第2話:親切な魔法屋と、壊れた水晶
リオンの入院手続きを終えた私には、早急に解決しなければならない問題があった。
「拠点」と「稼ぎ口」だ。
王都の物価は高く、今の私の手持ち資金ではとてもじゃないが宿屋に泊まり続けることはできない。それに、リオンの莫大な生命維持費を稼ぐためには、高価な素材が採れる危険な場所へ出向く必要がある。
でも、私には戦う力なんてない。あるのは、あの夜に突然目覚めた「人を治す光」だけだ。
自分の力が一体どれほどのものなのか、どう使えばいいのかを知るため、私は王都の路地裏にある古びた魔法具店へと足を踏み入れた。
カラン、とドアベルが鳴る。
「いらっしゃい。……おや、随分と可愛らしいお客さんだね」
カウンターの奥から顔を出したのは、片眼鏡をかけた白髭の優しそうなおじいさんだった。
私は事情――両親を亡くし、弟が入院していること、そして自分の魔法の力が知りたいこと――をかいつまんで話した。ただし、致命傷を一瞬で治したことは伏せておいた。なんとなく、口外してはいけない気がしたからだ。
「なるほど、弟さんのためにね……。よし、おじさんが少し見てあげよう」
店主はそう言うと、奥からソフトボール大の透明な水晶玉を持ってきた。
「これは魔力測定器だ。これに触れて、少しだけ魔力を流してみなさい。君の魔法の適性と、魔力量が色と光の強さで分かるはずだよ」
「はい、やってみます」
私は言われた通り、両手でそっと水晶玉に触れた。
あの夜、リオンを包み込んだ温かい光を思い出しながら、ほんの少しだけ力を込める。
カッ!!
その瞬間、店の中が真昼の太陽を直接見たような、暴力的なほどの黄金の光に包まれた。
「なっ……!?」
ピシッ、ピキキキキッ!!
光の中心から不穏な音が響いたかと思うと、次の瞬間、パーン!という破裂音と共に魔力測定器が粉々に砕け散った。
「きゃっ!?」
「……信じられん」
光が収まった後、呆然とする私の前で、店主は震える手で砕けた水晶の破片を拾い上げた。
「あ、あの! すみません、私、弁償……!」
「いや、いい。これは古い安物だからね。……それよりお嬢ちゃん、君、今までに誰かにその力を見せたことはあるかい?」
店主の顔つきが、先ほどの優しいおじいさんから、真剣な大人の顔に変わっていた。
私は首を横に振る。弟の担当医は回復した結果を見ただけで、実際に光を出しているところは見ていない。
「……よかった。いいかい、よく聞きなさい。君のその光は『治癒魔法』だ。それも、神話の時代にしか存在しなかったと言われるほどの、規格外の純度と出力を持っている」
「規格外……」
「もしその力が王宮や教会の知るところになれば、君は一生、権力者たちの道具として鳥籠に閉じ込められることになるだろう。最悪の場合、弟さんの命を交渉材料にされるかもしれない」
背筋に冷たい汗が伝う。
もし、この人が悪い大人だったら、今すぐ私を捕まえてどこかに売り飛ばしていたかもしれない。最初に相談したのがこの店主で、本当に運が良かった。
「お嬢ちゃん、家を探していると言っていたね。……なら、王都の人間が決して近づかない、辺境の『迷いの森』の奥がいい」
「あそこは、危険な魔物が出るから誰も行かない場所ですよね……?」
「そうだ。だが、君のその桁外れの治癒の魔力は、生命力そのものだ。魔物に襲われても、その光を放てば大抵の生物は戦意を喪失するだろう。それに、森の奥なら誰にもその力を見られることはない」
店主は店の奥から、古い地図と使い込まれたサバイバルナイフ、それにいくつかの日用品を引っ張り出してきて、私のリュックに押し込んだ。
「森の浅い場所なら、高価な薬草も生えている。それに、昔変わり者の魔女が住んでいたという空き家の小屋があるはずだ。そこを使いなさい」
「でも、これ、お金が……」
「出世払いだ。弟さんが元気になったら、二人で店に顔を見せに来ておくれ」
ウインクをして笑う店主に、私は深く、深く頭を下げた。
「ありがとうございます……! 絶対に、弟を助けてみせます!」
こうして私は、親切な魔法屋の店主の助言に従い、王都から遠く離れた辺境の森へと向かうことになったのだ。




