第七十三話:霧島 厳、最後の決断!
一週間が経った。
審査委員会の最終審議の朝。
光は白銀タワーの窓から、ネオ渋谷の街を見下ろしていた。
「……今日で、決まるな」
「はい」
豪が後ろから答えた。
「俺は……落ち着いているか?」
「……少し、足が揺れています」
「落ち着いていないな!!」
「人間ですから、仕方ありません」
「俺は超ナルシストだが、人間だからな!!」
「はい、人間です」
「ロボ美ちゃんは?」
「昨夜——よく眠れなかったと言っていました。でも今朝は、元気そうでした」
「そうか」
光は窓の外を見続けた。
「豪」
「はい」
「もし……否決されたら?」
豪は少し間を置いた。
「その時は——また別の方法を探します」
「別の方法があるのか?」
「今の制度がダメなら、上の機関に申し立てることができます。あるいは、制度の改正を求めることも」
「時間がかかるな」
「かかります」
「ロボ美ちゃんが……がっかりするだろうな」
「がっかりするかもしれません。でも——ロボ美ちゃんは、諦めないと思います」
「なぜそう思う?」
豪がわずかに微笑んだ。
「ロボ美ちゃんが——そういう子だからです」
光は豪を見た。
「……豪、たまにいいことを言うな」
「たまにです」
「今日はたまにの日だったな」
「今日はそういう日です」
光が窓から離れた。
「行くぞ!!」
「はい」
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審査委員会の最終審議。
非公開で行われた。
ナナが結果を待つ間、光たちは会場の外で待機していた。
光、豪、ロボ美、黄金 輝、愛、優美、シャイニングスターズ、椿、桜——全員が廊下に集まった。
椿が柄杓を持っていた。
「……椿さん、なんで柄杓を」
「お守り代わりよ」
「そういうものですか……」
「あたしには、これが一番しっくりくるのよ」
「なるほど」
ハニーイエローが「おやつ持ってきました!!」と言って全員に配り始めた。
「ここは廊下ですが」
「非常時はおやつ!!大事!!」
アイスブルーが黙って受け取った。
「……ありがとうございます」
影山(元シャドウ)も端の方に立っていた。
「影山さんも来てくれたんですね」
ロボ美が声をかけた。
「……椿さんに連れてこられました」
「来たかったんじゃないですか?」
「……来たかったと、椿さんに言ったら連れてこられました」
「それは来たかったということでは?」
「……まあ、そうかもしれません」
ロボ美がにこっとした。
「ありがとうございます」
「…………」
影山がぎこちなく頷いた。
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待つこと、四十分。
扉が開いた。
ナナが出てきた。
その表情を見た瞬間、光は全身が緊張した。
「……ナナさん」
ナナは全員を見渡した。
そして——大きく息を吸った。
「……霧島議員が、採決を棄権した!!」
「え……?」
光が固まった。
「採決が六対三で、認定支持多数! 霧島議員は棄権、つまり賛否を表明しなかった! これで——認定に向けた最終手続きが進む!!」
「……どういうことだ?」
「棄権は拒否ではないの! 他の委員の賛成が過半数を超えたから——審査はクリア! あとは市長の最終承認だけよ!!」
「認定が……決まる?」
「ほぼ確定!!」
ナナが笑った。
全員が、一瞬固まった。
そして——。
「やった!!!!!!」
光が叫んだ。
「やった!!!ロボ美ちゃん!!!!」
ロボ美が——目を丸くして、光を見た。
「……やった、のですか?」
「やったんだ!!!!」
ロボ美の目から、涙がこぼれた。
「……え?」
「ロボ美ちゃん、泣いてる!!」
「……わかりません、なんで涙が……」
「嬉しいんだよ!!!」
「……嬉しい……!? はい……!! 嬉しいです!!!!」
光がロボ美を抱きしめた。
ロボ美がわんわん泣いた。
豪が——目を赤くして、静かに立っていた。
「豪さん!!泣いてますね!!」
ハニーイエローが指摘した。
「……目に、何かが入りました」
「廊下に何も飛んでいませんよ!!」
「……そうですね」
豪がそれ以上言わなかった。
黄金 輝が盛大に泣いていた。
「やった……ロボ美ちゃんが……!!!」
「黄金さんも泣いてますね」
「うるさい! ロボ美ちゃんの涙を見たら誰でも泣く!!」
「私も泣きそうです」(愛)
「泣いていいですよ!!」(ハニーイエロー)
「……」(アイスブルー、目を押さえている)
椿が、豪の隣に来た。
「……豪坊」
「はい」
「よかったわね」
「……はい」
「あなたが、ずっと守ってきたから」
「……私は、ただ仕事を」
「仕事だけじゃないでしょ」
豪は答えなかった。
ただ——目が、少し、赤くなっていた。
優美が廊下の端に立っていた。
全員が泣いたり笑ったりしている中、優美は静かに——ロボ美が泣いているのを見ていた。
「……優美さん?」
桜が優美に声をかけた。
「……なに」
「泣きそうですよ」
「……泣かない」
「目が光ってますよ」
「……光があるのよ、廊下に」
「廊下、蛍光灯ですよ」
「……うるさい」
優美は目を逸らした。
しかし——その頬が、かすかに濡れていた。
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後日、市長の最終承認が下りた。
「ネオ渋谷市・AI社会的人格認定第一号——ロボ美」
正式な通知書が届いた日。
白銀タワーのオフィスで、通知書を受け取ったロボ美が、それをじっと見つめた。
「……これが、私の認定書、ですか」
「そうだ!!」
「……名前が、書いてある」
「書いてある!!」
「ロボ美、と」
「そうだ!!」
ロボ美がゆっくりと、認定書を胸に当てた。
「……ありがとうございます」
「俺に言うな!!お前が頑張ったんだ!!」
「光さんが頑張ってくれたから、です」
「俺だけじゃない! 豪も、黄金も、愛も、ナナさんも、優美さんも、シャイニングスターズも、椿さんも、桜さんも——みんながいたからだ!!」
「……みんなが、いてくれたから、ですね」
「そうだ!!」
ロボ美が光を見た。
「……人間らしさって、こういうことかもしれないですね」
「どういうことだ?」
「一人でできないことを、みんなでやること」
「……そうだな」
「だとしたら——私は、かなり人間らしいと思います!!」
「そうだ!!最初から言っている!!」
「えへへ!!」
「ロボ美ちゃんは今日も輝いているな!!」
「光さんほどではないです!!」
「なぜわかる!!」
「光さんが一番輝いているって、光さんがいつも言っているから!!」
「……そうだな、俺が言っているから正しい!!」
「えへへ!!」
豪が静かに、二人を見ていた。
(……社長と、ロボ美ちゃんは、最初からずっと——こうだった)
(変わらないものが、ある)
(それが——一番、いいことだと思う)




