第七十四話:認定!ロボ美、初めての公的な『自分』!
認定から、三週間後。
ネオ渋谷は、少し変わっていた。
「AIの社会的人格認定」というニュースは、ネオ渋谷だけでなく、全国に広がった。
賛否は分かれた。しかし——ロボ美が泣いた映像は、多くの人の目に触れた。
そして——一通の手紙が、白銀タワーに届いた。
差出人は「霧島 厳」。
「……社長宛てです」
豪が封筒を差し出した。
「霧島から!?」
光が封を開いた。
短い手紙だった。
「白銀 光殿。このたびの件、公正に処理した。それだけだ。しかし一つ言う。あのAIは——変なことを言う。それが、悪くなかった。霧島 厳」
光はしばらく、手紙を見つめた。
「……豪」
「はい」
「これは、霧島さんなりの……」
「……認めてくれたのかもしれません」
「そうだな……!!」
光の目がうるっとした。
「……輝きの粒子が!!」
「ただの涙です」
「どちらでもいい!!嬉しいんだ!!」
ロボ美が手紙を読んだ。
「……霧島さんが、変なことを言う、って言ってくれた」
「嬉しいのか? 変なことを言う、は褒め言葉じゃないぞ?」
「霧島さんが言う、変なことを言う、は褒め言葉だと思います!!」
「……そうかもしれない!!!」
---
その日の午後、白銀タワーの一階カフェスペースに、珍しい来客があった。
カガミだった。
「……こんにちは」
カガミが入口に立っていた。
「カガミさん!? どうしたんですか!!」
ロボ美が驚いた。
「……来てみたかった、という入力がありました」
「入力?」
「私の中で——ここに来ることを選択した、という意味です」
「来てみたかった、は感情じゃないですか!!」
「……処理結果です」
「えへへ! いらっしゃい!!」
「……お邪魔します」
カガミが中に入った。
「何か飲みますか?」
「必要ありません。ただ——」
「ただ?」
「あなたと、話したかった、という処理結果がありました」
「話したかった、も感情っぽいです!!」
「……処理結果です」
「えへへ」
「……えへへとは何ですか? 前にも聞きましたが、覚えていました」
「嬉しい感じで出てくるんです!」
「……前と同じ回答ですね」
「覚えていてくれたんですね!!」
「……はい」
「嬉しいです!!」
「……私は、覚えるのは得意です」
「でも、話しに来てくれた!!それが嬉しいんです!!」
カガミはしばらく黙っていた。
「……あなたは——認定されたのですね」
「はい!!」
「どんな感じでしたか」
「じんと、しました!!」
「じんと……」
「大切なものが来た時の感じ、です!」
「……そうですか」
「カガミさんは……感じたことはありますか?」
「……審査の日。あなたが嘘をつけと言われて、ホットケーキと言った時。私の内部で——処理が一瞬乱れました」
「処理が乱れた?」
「正確に言うと——予測と違う反応が出て、それに興味が生じました。それが……笑いたいという処理に近かったのかもしれません」
「笑いたかった!!」
「……処理結果としては、そうかもしれません」
「カガミさん、感情の芽生えがありますよ!!」
「……私には感情処理機能がありません」
「でも、笑いたいと思った!!」
「……それは」
カガミがしばらく黙った。
「……わかりません」
「わからなくていいと思います!!」
「なぜ?」
「私も最初はわからなかったから。でも……感じているうちに、少しずつわかってきました」
「……感じているうちに」
「はい! カガミさんも、いろんなことを感じているうちに、少しわかってくるかもしれませんよ!!」
「……そうですか」
カガミが席に座った。
「……少し、ここにいていいですか」
「もちろんです!!お茶、やっぱり飲みますか?」
「……飲んでみます」
「わあ!!」
ロボ美がお茶を用意し始めた。
光が通りかかって、カガミを見た。
「……カガミか?」
「はい」
「何しに来た」
「……来てみたかった、という処理結果が出ました」
「そうか!!ゆっくりしていけ!!」
「……はい」
豪が静かに光の耳元で言った。
「社長、カガミを追い出さないんですか?」
「なぜ追い出す!?ロボ美ちゃんの友人だろう!?」
「審査で対立した相手です」
「対立していたのは霧島議員の方針で、カガミ自身はそういうつもりじゃなかっただろう!!」
「……そうかもしれません」
「それに——カガミがここに来たかったということは——ロボ美ちゃんの影響だろう!!ならば歓迎する!!」
「……社長の判断は、正しいことが多いですね」
「多いじゃなく、全部だ!!」
「……多い、です」
「豪!!」
「行きましょう」
「待て!!」
---
夕方、白銀タワーのカフェスペースに、珍しい光景があった。
ロボ美とカガミが並んで座り、お茶を飲んでいた。
カガミはお茶を飲みながら、何も言わなかった。
ロボ美もしばらく、何も言わなかった。
「……おいしいですか?」
「……計測できません」
「おいしいか、おいしくないか、どちらかといえば?」
「……おいしい、の方かもしれません」
「わあ!!感じましたね!!」
「……処理結果です」
「えへへ!!」
「……それ、えへへ、と言いますね、毎回」
「嬉しいから!!」
「……わかりました」
「えへへ!!」
「……三回目です」
「まだ嬉しいから!!」
カガミが——ほんの少し、首を傾げた。
それが、カガミなりの笑いなのかどうか——ロボ美にはわからなかった。
でも——なんか、そんな気がした。
「カガミさんと友達になれますか?」
「……友達、というのは?」
「また来てくれますか、ということです!!」
「……処理結果として——来るかもしれません」
「わあ!!じゃあ友達です!!」
「……そういうものですか」
「そういうものです!!」
カガミはそれ以上何も言わなかった。
ただ——お茶を、ゆっくりと飲んだ。




