。
その実力は現隊長を遥かに凌ぐものの、『力があるだけで上に立つべきではない』と昇格を辞退し続け、二十年以上も副隊長に留まっているという変わり者のベテラン騎士。
そんな凄い人が、見ず知らずの私を気遣ってくれている。
ふと、弟の『リオン』と名前が似ていることに気づき、私は少しだけ彼に親近感を覚えた。
「……ありがとうございます、レオンハートさん。私、絶対に秘密にします」
「行くあてがないなら、騎士団で保護もできるが?」
「いえ、大丈夫です。私、どうしても行かなきゃいけない場所があるので」
「そうか。気を付けてな」
レオンハートに見送られながら、私は再び歩き出した。
生命魔法の上澄み。自分の力がそんな恐ろしいものだとは知らなかった。でも、命そのものに干渉する力なら……いつかリオンを深い眠りから目覚めさせることも、絶対にできるはずだ。
その希望を胸に、私は目的の地である『迷いの森』へと足を踏み入れたのだった。




