第14話:遺志を継ぐ旅路、深淵への入り口
「……いいかエリア。ここから先は、これまでの『森』とはワケが違うぞ」
迷いの森の境界線。レオンハートさんは、いつになく真剣な表情で私の目を見つめた。
背中には、空間魔法で収納しきれないほどの予備の装備と、あの使い込まれた大剣。その横には、静かに佇む精霊ザイスさんの姿もある。
私たちが目指すのは、王国の最南端にある禁忌の地――『深淵の大地』。
アヤという天才が消え、レオンハートさんと王様が古代魔法を追い求めるきっかけとなった場所だ。
「精霊の私でも、その地の底に何が眠っているのかは計り知れない。だが、エリア。君の弟君を目覚めさせる手掛かりがあるとするならば、そこしかないだろう」
ザイスさんの言葉に、私は強く頷いた。
本当は、レイナさんも「私もお守りします!」と着いてこようとしたのだけれど、騎士団長が長期間不在にするわけにもいかず、泣く泣く王都へ戻っていった。王様だって、国を放り出して冒険に出るわけにはいかない。
二人からは、出発の前に特別な魔導具と、そして「必ず生きて帰れ」という重い伝言を預かっている。
「行こう。……リオンを、助けるために」
***
数日間の旅を経て、私たちはついにその場所に辿り着いた。
そこは、空が常に薄暗い雲に覆われ、植物さえもねじ曲がった奇妙な色をした荒野だった。空気は重く、肌を刺すような魔力の残滓が絶え間なく流れている。
「……ここか。十数年ぶりだが、相変わらず胸糞悪い空気だぜ」
レオンハートさんが忌々しそうに吐き捨てる。
彼の視線の先には、大地にポッカリと開いた巨大な亀裂があった。まるで世界そのものが傷口を開いているような、底の見えない大穴。それが『深淵』の入り口だ。
「エリア、俺の後ろから離れるな。ザイス、周囲の警戒を頼む」
「承知した。……来るぞ、エリア。ここからは生命の理が通用しない、異界の領域だ」
ザイスさんの警告と同時に、私はルビーをぎゅっと抱きしめた。
穴の底から、聞いたこともないような不気味な咆哮が風に乗って響いてくる。
一歩、足を踏み入れる。
その瞬間、私の内側にある黄金の光が、何かに反応するように激しく脈打った。
(温かい……? いや、これは、悲しんでるの……?)
私の『生命魔法』が感じ取っているのは、この地に渦巻く絶望か、それとも――かつてここで散った、誰かの記憶なのか。
「……アヤ。今度は、逃げずに最後まで見届けてやるからな」
レオンハートさんの小さな呟きは、暗い穴の中へと吸い込まれていった。
失われた古代魔法の真実、そして弟リオンを救うための鍵。それらを求めて、私たちは光の届かない深淵の底へと、ゆっくりと降りていった。




