第17話:三人の天才の再会と、王座への軌跡
深淵の地から帰還した俺たちは、その足で王都の最奥、国王の執務室へと向かった。
もちろん、正面から入れば大騒ぎになる。レオンハートの空間転移と、新しく加わったアヤのさらに精密な空間干渉を組み合わせ、俺たちは誰にも気づかれずに王の目の前へと「出現」した。
「……誰だっ!?」
机に向かっていたアルベルト王が、鋭い動きで傍らの魔導杖を手に取る。だが、そこに立つ顔ぶれを見た瞬間、杖が床に落ちる高い音が響いた。
「よぉ、アル。……約束通り、連れ戻してきたぜ」
レオンハートが少し照れくさそうに笑う。その隣で、十数年前と変わらぬ姿のアヤが、不敵な笑みを浮かべていた。
「相変わらず、警備がザルね。これじゃあ私がいない間に、暗殺でもされてるんじゃないかと心配したわ」
「……あ……ア、ヤ……?」
知の王として、常に冷静沈着だったアルベルトの瞳が大きく揺れ、やがて涙が溢れ出した。彼は椅子を蹴るようにして立ち上がり、アヤの元へ駆け寄った。
「本当に、君なのか……? 夢じゃないんだな……!」
「ええ、夢じゃないわ。この子が……エリアが、私を引っ張り出してくれたの」
アヤが俺の肩を抱く。アルベルト王は俺を見て、深く、深く頭を下げた。
「エリア……。君には、感謝してもしきれない。私の、そしてこの国の最大の喪失を、君が埋めてくれた」
しばらくの間、三人は旧交を温めていた。
俺は少し離れた場所で、ルビーを撫でながらその様子を見ていた。
かつて、アルベルトは第三継承権を持つだけの、王座からは遠い王子だった。魔法の知識は群を抜いていたが、政治的な後ろ盾は乏しかった。
それを変えたのが、アヤを失った後の彼の「執念」と、レオンハートの「武力」だった。
古代魔法を追い求めながら、この国を二度とあんな悲劇が起きない場所に作り変える。その一心で、二人は協力して政敵を退け、今の平和な王国を築き上げたのだ。
「……ところでアヤ。君、その手に持っている『黒い球体』は何だい? 空間魔法の極致に見えるのだが」
アルベルトが、アヤの手の中で回る空間の断層に気づく。
「これ? 向こうで暇だったから、空間そのものを弄って遊んでたのよ。今は、半径数キロ以内の空間なら、私の意志一つで切り刻むことも、別の場所に繋げることもできるわ」
「……はは、相変わらずだね。私が一生かけて研究してきた理論を、感覚だけで超えていく」
アルベルトは苦笑しながらも、どこか嬉しそうだった。
「さて、アル。昔話はこれくらいにして、本題だ」
レオンハートが真剣な顔になる。
「エリアがアヤを救ったことで、希望が見えた。アヤの空間魔法と、エリアの生命魔法。これなら……あの病院で眠り続けるリオンを救えるかもしれない」
その言葉に、部屋の空気が一気に引き締まった。
アヤが見てきた「時間の流れない空間」。そして俺が持つ「命の根源」。
ついに、物語は弟・リオンを救い出すための、最後のピースを揃えようとしていた。
「よし、今すぐ病院へ向かおう。……王の権限で、最上階を貸し切りにする」
アルベルトの号令で、俺たちは病院へと急いだ。
リオンが、あの温かい笑顔で「お姉ちゃん」と呼んでくれる日が、すぐそこまで来ている。俺はそう確信して、握りこぶしを強く固めた。




